表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/274

49.遭遇


 ホームセンターにて―――。


 西野と六花が入口に着いた時、既に状況は劣勢だった。

 数体のオークを相手に、学生たちと避難民は防戦一方となっている。

 

「みんな、大丈夫か!?」


「に、西野さん!」「コイツら強いです!僕達じゃ、とてもじゃないですけど対処しきれない……!」「どうすればいいんだ?」「くそ!こんなところで、死んでたまるかよおおおおお!」「来るなあああ、化け物どもめ!この!このおおおお!」


 二人が来たことに皆は安堵するも、その声には余裕はなかった。


(これは……不味いな……)


 ここから見える範囲だけでも、オークは十体以上居る。

 それに一体一体が強い。

 昨日戦ったゴブリンやレッサー・ウルフよりも遥かに。

 

(俺のクラスメイトはまだしも、避難してきたおっさん達にどうにかなる相手じゃない……くそ、まだ最低限のレベル上げすら済んでないのに)


 実際、既に避難民の何人かは武器を捨て、売り場の奥へ逃げ込んで震えていた。

 昨日からの連続で、既に心が折れているのだろう。

 

(くそっ……役立たず共め。普段は無駄に文句ばっか言うくせに、何の役にも立たないのか)


 こうなった以上、奥に逃げた避難民たちは戦力にカウントしない方がいい。

 かといって、今ここに居る人達だけで何とかできる程、この状況は甘くない。

 何より、一番気になるのは、あの後方に控えた赤銅色のオークだ。


(……明らかに他の奴とはレベルが違う。あれが、柴田の言っていたヤツか……)


 赤銅色のオークは、今は動く気配はなく、自分達を遠巻きに眺めている。

 西野の頬を冷や汗が流れた。

 マズイ、アレが動いたら『終わりだ』と、彼の本能が訴えていた。

 

「……六花」


「なあに?」


 西野は隣で鉈を構える六花に問いかける。


「あの赤銅色のオーク、相手に出来るか?」


「んー……」


 六花は気怠るげに返事をしながらも、後方に控えるオークの姿を見据える。

 ほんの数秒。

 そして、大きく息を吐いた。


「……ごめん、ニッシー。アレは無理だわ、死ぬ」


 普段と変わらない緊張感のない口調。

 だが、それは何よりも雄弁に今の状況、そして彼我の戦力差を物語っていた。


「最大まで『狂化』しても、無理か?」


「うん、無理。私じゃ勝てない」


「そうか……」


 六花がこうまで断言するのであれば、自分達に勝てる見込みはない。

 ならば、打つ手は一つだけだ。

 西野は覚悟を決め、叫んだ。


「みんな!作戦4だ!どうにかして、生き延びるぞ!」


「えっ!?」「うそ、4番……?」「マジかよ……」

「お、おい!ちょっと待て、そんな番号、俺は聞いてないぞ?」

「わ、私もよ!どういう作戦なの?」「何か手があるのか?」


 西野の声を聴き、反応はきれいに分かれた。

 すなわち、学生と避難民とである。

 西野は作戦を1~4で大雑把に分けていた。

 そして4番とは、彼の中で最悪の想定の一つ。


 すなわち―――『避難民を囮にして逃げる事』である。


 無論、この作戦を聞いているのは、彼と行動を共にしていた学生たちのみ。

 避難民たちには知らされていない。

 学生たちはその意味を知り、僅かに顔を曇らせた。

 避難民たちは、意味は分からないが、何か手があるんじゃないかと僅かに希望を抱いた。


「防衛を維持しながら、少しずつ店内に入るんだ!オークたちが店内に入ったところで作戦を実行する!裏口と窓だ!いいな!」


「りょーかい」


 六花は迷いなく頷いた。他の学生たちは僅かに逡巡した。


「お前ら!このままじゃ、死ぬぞ!絶対に生き延びるんだ!そうだろ!」


「「「……ッ!」」」


 西野の必死の叫びを聴き、学生たちも覚悟を決めた。

 避難民たちはその意味が分からず、ただ素直に従うだけである。


(……そうだ、死ぬわけにはいかないんだ。こんなところで、絶対にっ……!)


 彼らの決死の作戦が始まる。

 生き延びるための、他者を犠牲にする作戦が。




 一方、その頃―――。


 『嫌な感じ』が増えてるな……。

 俺たちは、シャドウ・ウルフの群れと、オークの群れに遭遇しない様に、慎重に街の中を移動していた。

 ゴブリンクラスならまだしも、オークやシャドウ・ウルフクラスのモンスターを群れで相手にするなんて、流石に今のレベルじゃ不可能だ。

 おまけに、オークの群れの方には、あのハイ・オークが居る。

 あの時は運よく見逃されたが、次もあんな幸運があるとは思えない。

 絶対に遭遇するわけにはいかない。


「位置的には、丁度二つの群れに挟まれてる感じか……」


 しかもどちらも鼻が利くモンスター。

 相性最悪だ。

 うまく切り抜けるにはどうすればいいだろうか……?

 考えながら、空を見上げると、どんよりと曇っていた。

 水滴が鼻に落ちる。


「……また雨が降って来たな……」


 ここ最近、雨が続いてる。

 本格的に降り出す前に、出来るだけ距離を稼いでおきたい。

 とりあえずは『嫌な感じ』がしない方向へ向かって進んでいくか。

 戦闘は最低限に済ませる様にしよう。


「……ん?」


 ふと見上げると、遠くの方から黒い煙が上がっているのが見えた。

 火事か?

 煙の大きさから言って、かなりの規模だ。

 

 あっちって確か、ホームセンターが在る方角だよな。

 オークの群れが向かっていった方角でもある。

 もしかして……。

 

 俺はちょっと気になり、イチノセさんにメールを送る事にした。

 彼女の居る高層マンションからなら、出火場所が分かるだろう。

 メール画面を開く。

 『未読』が一件あった。

 受信時刻を見ると、つい先ほど、送られてきたようだ。

 開いてみると、以下の様な内容だった。


『ホームセンターで火災があったみたいですね。オークの群れが向かってましたし、ホームセンターに避難している人たちと戦闘になった可能性が高いと思います。オークたちは積極的に人間を狩っているようですし、我々も気を付けなければいけませんね。あ、それはそうととパーティーの件は、まだ結論は出ないのでしょうか?よろしくお願いします』

 

 情報、早っ!

 俺が聞こうと思った事を、先に送って来たよ、このヒト。

 あと、さりげなくパーティーの件、急かしてやがる。

 ブレないな、この人……。

 

 でも、そうか……。

 やっぱりあの煙はホームセンターからか。

 それもオークの群れとの戦闘。

 ご愁傷さまとしか言いようがない。


「上手く逃げきれていればいいけど……」


 まあ、俺も他人の心配をしている余裕はないけど。

 『嫌な感じ』のする方向を避けながら、再び進んでゆく。

 途中から雨がひどくなってきたので、アカに『カッパ』に擬態して貰った。


「……ん?」


 雨の中移動していると、『索敵』に反応があった。

 モンスターではなく、人の気配だ。

 数は二人。

 場所は……近くの公園か。

 籠城してる人じゃなくて、外を出歩いてる人なんて珍しいな。

 少しだけ興味が湧き、俺は『索敵』の反応があった方へ向かった。

 

 そして、近づくにつれて違和感を覚えた。

 おかしい……。

 この人達、『索敵』の反応があった場所から、少しも動いていない。

 どういう事だ?


 反応のあった場所にたどり着く。

 ブランコとベンチだけがある小さな公園だ。

 その隅にある僅かな茂みに隠れる様に、その人たちは居た。


「あれって……」


 建物の陰に隠れながら、様子を窺う。

 見覚えのある顔だった。

 学生だ。

 一人は、西野君。

 もう一人は髪をサイドテールにまとめた女子高生。

 名前は……り……何だったっけ?

 まあ、いいや。

 ともかくだ。

 問題なのは、二人の状態だ。


「……ボロボロじゃないか」


 二人の姿は、離れていても分かる程にボロボロだった。

 特に女子高生の方は、かなり出血している。

 かなりマズイ状態だ。

 もしかしなくても、オークの襲撃にあって逃げてきたのだろうか?

 すると、西野君がこちらの方を向いた。


「……そこに、誰かいるんですか?」


知り合いの作家さんに「位置情報どうなってんの?」と聞かれたので、めっちゃ簡単な地図を作りました。

だいたいこんな感じです。適当です(逆に分かりずらい……orz)

ちなみにシャドウ・ウルフたちはどんどん中心部分へ移動してます

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 外伝】
▲外伝もよろしくお願い致します▲
ツギクルバナー
書籍7巻3月15日発売です
書籍7巻3月15日発売です

― 新着の感想 ―
[良い点] 地図すごく分かりやすかったです! 今、どきどきが最高潮だけど一旦落ち着けました(´˘`๑) 引きこもりマンション…凄いネーミングですw 続きも楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ