42話 野兎の罠と魔物
長めの休憩をとって、気持ちを落ち着かせる。
それにしても若い冒険者からむしり取るなんて、何ともせこい集団だ。
見た目だけで言えば、中級レベルの冒険者に見えたのに。
あっ、でも雰囲気が他の冒険者と少し違ったかな。
見た目で騙されないように注意しよう。
さて落ち着いた事だし、野兎の罠を仕掛けに行こうかな。
本によれば野兎は朝方動き回るらしい。
昼や夜はあまり動かないと書いてあったので、仕掛けの結果は明日の朝だな。
昨日作った野兎用の罠は4個。
それをバッグに入れて森へ向かう。
ソラ専用のバッグの中を見ると、気持ちよさそうに寝ている。
マイペースのソラを見るとほっこりする。
癒しだ。
森の中にある程度入ってから、周りの気配を探る。
近くに、人の気配はないようだ。
ソラをバッグから出すと、腕の中で縦伸び運動を始める。
最近この動きが好きなようで、よくやっている。
気を付けて持っていないと、落としそうになる。
ソラを抱えたまま、木の根元や土に空いた穴など、野兎の痕跡を探していく。
1時間ほど探すと、小動物の糞を見つけることが出来た。
周りを確認すると、何かの足跡や木を削った場所などを発見。
足跡を確かめて、野兎の可能性が高いので、近くに罠を仕掛けて行く。
他にも似たような痕跡がある場所に、罠を仕掛ける。
全部の罠を仕掛け終わると、そのまま捨て場へ向かう。
野ネズミ用の罠を作る材料を探すためだ。
あと少しで捨て場という場所で、ソラが急に私の腕から飛び降りる。
驚いている間に、ピョンピョンと飛び跳ねて、捨て場とは違う方向へ行ってしまう。
「ソラ?」
急いでソラの後を追いながら周りの気配を探ると、少し離れた所に何かが居るのを微かに感じた。
それ以外の気配は近くには無いので、ソラはそちらに向かっているようだ。
何か感じる事でもあるのだろうか?
疑問に思いながら後を追うと。
「えっ!」
体を血で真っ赤に染めた、何か大きな動物が横たわっていた。
死んでいるのかと思ったが、微かに胸のあたりが上下しているので生きているようだ。
近づくと、私に気がついたようで牙をむいて威嚇してくる。
だが、かなり苦しそうだ。
動物だと思ったが、魔力を感じたのでどうやら魔物らしい。
近づくまで魔力に気が付かないほど弱っているようだ。
ソラは威嚇に全く動じることなく何を思ったのか、その怪我をした魔物の体を包み込んだ。
ん?
包み込んだ?
「ソラ!これは、えっと、あっ、いや!ふぅ、よし!……よくその大きさを包み込めたね?」
とりあえず、頭に浮かんだ疑問を口に出してみる。
目の前の怪我をした魔物は、大きさが2m以上あるように見える。
ソラが包み込める大きさではないと思うのだが。
完全に包み込んでいる。
正直、今気にすることではないと思うが、声を出したことで少し落ち着けた。
怪我をした魔物も、ソラの行動に少し慌てたようだが、しばらくすると落ち着いた。
おそらく痛みが引いたのだろう。
治療されていると気がついたのだろうか?
それとも私みたいに食べられると思って、諦めたのだろうか?
ソラからは、しゅわ~っと音が聞こえてくる。
これが治療なのか食事なのかは分からないけど、どっちにしても待つしかないようだ。
ソラは瀕死の怪我が好きなのだろうか……それはちょっと考えたくないな。
この状態を見られると何を言われるか分からないので、周りの気配には注意しておく。
……ただ、気配が近づいても逃げられないけど……。
それにしてもこの魔物、何なんだろう?
しばらくすると、ソラがぴょんと大きく跳ねて私の足元に来た。
「終わったの?」
「ぷっぷぷ~」
ちょっと鳴き方がアレンジされた。
ただ、相変わらず力が抜ける鳴き方だけど。
ソラから解放された魔物に目を向けて……固まった。
本で見た事がある、おそらくアダンダラだ。
森の中で遭遇したら死ぬと言われている魔物だ。
アダンダラは立ち上がって、ぐーっと体を伸ばしている。
逃げられるかな?
少し足を動かすと、すぐに視線がこちらを向く。
うっ、どうしよう……ソラ~。
「グルル」
喉を鳴らして近づくアダンダラに、ギュッと目を閉じる。
恐すぎる。
しばらく私の匂いを嗅いでいたアダンダラは、何を思ったのか頭にすりすりと顔を擦りつけて来た。
「?」
目を開けるとグルルッと鳴きながら頭にすりすりと顔を擦りつける。
もしかして助けたのが私だと勘違いしているのだろうか?
ソラに助けるように命令したと?
だから攻撃されずに済んでいるのかな?
どちらにせよ助かったみたいだ。
よかった~。
安心したら腰が抜け、その場に座り込んでしまった。
ソラはピョンピョンと飛び跳ねては、縦に伸びて遊んでいる。
「ソラ~」
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