プロローグ
どうぞ、よろしくお願いします。
死の瞬間には、生まれてから死ぬまでの色んなことを思い出すらしい。
「……15年の人生か。ちょっと短いよね。私の人生のハイライトは……ん? ……んんん??」
なぜか。どういうわけか。
その時、思い出したのは、前世の記憶だった。
今はもう、おとぎ話と化した「大聖女」の力を、これでもか、これでもかと使いまくる前世の記憶。
「ぶふふわっ、何よこのでたらめな力は! 世界の理が狂ってしまうわ!!」
魔物にやられ、致死量の血を流しながら、私は、前世を思い出したのだった。
◇◇◇
その日、我が家の一番広い部屋から、姉さんの激高した声が響いた。
「『成人の儀』を受けたら、間違いなく、この娘は死ぬわね!」
只今、父親と兄妹4人で家族会議の真っ最中だ。
議題は、私が騎士になるため、危険を伴う『成人の儀』を受けるかどうかってことで……
「けど、こいつも少しはマシになったって聞いたぞ。5割くらいの確率で、生き残れるんじゃないか」
下の兄さんが、チラリと私を見ながら、姉さんに反論する。
姉さんは、ビキビキッとこめかみに青筋を浮き上がらせながら、下の兄さんを睨みつけた。
「はぁぁ? つまり、半分の確率で死ぬってことじゃないの! この家には、既に4人も騎士がいるのよ! 無理をさせる必要なんてないじゃないの!!」
睨み合う、下の兄さんと姉さん。
上の兄さんは離れた席に座り、興味がない感じで自分の剣を磨いている。
父さんは腕を組んで黙っていたが、やおら私を見つめると口を開いた。
「フィーア、お前はどうしたい」
「え、わ、私? 私は、やりたいでふ!」
……しまった。
久しぶりに自分の名前を呼ばれたので、緊張して噛んでしまった。
姉さんは、可哀そうな子を見る目つきで私を見ると、言い聞かせるように話し出す。
「騎士になる以外にも道はあるのよ。父さんは、騎士団の副団長だし、私も兄さんたちも騎士だから、次の代までうちが取り潰される心配はないわ。あんたは、自分が好きな職業を選べるのよ」
「だったら……、私は、騎士がいい」
自分の意志だということを分かってもらうために、姉さんの目をしっかりと見つめたままはっきりと言う。
騎士に、なる。
それは、小さい時からずっと、私の夢だったから。
姉さんは、少しの間黙って私を見つめた後、あきらめたようにため息をついた。
「あんたが、小さい時からずっと騎士になる訓練をしていたことは知っている。ずっと、騎士に憧れていたことも。でも……。いや、分かった! だったら、『成人の儀』を受けなさい。ただし、1日たっても戻ってこない時は、探しに行くからね!」
こうして、翌日に『成人の儀』を受けることが決まったのだった。