表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/274

31.遠吠え


 とりあえずは様子を見てみるか。

 シャドウ・ウルフの下位版……レッサー・シャドウ・ウルフってところか?

 長いな。レッサー・ウルフでいいか。

 初めて見るモンスターだし、なによりモモが魔石を食べて、『スキル』を得たモンスターだ。気にならないと言えば、嘘になる。


「うーっ……!」


 モモ、静かに。

 ……珍しいな、モモがこんなになるなんて。

 今まではどんなモンスターを見ても騒がなかったのに。

 どうしたんだろう?


「モモ、どうしたんだ?」

 

 訊ねると、モモは急に俺に体を擦り寄せてきた。

 しかもいつもより強めに。

 ぴったりくっ付いて離れない。

 夜は冷えるからすごく温かい……じゃなくて。

 

「……モモ、まさかとは思うが、俺があのレッサーウルフたちの事を、じっと見つめてたから不機嫌になった……なんて事はないよな?」


 するとモモは、ぴくんと反応した。

 そして「くぅーん」と寂しそうに鳴く。


 ……まさかの正解だった。


「いや、モモ。あれ、モンスターだから。別に飼おうと思って見つめてたわけじゃないからな?」


「くぅーん?」


 モモはほんとう?って感じで見つめてくる。

 ホント、ホント。

 俺はモモが居れば十分だから。

 アレ、ペットじゃなくて、モンスター。ただの経験値だからね。

 俺がそう言うと、モモはようやく納得してくれたようだ。

 離れる前に、もう一回身体を強く擦り付ける。

 可愛いなぁ、もう。


「―――と、いかん。よそ見をしてる場合じゃなかった」

 

 再びホームセンターの方へ視線を移す。

 レッサー・ウルフたちは、まだ駐車場の付近をウロウロしていた。

 用心深い性格なのか、見張りの居る入口には一定以上近づかないで、車の下に潜ったり、地面の匂いを嗅いだりしていた。


 見張りの学生二人は気付いていない。

 それどころか、呑気に欠伸なんてしてる。

 おいおい、もう少し危機感もてよ……。見張りの意味ないだろ。


 うーむ、バレていないのであれば、このまま狩ってしまうのも手か?

 『危機感知』の反応からみても、レッサー・ウルフの強さはそれ程でもなさそうだし。

 せいぜいゴブリンとホブ・ゴブリンの中間くらいだろうか。

 『影』のスキルがどの程度かは気になるが、おそらくそっちもモモの方が上だ。

 奇襲が成功すれば、間違いなく俺たちが勝つだろう。


 いや、でも、待てよ?

 そもそもレッサー・ウルフに、奇襲は成功するのか?

 俺の持つ『気配遮断』や『潜伏』は便利なスキルだが、『匂い』までは消す事は出来ない。

 それはモモで実証済みだ。

 あの手のモンスターは、嗅覚が優れてるってのがお約束だ。

 アイツらがモモと同等以上の嗅覚をもっているなら、近づいた瞬間に俺に気付かれる。

 奇襲という、俺の持つ最大のアドバンテージが生かせなくなる。


 ならば、このまま見て見ぬふりをするのが一番だろうか?

 その上で、彼らとレッサー・ウルフが交戦してる間に、混乱に乗じてホームセンターの物資を頂き、逃走する。

 我ながら呆れる位、下種な作戦だが、俺にとっては一番確実でメリットがある。


 というか、そもそもあの学生たちレベルってどのくらいなんだ?

 俺の現在のレベルは7。

 比較対象が無いから、それが高いのか、低いのか分からない。

 あの子達のレベルが分かれば、俺の立ち位置も把握できるんだけど。

 

 うーん、でも出来れば、あの子達にはまだ死んで欲しくはないんだよなぁ。

 別に情が移ったとか、食料の件で悪いと思ったとかではない。

 単純に、今後を考えれば、彼らには生きていてもらった方が、俺にとって都合がいいのだ。

 特に西野君とか言う学生は、かなりのリアリストだ。

 アイテムボックスの件で、警戒されたかもしれないが、上手く事を運べば共闘関係を築けるかもしれない。表だって接触はしなくても、連絡を取り合う方法はあるわけだし。


 ショッピングモールや、自衛隊の時のような、どうしようもない状況とはわけが違う。

 順調にレベルを上げてくれれば、彼らは良い感じの戦力になってくれるだろう。

 あのハイ・オークに対抗する為の。

 逃げるにしろ、戦うにしろ、戦力は多いに越したことはない。

 俺とモモだけでは出来る事に限界があるわけだし。


 ―――と、そんな風に俺が悩んでる間にも、レッサー・ウルフたちは動き出していた。

 駆け出し、学生たちの居る入口へと近づいてゆく。

 そこに来て、ようやく彼らもモンスターの存在に気付いたようだ。


「も、モンスターだあああああああああ!?」


「敵襲ッ!敵襲ゥゥゥゥッ!!」


 大声で叫び、中にいる仲間に伝える。

 既にレッサー・ウルフの牙は、目前まで迫っている。

 一人はギリギリで躱した。

 躱されたレッサー・ウルフはそのまま壁に激突する。

 その瞬間、見張り役の少年は、手に持った鉄パイプを叩きつけた。


「ゴアアアアア!」


「このっ!このおおおおお!」


 何度も何度も鉄パイプを叩きつける。

 堪らないと思ったのか、レッサー・ウルフは飛び跳ね、少年から距離をとった。

 もう一人の方は……?


 見れば、もう一人の少年は、腕に噛みつかれていた。

 叫び声をあげながら、必死に振りほどこうとするが、レッサー・ウルフは離れない。


「くっそ!そいつから、離れろおおおおおおお!」


 もう一人の学生が、噛みついていたレッサー・ウルフに鉄パイプを叩きつけて無理やり引き剥がした。

 鉄パイプを使っている姿が、妙に様になっているな。

 もしかして、杖術か棍術辺りのスキルだろうか?

 

「大丈夫か?」


「痛ぇ……痛ぇよ、うぅ……うぁぁぁ」


 噛みつかれた腕が、かなりひどい事になっていた。

 肉が抉れ、骨が見えている。

 四匹のレッサー・ウルフはじりじりと距離を詰める。

 二人の顔に焦りと恐怖が浮かぶ。

 

「二人とも、大丈夫か!」


 だがその瞬間、中から西野君が現れた。

 その後ろには、数名の学生たちの姿もある。

 見張りの少年たちの顔に安堵の色が浮かぶ。


「大野!二人を奥へ!急いで手当を!残りは防衛だ!」


「「「おうッ!」」」

 

 学生たちは各々武器を構え、レッサー・ウルフと対峙する。


「グルル……」


 しばらく両者は向かい合っていたが、数の不利を悟ったのか、レッサー・ウルフたちはゆっくりと後退し始めた。

 撤退するのか?

 だが、俺の予想は外れた。

 一体のレッサー・ウルフは首を上げ、空に向けて吠えたのだ。


「ウォォォオオオオオオオオオオオオオオン!!」


 それにつられるように、他のレッサー・ウルフたちも吠え始める。

 

「な、なんだ?」

「アイツら、何かするつもりか?」

「ハッタリだろ?今の内にやっちまおうぜ」

「まさか……急いでソイツらを倒すんだ!早く!」


 学生たちが訝しげな表情を浮かべる中、唯一西野君だけが、焦った表情になった。


 なんだ?

 何か知らんが、ヤバい気がする。

 その予感は正しかった。

 『索敵』に反応があった。

 モンスターの気配がする。ここに集まってきている。

 それも、一体や二体じゃない。

 どんどん増えていく。

 『危機感知』が警鐘を鳴らす。


 マジか。

 アイツら、仲間を呼びやがった……!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 外伝】
▲外伝もよろしくお願い致します▲
ツギクルバナー
書籍7巻3月15日発売です
書籍7巻3月15日発売です

― 新着の感想 ―
[気になる点] マジか、もなにも、犬系モンスターが吠えたら、そりゃ仲間がくるわ。 ゲームでもラノベでもありきたりだよね? 何でピンと来なかったんだろ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ