表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/190

第54話 素直になること



 虚構獄門が発動するギリギリのタイミングだったが、なんとか海に飛び込むことができた。

 魔術の発動範囲外へと逃れため出来るだけ水中の深いところまで潜り込んでみせるが、アルスが溺れるといけない。


 なけなしの魔力を使い、風属性魔術で周りに渦巻きを作り、体を海上へと押し上げる。


 海から顔をだし、いっぱいに空気を吸い込む。

 本当に死ぬかと思ったのだが、火事場の馬鹿力でなんとか生き延びることができた。


 元人格のロベリアなら、もっと合理的な方法で窮地を切り抜けたかもしれない。

 俺ではロベリアのようには、まだなれないか。


 ふと、どこからか大勢の声が聞こえた。

 声のする方へと視線を向けると、少し離れた先に二隻の漁船を見つける。


「ロベリア!」


 そこには、目を覚ましたエリーシャがいた。

 目を真っ赤にして、泣いている。


 みんな無事だ。

 俺は近づいてきた漁船へと手を伸ばした。


 引き上げられ、船の中で仰向けに倒れる。

 さんざん暴れた後に奥義を放って、アルスをここまで運んできたのだ。

 嫌でも疲れてしまう。


 深い呼吸を繰り返しながら空を見ていると、視界に空を飛んでいるボロスが映る。

 生首を掴んで、こちらに手をふっている。

 よく見てみるとエリオットの首だった。


 逃がしたかと思ったエリオットを、俺の見ていないところで殺してくれたのだ。

 あれでは宣言通り、役に立ってしまったじゃないか。


 ボロスのことは、まだ信用できない。

 けど確かに貢献してくれたので冷たくするのは、少しだけやめてやろう。


「……終わったな、全部」


 まだ、これからだというのに呑気なことを言ってしまった。

 英傑の騎士団と精霊教団が船とともに行方不明になった。

 バミューダトライアングルに侵入してしまったとか、アズベル大陸の方で勝手に勘違いしてくれれば楽なのだが、そう上手くはいかないか。

 それでも、この瞬間だけは終わったという達成感が欲しい。


「……良かった。生きててくれて!」


 エリーシャに抱きつかれ、胸のなかで泣かれてしまう。

 俺が死ぬはずないだろバーロー、なんて格好いい台詞を言える状態ではないので「……ああ」とだけ返す。


 ユーマも、その他の戦士たちもほっとした顔をしていた。

 涙を流す者までいる。

 俺が生きていたというだけで、この反応は嬉しい。


「てっきり間に合わないと思ったから心配で心配で……ロベリアのいない人生なんて考えられない……」


「……ラインハルがいるだろ?」


 そう言うと頭を小突かれた。

 冗談のつもりで言ったんだけど、乙女心はそうもいかないらしい。


「私は、これからもずっとロベリアと一緒に生きていきたいの……何回突き放されても絶対に諦めないから……だって」


 震える声でエリーシャは言葉を繋いでいく。

 気付いていた、ずっと前から気付いていたよ。


 だけど彼女の言う通り、いつも突き放そうとした。エリーシャには、エリーシャを必要としている主人公がいるから。


 だから、俺も諦めていたと思う。

 だけど彼女は諦めようとしなかった。


「だって、ロベリアのことが好き……だから」


 頬を赤く染めたエリーシャに、告白される。


 彼女を失うことが、どれほど恐ろしいことなのかを知ってしまったのだ。

 だから今度こそ、素直に彼女の想いに応えることにしよう。


 こちらの返事をじっと待っているエリーシャの頬に触れ、そっと撫でる。


「……好きにしろ」


「っ……はいっ……好きにさせてもらいます!」


 涙を拭いながらエリーシャは嬉しそうに言った。



 ―――ひとまず戦いは幕を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「ううん···サラマンダーより、ずっとはやい!!」
[一言] ストックホルム症候群説 .アリシア…NTR…うっ頭が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ