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番外 チーズな女子会 in 獣人の国 1

今週はお気楽に。番外編、コメディ回です。楽しい(?)女子会です!

 ――妹たちが旅立ってから数日後。

 次の目的地の街でまた妹と落ち合う予定の私は、妹の到着予定日と合わせるために、暫くテスラに滞在していた。そんな私のもとに、嬉しい来客があった。

 私はその知らせを聞くと、小走りで応接室へと向かった。勢い良く応接室の扉を開くと、そこには相変わらず白いローブを纏い、健康そうな褐色の肌をしたマルタが椅子に座って私を待っていた。マルタは、私に気づくとぱっと表情を明るくして、こちらに駆け寄ってきた。



「茜っ!」

「マルタ! 久しぶり!」



 私はマルタと軽くハグをすると、身体を離して、はにかみながら笑いあった。

 何故ここにマルタがいるかというと、元々旅に参加していた治癒術師の家族に不幸があった為、その人の交代要員としてやってきたとのことだった。

 今日、テスラへ到着したマルタは、ここで一泊してから、翌日、妹たちと合流するために旅立つそうだ。

 マルタはテスラへ到着して早々、色々忙しいだろうに、私を訪ねてくれたのだ。



「忙しいのに、会いに来てくれてありがとう!」

「いいのいいの! というか、茜に会えないのはなんだか寂しかったから、渡りに船だわ」



 ふふん、と得意げに言うマルタに、私は思わずキュンとしてしまった。



「……マルタ……! なんだか男前……! 結婚して!」

「ちょっと、結婚願望でギラギラしてる行き遅れの女子に何を言っているのよ。本当に貰ってやろうか! ちくしょうめ!」



 マルタはそういうと、笑いながら私の首を締めてきた。

 ぎゃあぎゃあいいながら、マルタとじゃれていると、そこにダージルさんがやってきた。



「おうおう、仲がいいなあ。……マルタ、出発は明日の昼だ。それまでゆっくりすればいい」

「は……っ、はいい……」

「お嬢ちゃん。良かったなあ、友達と会えて」

「はい! 気を遣ってもらってすみません、ダージルさん」

「ん? 気なんて遣っていないさ。お嬢ちゃんも、明日出発するんだろう? 旅の最中はなんだかんだ言って、色々と我慢しなけりゃならんことが多い。今のうちに、楽しめばいい」



 ダージルさんは、いつものように、目尻に笑いじわをいっぱい作って、ニカッと白い歯を見せて笑った。

 ……おおう。ダージルさんの笑顔が眩しい……! どっかの派手で、獅子な王子様とは比べられないほど、素敵な笑顔だ。

 ちらりとマルタをみると、案の定、彼女は真っ赤になって、ダージルさんを見つめていた。

 すると、ダージルさんはすぐに立ち去ろうとしたけれど、何かを思い出したように立ち止まって、キョロキョロと周りを見回した。

 そして、そっと私に近づくと、私の耳元で小さな声で言った。



「……あのな。お嬢ちゃん、もし、だ。もしもでいいんだが――……」



 そこまで、ダージルさんは言うと、都合が悪そうにもごもごと言い澱んだ。

 ダージルさんの様子に、私はピン! ときたので、ダージルさんに向かってぐっと親指を立てて言った。



「……ビールですね?」

「……! お嬢ちゃん……!」

「勿論、持ってきていますよ。数本だけですけどね。きっと、旅先でダージルさんが飲みたくなるかなあと思いまして」

「お嬢ちゃん、最高だな! いい嫁になるぜ……!」



 ダージルさんは私の肩を両手でつかむと、興奮気味にそういった。

 私は、今晩ダージルさんにお酒とおつまみの差し入れをすることを約束した。それを聞いたダージルさんは、ウキウキでその場を後にした。

 その背中を見送っていると、ガシィ! と誰かに肩を掴まれた。



「――茜」

「……なんだい。マルタさん」



 マルタの目が座っていて、どこか怖い。



「ちょっと、面を貸してもらおうか……」

「ひいい……! お金だけは」

「誰も金銭要求していないわよ」



 そんなやりとりはともかくとして、マルタにダージルさんにお酒とおつまみを提供することを教えると、マルタは自分もやりたい! と言い出した。



「好きな人に差し入れするとか……なにそれ、血が滾るわ……!」

「そ、そうなの?」

「こう、ね。『あなたのために、一生懸命作ったんですぅ〜』的なアレは、女のほうからみると反吐が出るけれど、男性からしたら中々唆るものがあると思うのよね」

「声色変えると、マルタって可愛い声してるよね」

「普段の声色が、ドスが効いているみたいにいわないでくれるかしら」



 私が茶化すと、マルタは不機嫌な顔になって私の頬をつねってきた。



「いひゃい」

「叶わぬ恋、そう思っていたけれど、万が一にでも……いや、万万万が一にでもっ!!! 可能性があるならば、やらねば女の名が廃る……!」

「わあ、男らひ〜!」

「やるわ! あたしも絶対にやるわよ! 茜!」

「あらあら、楽しそうですわね」



 そのとき、私達の会話に、おしとやかな女性の声が割り込んできた。

 マルタにほっぺたを解放してもらって声のした方をみると、そこには、モノクルをかけた白髪で菫色の瞳をした美人さん――サリィさんがいた。

 サリィさんは、私たちにお茶を持ってきてくれたらしい。

 テーブルにお茶を置いたサリィさんは、にっこりと綺麗な笑みを浮かべて、私たちに向かい合った。



「おふたりで、なにか料理をされるんですの?」

「そうなんですよ。騎士団長のダージルさんに、お酒とつまみの差し入れを」

「まあ! 素晴らしいですわね。……マルタさんは、騎士団長のダージル様とそういったご関係なのですか?」



 そのとき、サリィさんの瞳がすっ……と細められた。

 菫色の瞳から、恐ろしいほどの威圧を感じる。

 強烈な威圧に晒された私とマルタは、恐怖のあまりサリィさんから思わず一歩後ずさった。



「……ふふふ。殿方に、差し入れ。……若いっていいですわねえ……料理が出来る女アピールというやつなのかしら……ふふ、ふふふふふ。若さ……若さよねえ……」

「サリィさん?」



 どうしたのだろう、いつもお淑やかなサリィさんが、羅刹のようになっている……!

 恐る恐る私が声をかけると、サリィさんははっとして、慌てて表情を取り繕った。

 先程までの鬼のような形相から打って変わって、今度は慈愛に溢れた、優しい笑みを浮かべたサリィさんは、さらりと話題を転換した。



「そういえば、茜様はお酒がお好きなんですって?」

「ええまあ。……こちらの世界では、珍しいかもしれないのですけど」



 どれだけ私の酒好きが広まっているのかと、恥ずかしく思っていると、サリィさんは「そんなことありませんわ」と口元を押さえてころころと笑った。



「このテスラでは女性もお酒を嗜む人が多いのですよ。熊の獣人の友達なんて、蜂蜜酒を樽から直飲みするくらいですもの」

「……豪快すぎる!!」



 お酒を直飲みしてほろ酔い気分の熊……! みてみたい!

 一瞬、頭の隅に黄色くてまんまるな、瓶から蜂蜜を手で掬って食べるあいつが思い浮かんだけれども、ここの獣人は、可愛さとは程遠いリアル熊の筈だ。……私は、頭の中の映像を、クマ牧場の熊が前掛けをつけて樽酒を一気飲みし、こちらを見上げている姿に置き換えた。

 ……おお、しっくりくる。



「女性の方が、男性獣人よりも働き者の種族も多いのです。だからでしょう、自然と女性もお酒も嗜むようになったのですわ」

「へえ〜。面白いですね……」

「そのお陰か、わたくしもお付き合いでお酒を頂いているうちに、好きになってしまって。……ねえ、茜様。マルタさんも。良かったら、今晩ご一緒に如何かしら。元々、今晩は(くだん)の熊の友人と、お酒をご一緒する予定だったのです」



 酒豪な熊の獣人を想像していたところに、サリィさんからそんな提案があったものだから、マルタとふたり顔を見合わせて、すぐに了承した。

 ……なんだか、凄く楽しそうだ!



「じゃあ、今日は女子会ですね!」

「じょしかい……?」

「異界では、女性ばっかりが集まって、お酒を飲んだり、食事を楽しむことを女子会と言うんですよ」

「まあ! 素敵! 異界は進んでますわねえ」



 サリィさんは、ぽん、と手を打って嬉しそうだ。



「へえ、いいね! 女子会! 色々話も弾みそうだし」

「恋話とか、女同士でしか話せないことを語り合うのが女子会なんです」

「まあ! 恋話! わたくし、大好きよ!」

「わー! あたしも好き! したいしたい! 語りつくそう!」



 きゃあ! と、マルタとサリィさんは手を合わせて楽しそうに笑った。

 じゃあ是非やりましょう、ということで今晩女子会を開催することが決まった。



「では、お酒はわたくしが用意いたしますわね。とっておきがあるのですよ」

「……楽しみです! じゃあ、おつまみはダージルさんの分も作ることだし、私が」

「勿論、あたしも手伝うからねー!」

「ふふふ。楽しみにしております」



 そういって、三人で顔を見合わせて笑った。

 なんだか、わくわくする。

 ……マルタが来てくれてよかった。サリィさんが楽しい提案をしてくれてよかった。

 最近、沈み気味だった心が浮上してくる。

 異世界で初めての女子会! 今晩は、なんにも考えずに楽しもう……そう思った。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ここが、テスラの食料市場?」

「そうだよ、茜。ここは、山の幸、森の幸……あとは、川魚かな?それが豊富なんだよ。あとは、標高の高い山間部では、酪農が盛んなんだ。チーズなんかは、テスラ産は有名だね」



 ジェイドさんが、テスラの名産について私に色々と説明をしてくれた。

 それを聞きながら、マルタと一緒に市場に並んだ品物を見て歩いた。


 ――テスラの市場はジルベルタ王国の市場と同じく、沢山の人でごった返していた。


 大通りから少し外れたところにある市場は、細長い作りで、どこまで続いているのかがわからないほど長い。

 市場に立ち並ぶ出店は、荒削りなぼこぼこの木を組み合わせて作られていて更には藁葺の屋根。なんとも野性味溢れる見た目だった。店先には、勿論人間も居るけれども、獣人の売り子がたくさんいて、自分の特徴を活かした呼び込みを行っていた。



「お嬢さん、寄っていっておくれよ」



 急に頭上から聞こえた声に、驚いて上を見上げると、出店の柱に器用に長い手でぶらさがったリスザルのような獣人が、私に小さな木の実を差し出してきた。

 私はびっくりしたのと同時に、リスザルの小さな姿に思わずほっこりとしてしまい、ついつい何も考えずにその木の実を受け取ると、



「へへ、まいどありぃ!」



 と、ちゃっかりお買上げ扱いされてしまって、驚いてしまった。

 ……ジェイドさんが、きっちり返品していたけれど。


 セイウチのような獣人は、大きな牙にドーナツのような丸いお菓子を刺して販売していた。

 甘い香りがする菓子が焼きあがる度に、大きなヒレでそれを牙に刺していく。お客さんは好みのものを脇から引っ張って千切り、買い求めていた。

 その牙に刺さったお菓子を、子犬の獣人が首を傾げながら、どれにするか一生懸命に悩んでいる。うーんうーんと悩ましげなのに、しっぽだけは嬉しそうにぴこぴこと動いている姿はとてもかわいらしい。

 私もひとつその菓子を買って食べたけれど、それはまるでカステラのような優しい味で、ふんわりと感じる蜂蜜の甘みがなんともいえず美味しかった。


 そして、市場を見ていて気になったのだけれど、その市場の道はとても細く狭かった。その通路の両脇に、沢山の出店が軒を連ね、ひしめき合っているのだ。

 どうみても市場の規模に対して狭すぎる通路に、大柄な獣人が多いこの国でちょっと厳しいんじゃないかなんて思っていると、案の定、象の獣人が人混みの中で立ち往生していた。

 しかし、象の獣人は慌てることもなく、のんびりと人の流れが落ち着くまで待っていて、更には時たま小さい獣人をその長い鼻で運んでやったりしていて、なんともほっこりする風景が繰り広げられていた。



「そういえば、獣人って、気性が激しいって聞いたんですけど……。そんなこと、今のところ感じたことがないんですけれど」

「そうかい?」

「はい。あの象の獣人も、とっても優しそうですし」



 優しげなつぶらな瞳で、鼻で掴んだちいさな獣人をみつめている象の獣人の姿は、平和の象徴と言ってもいいくらいだ。

 私が首を傾げていると、ジェイドさんは苦笑いをしながら首をふった。



「獣人は、縄張り意識が激しいんだよ。普段は温厚であっても、ひとたび、自分たちの縄張りが侵されようものなら、目の色を変えて、自分たちが傷つくことも厭わずに、敵の排除に向かうんだ」

「……目の色を、変えて」

「ああ。そうさ、だから獣人の縄張りに迂闊に攻め込むと、痛い目に合う。大昔は、テスラは森と獣の国ではなくて、森と狂戦士の国と言われていたんだから」

「ひええ」

「昔々の、ジルベルタ王国はそんな国と戦っていたんだから、恐れ知らずというかなんというか……」

「全くそのとおりですね……」



 頭のなかに、怒りで目を血走らせている獣人たちと向かい合って戦う場面を想像して、思わず身震いする。

 ライオンやら、サイやらと真正面から向かい合ったら、私だったら気絶してしまいそうだ。

 私は再び、象の獣人に目を向けた。

 そういえば、元の世界の象も暴走すると恐ろしいって、タイ人がテレビで言っていたっけ……。

 いまだ、子供の獣人を運び続けている象の獣人を眺めて、私はううん、と変な顔をした。

そういえば、カレーの回で茜がヨーグルトは云々言っていましたが、この世界にもヨーグルトらしき乳酸菌を使ったものはあります。茜がまだ出会っていないだけですね。同じ牛乳の加工品であるチーズが出てきたので、一応補足で。

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