神聖石と、祝福。
神父さんは猫だった。
ネコ耳とかではなく、もろに猫人。
イメージでいうと長靴を履いた猫?背丈はリージくらいだけれど、白い顎鬚?を伸ばしていて、虎縞の模様も美しい老描様でした。
友人が「おっもちかえりーっ」と叫んで、小脇に抱えてハイスキップで逃走する姿を幻視した。
「どうしたんだね、リージ」
目を細めた猫神父様は、声も良かった。
友人がきゃーきゃー言ってる声優さんに似てる。
本当、友人がここにいなくて良かった。猫神父様の身の安全的な意味合いで。
「はい、なんだかミアリスさんが」
「これを急いで持っていくようにと」
猫神父様は目を見開いて、息を飲んだ。
「神聖石っ、流れ着いていたのかね?」
私とリージは頷く。
「ちょっと待っていたまえっ」
慌てて祭壇に駆け寄った猫神父様は、祭壇の中から箱を取り出し、そこから布を取り出し祭壇の上に広げた。
「ここへ」
促されて、それを置く。
すると聖石は輝き、光りを振り撒きだした。
「素晴らしい、ほとんど力が失われておらん」
「あの…神聖石って何か聞いてもいいですか?」
「おお、すまぬ。だが先に手続きをすませてしまおう。これを見つけたのはリージと君の二人かね?」
私は頷いて、
「ヒイラギです」
と、自己紹介をした。
「私はこの教会の神父でヨルギル。よろしくのぉ」
私に名を告げ返して、猫神父様は聖書らしき書物を広げた。
「神の柱の欠片を見つけし幸運よ、彼らの中でとどまり形となれ」
ぶわっと、石と私とリージの体が強く発光した。
「え」
「うわっ」
驚く私達に、猫神父様は書物を閉じて満足そうに頷いた。
「これは…いったい…」
淡い青い、神秘的な輝きはなかなか消えない。
リージが不思議そうに両手を見る動作は分かったが、光で姿はよく見えなかった。
たぶん私も同じ状態かもしれない。
「ギフトスキルが授けられておるのだ、神聖石は長く放置しておると人や世界の邪気を吸収し魔を呼び寄せるのだ」
「え、でも聖石が生えてたり、薬草が」
リージの疑問に猫神父様は、悲しそうに首を振った。
「それはまだ邪気を吸収してない期間だけで、神聖石は聖域になければ危険な力ある石なのだ。西の魔都区が出来たのも、神聖石のせいだと言われておる」
「うん、だからミアリスさん慌ててたのか」
魔都区がどうゆう所かは分からないが、響きからしてヤバイことが分かる。
「ゆえに急いで神聖石から神力を抜く必要があったのだ。抜いた神力は最初に石を見つけた者に吸収され、ギフトスキルとなる。ただし教会で祝福のスキルを持つ神父のみが実行できるのだ」
「祝福?」
「うむ、神聖石に限らず、神の力を害無く人の身に降ろすスキルだ」
猫神父は微かに笑った。
「このスキルを持つ神父は、必ず聖域近くの教会に派遣されるのだよ。この時のために。まさか生きているうちに使えるとは思わなかったがね」
リージも知らなかったくらい、神聖石が聖域から出てくるのは珍しいことなのだろう。
…ちょっと反省しておく。
原因、私だし。うん。
そして、やっと光りが収まった時、私はともかく…リージの姿は明らかに変化していた。
「うわ、髪が伸びて…なぜ?」
「リージ…耳」
リージの耳が尖っていた。
まるでダークエルフのように……それだけではなく、耳の後ろから黒い羽根のような葉っぱのようなものが、髪飾りのように生えていた。
そしてリージが最初に気づいたように、髪が私と同じくらい伸びていた。
私の指摘にそれらを触って、リージは声も出せずに「なにこれ?」と、唇を動かしたのだった。