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和解と、旅立ち。

「…それ、言ってあげた?」

「え?」

「アイリーフに、薬草採取の理由」

私の言葉にリージは表情を曇らせた。

「まさか、言えません…うちにあった薬草…最後の分は彼女のために使われたんです」

泣き笑いのような表情で、リージは言った。

「彼女の家にも薬草は常備されてましたが、冒険者が根こそぎ盗んで……その頃にはうちにも手元には一人分しか残ってなかったんです。僕の病状が重すぎて…想定外の量を使っていて……両親はどちらか片方が僕のために生き残るよりも、彼女の未来を選びました。当時のことを思い出させるようなこと…」

あの頃はいい子だったんですよと言うリージに、私はため息をついた。

「リージ、なおさら言うべきかもしれない。彼女はたぶん憎しみと罪悪感に囚われてる。思い出させるもなにも、そもそも忘れていない」

リージと薬草の研究をしている人達のことを知れば、彼女は自分を振り返れるかもしれない。

「アイリーフが?」

不快そうに顔を歪めたリージに、彼女がどれだけ彼に不信感を植え付けたのか分かる。

私はリージの頭を撫でて苦笑した。

「彼女は全ての原因だと思っている冒険者を憎んでる、だから冒険者になったリージが理解出来なくて、辞めさせたいと思ってる」

そして

「リージを両親の代わりに守らなければとも思ってる」

それが妨害や勧誘に繋がったのだろう。

私の推察に、リージは目を丸くして…口元に手を当てた。

表情は困惑

思い当たることはあるのだろうが、複雑な心境なのだろう。

「意外と、命をかけた方は忘れても、かけられた方は忘れないものだよ」

リージの背をポンと叩くと、それに促がされたようにリージは足を踏み出し、私を振り返るとやっぱりまだ何か飲み込めないかのような表情で…それでも笑みを零した。

「許せないこととか、色々あるけど……でも、話してきてみます」

「ん」

私は外から来た人間で、冒険者になり…自分が守らなければと思っていたリージを先に守り、信頼も奪った存在だ、憎まれても当然だったのだろう。

かなり子供っぽい理由だが。

リージはかなり長い間帰ってこなかったが、帰ってきた時には随分すっきりした様子だった。



翌朝、ドアを叩く音がして、私が出るとアイリーフとレリーフが手を繋いで立っていた。

「おはようヒイラギ」

姉妹の目は真っ赤だった。

随分泣いたのだろうけれど、やはり昨日のリージのようにすっきりした様子だった。

「おはよう、リージはまだ身支度を整えてる最中なんだけど」

「いや、あんたに会いに来たんだよ」

レリーフがそっとアイリーフの手を放し、促がすように微笑んだ。

アイリーフは真っ赤になってスカートをぎゅっと握りしめると、がばっと顔を上げた。

「り、リージに色々聞いたわっ、間を取り持ってくれなんて頼んでないけど、その、あの…ありがと」

猫耳がすっかり伏せて、ぷるぷる震えながら叫び、ありがとの言葉だけは妙に小さく囁かれた。

思わず口を押さえたが、間に合わずに「くふっ」と噴き出してしまう。

「なななな、なによぉぉぉぉぉぉぉぉっ」

「いや、あんまり可愛いから」

笑いの衝動を抑えながら言うと、アイリーフは益々赤くなって更には涙目にもなった。

「ヒイラギさん?」

そこへ身支度をおえたリージが、声をかけてきたので振り返る。

リージは、レリーフとアイリーフの姉妹の姿に、少し表情を顰めるが、通常レベルのクールさの視線でこれまでアイリーフを見るどこか嫌悪と軽蔑を漂わせた眼差しではなくなっていた。

「どうしたの?こんな朝早くから」

「アイリーフがヒイラギに詫びたいって言うからね、それからこれお礼とお詫び代わりの差し入れ、朝食まだだったら食べて」

一応昼まで持つからと言われて、バスケットを受け取った。レリーフのご飯は美味しいので正直嬉しい。

「これからちょっとチームで都市に行くんだけど、アイリーフも見習い雑用で私のとこに入ることになったんで…半年ほど村を開けるから、その前にね」

「リージ…これ、預かってくれる?」

アイリーフは布に包まれた折れた杖を差し出してきた。

「今の私じゃ、本当にこの杖には相応しくないし、修復も出来ないから…ちゃんとリージにも認められるような冒険者になって、修復技術も会得したら……それまで」

「………分かった」

これまでが嘘のようなアイリーフの態度に、リージは少し笑ってそれを受け取る。今の彼女が、彼が言った『昔の』アイリーフなのだろう。

ん?それじゃアイリーフは魔法使いの媒体を持たずに旅に出るのだろうか?

そりゃ見習い雑用でも、足手まといにならないだろうか?


杖は木だ。

リージは森の王に覚醒している。


「リージ、杖に枝を伸ばすよう働きかけられる?」

「え?」

「それ、直すのきっと私とリージでも出来るけど…せっかくの彼女の決意だしね、でも無手で送り出すのも心配でしょう?」

「ええ、でも」

「覚醒したでしょう?森の王に」

私はリージの両肩に手を置いた。

神しゃま、力を貸してくれる?

私が作ったら、やっかいな名称が付きそうだし…神が作りし~ってね

だからリージの力を介して

「魔法の杖、アイリーフのレベルに合わせて、ある程度までは成長する…小さな枝を」

低く、歌い上げるように囁くと、リージの髪が耳の後ろの黒い葉のようなものが艶めくように光って、髪はそれだけでなく、うねって伸びた。

同時に杖から細い枝が、タクトくらいに伸びて先端に小さな赤い石のような実をつけたのだった。

鑑定のスキルを使えば、


魔法使いの枝(火属性専用)初級から中級用

上級の杖から稀に伸びる枝、持ち主の成長に合わせて中級までは育つがそれ以上にはならない。


と、分かった。

うん。余計な効果は付かなかった。

ほっとしたのだけど、猫耳姉妹はポカーンと口をあけて硬直していた。

「あれ?」

「凄い、僕こんなことが出来るなんて、ヒイラギさんどうして分かったんですか?」

「え、」

だって森の王ならこれくらい出来そうじゃない?

実際出来てるし?

とか言ったら、姉妹にはリージの覚醒種族に改めて驚かれ、それから私の態度に少し呆れて、あまりその力は世間に知られないようにと忠告して…枝を受け取り

何だか少し疲れた…気の抜けた様子で、旅立っていったのだった。

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