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54 サザランド訪問1

「あら、こんなところに、らら~ら~。麗しの塊が~。これは、もしかしたら~、昨夜、空から落ちた星の欠片でしょうか~、ぴかぴかぴ~~」


地面におちていたぴかぴかに光る石を摘まみ上げていると、横からひょいと腕が伸びてきた。

「うん、ただのどこにでもある石だね、フィーア」


一瞬で確認を終えたファビアンは、私の手に石を返してくれる。

「ふふ、こんな時まで詩歌の練習かな? でも、その練習はすればするほど、正しい詩歌から遠くなるみたいだから止めた方がいいよ」


ファビアンの言葉を聞いた私は、名残惜しい気持ちでもう一度ちらりと石を眺めた後、地面に戻した。


道中で気になるもの全てを持ち帰っていたら、荷物がぱんぱんになるわよね。仕方がないわ。


―――現在、私たち訪問団一行は、サザランドへ向かって一路南下中だ。


ナーヴ王国は海に囲まれた大陸に位置しており、大陸の西端を全て治める大国だ。

南北に縦長な形をしており、国の南端も北端も大陸の端に接している。

つまり、王国の北と西と南は海に面しているということだ。

そして、サザランドは王国の最南端に位置するので、中央にある王都から馬車で約10日かかる。


今回の訪問団は第一騎士団の騎士80名で構成された。

できるだけ若い騎士に歴史を学んでほしいとのシリル団長の思いから、ファビアンをはじめ若手騎士が多く参加している。

加えて文官が20名程度参加しているが、彼らの多くは乗馬できないということで馬車にて移動中だ。

つまり、騎士たちは騎馬にて移動しているものの、馬車のスピードに合わせなければいけないということだ。


「そろそろ出発するぞ! 休憩は終わりだ!」

出発を促す声に振り向くと、騎士たちの中心に一人の貴族らしき人物が立っていた。

シリル団長だ。


今回のシリル団長は王弟殿下の名代ということで、騎士服ではなく貴族服を着用していた。

金糸銀糸の縫い取りがされたぴかぴかの貴族服の上から、濃い色のマントを纏い、首元を大きな宝石で留めている。胸元には幾つもの勲章が飾られ、マントから連なる金の飾緒がきらきらと太陽の光で輝いていた。

着る人によっては大袈裟でけばけばしい印象をもたらす大仰すぎる服だったけれど、シリル団長は見事に着こなしていた。

全くもって、高位の王侯貴族そのものの姿に「さすが」と納得するしかない。


……総長は、よくぞシリル団長を名代にしたわよね。


遠くから団長を眺めながら、私は総長のご英断に感心する。


敵対的な場所に赴く場合、印象の良し悪しは大事だと思う。

対するシリル団長は、こんなに押し出しがいいんだもの。

間違いなくサザランドの領民たちに好印象を与えるはずだわ。


そう思いながら馬に乗ると、ファビアンと並んで走る。


馬上から眺める景色は、全てがきらきらと輝いて見えた。

新しい場所に行くことは、気持ちがいい。

見慣れない景色、食べたことのない料理は、新たな感動を与えてくれる。


騎士団が珍しいのか、道々で子どもたちが手を振ってくれた。

笑顔で手を振り返すと、子どもたちが花輪を投げてきた。

空中で受け取り、頭の上に乗せてみる。

子どもたちがわぁっと歓声を上げ、私も楽しくなって声を上げて笑う。


くすくすと笑い続けていると、ファビアンから声を掛けられた。

「フィーアは凄いね。いつだって、誰が相手だって、楽しみを見つけることができるんだもの」

「え? どうしたの、突然?」

「うん、割と前々から思っていたことだけどね。フィーアには幾つも特技があるのだろうけど、最大の特技は、このいつだって、誰とだって楽しめることだと思うよ」

ファビアンがじっと見つめてくるので、そうかな?と首をかしげてみる。


「そう? でも、そんな特技なら誰だって持っているわよ」

「フィーアはそう思っているんだ? でも、残念ながら、その『誰だって』の中には、私もシリル団長も……というか、全ての騎士団長、そして総長は入っていないんじゃないかな」

「ふうん?」


それがどうしたのだろうと思ってファビアンを眺めていると、彼はふふっと笑って見つめ返してきただけだった。

……うん、ファビアンにはこういうところがあるわよね。

答えを知っているのに言わないっていう悪い癖が。


私はファビアンにかっと目を見開いてみせ、“悪い癖よ!”という気持ちを伝えてみたけれど、ファビアンは声を上げて笑っていただけなので上手く伝わったかどうかは疑問だ。



◇◇◇



和やかな雰囲気で進んでいた行程だけれど、目的地が近付くにつれて皆の口数が少なくなった。


そういえばサザランド訪問は毎年の行事のため、今回参加している騎士たちの多くは、昨年もあの地を訪問しているはずだ。

経験者の多くが静まりだすということは、総長が言われていたように、サザランドで騎士たちはよっぽど歓迎されないのだろうか?


そう思って周りを見直してみると、道端で会う人たちに手を振られなくなっていた。

住人たちは騎士団の行軍に気が付くと、手を止め頭を下げるけれど、初めのころに見られた笑顔の歓迎はなくなっている。


そして、歓迎されないという傾向はサザランドの土地に入った途端、ますます顕著になった。


まず、人々の姿がほとんどない。

訪問時期を先に知らせてあるはずなので、王族の名代が訪れることは分かっていたはずなのに、住民たちが見当たらないのだ。

普通なら、歓迎の意を表すために住人たちが道の両脇に立って出迎えてくれるだろうに、人自体が見当たらない。

住民たちが顔を合わせたくないと、敢えて家に閉じこもったとしか思えないほどの閑散ぶりだ。


かろうじてちらほらと見える住人達も、遠くから頭を下げてくるだけで、親しくしようという雰囲気は全く感じられない。


あれー、これは何だ―――?


私はこてりと首をかしげる。


サザランドの民は、土地の温暖な気候を反映したように、穏やかで温かみのある気質を持っていたと思っていたけれど?


元々サザランドの住民の多くは、大陸の南に位置する離島で暮らしていた。

離島の火山が噴火したことにより住む場所を失い、サザランドに移り住んできたことが始まりだったはずだ。

褐色の肌に紺碧の髪の気のいい一族。それがサザランドの民だ。

一時だって黙ってはいられない、どんな小さなことでも笑わずにはいられない。そんな陽気で楽しい民族だと思っていたのだけれど。


けど、私がこの地を訪れたのは前世で1度きりだし、当時の領主だったカノープスが同行していたし、皆が私に気を使ってにこやかにしてくれていただけかもしれない。


私はぼんやりと前世を思い返しながら、仲間の騎士たちに交じって馬を走らせた。

誰もが居心地の悪い雰囲気を感じ取っているのか、無口になっている。

ファビアンも、不思議そうに首を傾げていた。

「シリル団長が治められるサザランドの地がこんな雰囲気だとは、夢にも思わなかったな……。領主の帰還を誰も出迎えないなんて……」


一行はそのままシリル団長の住まい―――領主の館に到着した。


……ああ、この建物よ。


海辺に似合う青と白の美しい館を目にした私は、思わず頬が緩むのを自覚した。


そう、太陽の光に照らされて、青と白に輝くこの館がサザランドの領主館だったわ。

ふふ、300年前の建物のままなのね。懐かしいわ。


馬から降りて積んだ荷物をほどいていると、遠くから新たな馬の蹄の音がした。

不思議に思って門の方に視線を転じると、初めて見る騎士たちの一団が目に入った。


どうやら、この地を担当している第十三騎士団らしい。


一番立派な馬からひらりと降り立った団長らしき人物を目にした私は、あれ?と首をかしげた。


髪も肌も日に焼けた、背の高い男性だった。

きっちりと鍛えられているようで、立派な筋肉質の体つきをしているけれど、……この騎士、弱くないかしら?


……ええ、私の知っている騎士団長の中では断トツで弱いと思いますよ。


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