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第50話 男の顔


 俺が最後に魔法を使ったのは、道具屋の地下室の爆弾に火をつけた時。

 基本的には火起こしも手動で起こしていたし、何ならエルグランド王国に来てから初めて魔法を使ったから二人が知らなくて当然。


 ちなみに俺は基本的な四元素の魔法に加えて、複合魔法や特殊魔法も扱うことができる。

 独学で身につけたもので魔法は全て無詠唱。自慢ではないが、そんじょそこらの魔法使いよりも魔力操作が上手い自負がある。


 ただどの魔法も中級までしか使えないため、ある程度の鍛錬を積んだ魔法使いには魔法勝負では絶対に勝てない。

 まぁ俺にとっての魔法は、どうしようもない場面の打開策の一つでしかなく、魔法専門の人間と魔法勝負を挑むことは未来永劫ないと思うが。


「そういえば二人には見せていなかったな。今のは初級魔法の【ウォーターボール】だ」

「あれだけの近距離の戦闘を行えるのに、ジェイドさんは魔法まで使えるんですね! 私、こんなに凄い人を見たことがありませんよ」

「それはテイトの世界が狭いだけだ。この世には俺よりも凄い人間はごまんといる」

「そうは思えないんですけど……。でも、私もいつか強くなってこの広い世界を見て回りたいです」

「テイトなら近い内に達成できるだろう。戦闘のセンスは抜群だからな」

「本当ですか? お世辞だとしても嬉しいです。ありがとうございます!」


 “テイトの世界が狭いだけ”なんて大きなことを言ったが、俺も最近まではエルグランド帝国から出たことすらなかった。

 王国に来てからも日々の発見が多すぎて街に籠もりっきりだし、二人への指導やら新アイテムの実験やらがないと外に出ることすらない。

 まぁでも、さっきまで白い目で見ていたテイトの目が元に戻ったし、一応隣国から来ている訳だから全てが嘘という訳ではないもんな。


「――と、無駄話はこの辺りにしてそろそろ指導の時間に移ろう。まずはトレバーだがまだまだ鍛錬が甘い。今現在の強さはゴブリン単体といい勝負ができるぐらいだ。体ができるまでは先月と変わらずにトレーニングに励んだ方がいい」

「あれだけ頑張ったのに、僕の力はまだゴブリンと同程度なんですか。後輩のテイトにも負けてしまいましたし、一ヶ月でつけた自信がぽっきりと折られた気分です」

「そんな早くに結果が出るなら誰も苦労をしない。トレバー、ちょっとこっちに来い」


 流石に落ち込んだ様子のトレバーを近くに呼び、俺は手袋を外してから無理やり握手した。

 特に言葉で伝えることはしないが、余程のアホでなければこれだけ分かるはず。


「――ッ! こ、これって……握手しているんですよね?」


 アホすぎる返答ではあるが、目を見る限りでは俺が言わんとしていることは伝わってはいる。

 

「自分で言うのもアレだが、俺には戦闘の才能があった。その才能があった俺でもこれだけの手になるまで剣を握ってきたんだ。はっきり言うがトレバーには戦闘のセンスはない。そんなセンスのない人間が、才能のある奴より強くなるためにはどうしたらいいのか分かるか?」

「……努力することですか?」

「そうだ。あれだけ頑張ったのにと言っていたが、俺から言わせてもらえば全然甘い。強くなりたいなら、うだうだと文句を言う前に剣を振れ。強くなりたいのはトレバー自身なんだろ?」


 俺がそう問うと、俯きながらも小さく頷いたトレバー。


「才能がないなら努力で補え。頭を使え。人生の先輩として一つ良いことを教えてやる。努力は絶対に裏切らない。自分を信じて頑張れ」

「……はいッ!」


 落ち込んでいたトレバーは顔を上げると、泣き虫小僧からちゃんと男の顔になっていた。

 この様子なら、自分が強くなるためにちゃんと努力するようになるだろう。


「次はテイト。今日の戦闘を見た限りでは、もうブロンズランクぐらいの実力はあると思う」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「それで一つ質問があるんだが、トレバーとパーティを組むか? もう冒険者としてやっていけるだけのセンスはあるから、俺の指導を受けずに冒険者として活動を始めるのも一つの選択肢としてある。妹の件もあるし、すぐにでも稼ぎたい気持ちがあるだろ?」

「ジェイドさんの指導を受けたいので、トレバーとパーティを組みます! 妹にはしばらく迷惑をかけると思いますが、あの子は頭がいいので分かってくれるはずです」


 かなり悩む選択だったと思うが、テイトは即答でトレバーとパーティを組むことを了承した。

 今の実力はトレバーがルーキー以下で、テイトがブロンズからシルバーの中間。

 戦闘センスの差を考えると今後も差が開く一方かもしれないのに、迷わず決めたのには少し驚いたな。

 

「分かった。そういうことなら、今後も月に一回指導を続ける。厳しく指導していくから覚悟してくれ」

「厳しいのは慣れっこですから。どんどんと厳しく指導をしてください」


 二人の覚悟も決まったことだし、改めて指導を行っていくか。

 トレバーが『あれ? 僕ってテイトとパーティを組むの?』と呟いていたが、時間がないため返答はせずに指導へと移ったのだった。


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