表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/190

第5話 可憐なお姫様の好感度



「あの、どうしてあの人を恐れていたのでしょうか? とても悪い人には見えませんでしたが……」


 揺れる馬車の中、リアン姫は向かい側で険しい表情をしているユリウスに訪ねた。


 危ないところを助けてもらったというのに、悪者のように扱うあの態度があまりにも失礼だったからだ。


「姫、それは奴が悪名高い人物だからですぞ。通り名は傲慢の魔術師ロベリア・クロウリー。決して近づいてはならない悪魔です」


「傲慢の魔術師って、どうしてそのような通り名に……?」


「奴の犯した数々の行いが原因でしょうね。魔術学院を首席で卒業したのにも関わらず、その強大な力と才能を人のために使わず、私欲を満たしていたのです。どれだけ多くの人間が傷ついたのやら、考えただけでも恐ろしいっ……!」


「し、しかし……それなら追われの身である私を助ける理由が彼にはないはずです。反乱を起こした国民に私を差し出せば、自分の利益になっていたというのに。どうしてそうしなかったのでしょうか?」


「ふん、黒魔術を研究する頭のイカれた人間の考えなど見当もつきませんよ」


 黒魔術といえば禁断とされている災厄の魔術だ。

 魔王ですら畏怖する魔術で、それを人間が研究するなど信じられない。 

 リアン姫は動揺を露わにする。


 それでも、あの時の彼は、安心していた。

 馬車から見た彼は、リアンらが無事であることにホッとしていたのだ。


 暴君だったリアン姫の父とは違って、ロベリアからは悪意が一切感じ取れなかった。


(あの方がいなければ、きっと死んでいたのでしょう……)


 自分ではなくても、この馬車を守る騎士の誰かが犠牲になっていたかもしれない。


 怪我を負った騎士も、あの回復薬がなければ最悪命を落としていたかもしれない。


 なのにロベリアは対価を求めることなく「いい暇つぶし」と言ったのだ。


(カッコよかったなぁ……)



「あの……ちょっと提案があるんスけど」


 外を歩いている若い騎士が、おどおどした様子で馬車に近づいてきた。


「実は、近くの町に勇者様のギルド拠点があるらしいんスよ。事情を話せば匿ってくれるかもしれませんし、アテもなく逃げ続けるよりかは断然マシだと思うんスけど」


「英傑の騎士団のことか? うむ、確かにあそこなら助けてくれるやもしれんな。よし、行くとしよう」


『英傑の騎士団ギルドマスター』勇者ラインハルの運営しているギルドだ。人種問わず困っている者を助けるギルドなので頼るのも一つの手である。


 堅物のユリウスが納得すると、若い騎士はホッと胸を撫で下ろしていた。


(言えないよな……あの人の助言だって)





 数分前。

 襲撃をしてきた魔物らを蹴散らした魔術師の正体が、あの傲慢の魔術師ロベリアだと知ったときに遡る。


 一刻も早くリアン姫をロベリアから遠ざけるため先に行ってしまった馬車を、追いかけようとした若い騎士をロベリアは呼び止めた。


 殺されるのではないかと若い騎士は身構えたのだが、ロベリアからは微塵の敵意はなかった。


 寧ろ、アドバイスを貰うことができた。


『このまま西を進め、そうすれば勇者のギルドの拠点がある町に辿り着くはずだ』


 英傑の騎士団にリアン姫を預ければ追手は手出しできなくなる。


 それに勇者ラインハルは好青年なので、リアン姫のような困った少女を見捨てるなんてありえないとまで断言していた。


 ついでに『この助言を無視すれば姫は死ぬだろう』とも脅され、若い騎士は内心大慌てだったが側近のユリウスが承諾してくれたので一安心だ。


 この場の決定権をこの男が握っているので、提案を却下されたら従うしかないのだ。


 若い騎士ユーゲルは思う。


 傲慢の魔術師と恐れられているのに、あの人は自分らの身を案じて助言をしてくれた。


 噂に聞くような悪い人ではなかったのかもしれない。





                  第一章 終

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ