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第42話 トラブル


 翌日。

 昨日はテイトの一件で情緒が不安定になっていたが、その後に食べた『ランファンパレス』の料理で悩みは無事に吹っ飛んだ。

 

 あの問いの答えは出した方が良かった気もするけど、料理が美味すぎるせいでそれどころじゃなくなってしまったから仕方がない。

 最高の店を教えてくれたスタナに感謝をしつつ、気持ちを切り替えてまた今日から業務を行う。


 ちなみに今日はいつもの革の防具ではなく、昨日新たに購入した三着の服の一着を着ている。

 露店市で購入したため質はあまり良くないが、出費自体はかなり抑えることができた。

 テイトの件で色々あったが先週とは違ってちゃんと休暇を過ごせたし、古着だが気持ちを新たに『シャ・ノワール』へ向かう。



 俺はいつものように午前中から午後にかけて配達を行い、報告を行うために店へと戻ってきたのだが、『シャ・ノワール』には久しぶりに見る人が勘定場に立っていた。


「あっ、ジェイドさん! 配達ごくろうさまでした」

「えっ? なんでスタナがそこに立っているんだ?」

「久しぶりに遊びに来たんですけど、トラブルになっていましたので手伝いを申し出たんです」


 説明不足過ぎて完全に把握できていない状況だが、何かトラブルがあってスタナが手伝ってくれているということだろうか。

 レスリーもヴェラも店にいないみたいだし、大きなトラブルな感じがする。


「スタナもお客さんのはずなのに手伝わせて申し訳ない。俺が代わるから、スタナは外れても大丈夫だ」

「『シャ・ノワール』で店番を行うのは初めてですが、こう見えて接客業をやったことがあるので大丈夫ですよ。それよりも……ジェイドさんも、レスリーさんの下に向かわれた方がいいと思います」

「スタナはレスリーがどこで何をしているのか知っているのか?」

「兵士の詰所に向かいましたよ。お店に強盗が来たみたいで、その対応をしているようです」

「あー、それは確かに向かった方がよさそうだな。申し訳ないが、もう少しだけ店番を任せても大丈夫か?」

「ええ、もちろんです。早く向かってあげてください」


 動くのを嫌うヴェラもいないことだし、てっきりヴェラが何かやらかしたとばかり思っていたが、強盗に入られたとは俺の想像以上に大事だった。

 しょうもないことだったら、スタナと入れ替わりで俺が店番を変わろうと思っていたけど、流石にすぐに詰所に駆けつけた方がいい。


 配達している最中にレスリーやヴェラの悲鳴は聞こえなかったから、大怪我は負っていないと思うんだが、とにかく二人のいる詰所へと向かおう。

 『シャ・ノワール』で強盗があったのであれば、一番近い詰所は大通りの詰所なんだけど……多分ギルド街の詰所だろうな。


 二人の居場所に予想を立てた俺は、配達で行う時以上に飛ばしてギルド街の詰所へと向かった。

 『シャ・ノワール』を出てから、約三分後。


 以前、強盗犯を受け渡しに来たことのあるギルド街の詰所へと辿り着いた。

 俺の予想は正しく、詰所の中にはレスリーとヴェラの姿が見える。


「レスリー、ヴェラ。強盗にあったと聞いたが大丈夫だったのか?」

「おお! ジェイドも来てくれたのか! スタナ先生から事情を聞いたのか?」

「ああ。すぐに向かった方がいいと言われたから、急いでやってきた」

「スタナ先生には迷惑をかけちまったな! ちなみに強盗については大丈夫だぜ! 何せ、こっちには元シルバー冒険者が二人もいるんだからな! がーっはっは!」


 大声で笑っているレスリーを見る限り、被害自体なかったようで良かった。

 確かに、道具屋の店員にしておくには勿体ないぐらい二人共戦えるもんな。


「こう言ってるけど、レスリーはまた口を開けたまま固まってた。強盗は私が全員制圧した」

「おい、ヴェラ! それはジェイドに言わねぇって約束だったろうが!」

「胸張って威張ってたからつい」


 てっきりレスリーが捕えたのかと思ってたけど、強盗はヴェラが捕まえたのか。

 口を開けて固まっている様子が容易に想像できるし、レスリーは突然の出来事には相当弱いみたいだ。


 というか、このメンタルでよく冒険者をやっていてシルバーランクまで上がれたよな。

 ……いや、このメンタルだからこそ、シルバーランクまでしか上がれなかったのかもしれない。


「とにかく二人とも無事で良かった。強盗はもう引き渡したのか?」

「ああ! ちょうど今話を終えて、帰るところだったんだわ!」

「そうか。じゃあ俺は無駄足だったんだな。……ちなみに強盗はどんな奴だった?」

「お金を持ってなさそうな子供。三人で強盗に来たけど、全員弱かったから貧困街に住んでる子だと思う」

「それより、今日はパーッと飲みに行こうぜ! 閉店まで微妙な時間でこっから店を営業するアレでもないしよ! 店番してくれたスタナ先生も誘ってな!」


 強盗に入られたというのに、なぜかさっきからテンションの高いレスリー。

 普通はテンションが下がって、飲みに行くとかの思考にならないと思うんだがな。


「私はパス。飲み会面倒くさい」

「おいっ、ヴェラ! それはねぇだろうよ! いつもみたいにジェイドからも言ってやってくれ!」

「いや、この間はヴェラの親睦会だったから来いって言ったが、別に今回は来なくてもいいんじゃないか?」


 俺も面倒くさい――という言葉は、流石にレスリーが傷つくから胸に仕舞っておいた。


「それよりも、なんで強盗に入られて飲み会なんだ? ヴェラと同じく本気で意味が分からない」

「そりゃあよ……強盗に入られたってことは、強盗の奴らから人気店だと思われたってことだろ? 店主としては嬉しいだろうが!」


 そう言ってから、レスリーは口元をもにょもにょとさせてニヤついている。

 本気で意味が分からなくて、ヴェラがドン引きした目でレスリーを見ているが今回は完全同意。


「すまんが全く理解できない。こんなこと言いたくないが……思考が気持ち悪いぞ」

「おいっ! 気持ち悪いは言い過ぎだぞ! だってよ、この十年間は強盗にすら――」


 それからレスリーの訳分からない言い訳が始まったが、結局理解することができないまま『シャ・ノワール』へと辿り着いた。

 店番を行ってくれていたスタナには、俺とレスリーで何度も感謝の言葉を伝え、今度別の形をお礼をするということで落ち着いた。


 とりあえず今日は店は閉店にし、翌日の営業に備えて早めに帰宅。

 もちろんのこと俺とヴェラで断固反対したことにより、“強盗された記念”という訳の分からない飲み会が開かれることはなかった。


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