火の魔法使いと、リージと私。
「何か、用?」
冷血モードに入ったリージに、私は苦笑した。
アイリーフはたぶんリージのことが心配なんだろうとは予想出来る…が、私は基本ツンデレという人種を理解出来ない人間なのだ。友人のおかげ(?)で、どうゆうものがツンデレかは分かるのだが。
好意を持つ相手に、キツイ言葉を投げつけるのはどうなのか…友人はそこがイイと言い張るが…
だからリージにも、わざわざ説明などはしない。
面倒だし。
冷たいリージの視線に怯むことなく、彼女…アイリーフは吠えた。
「リージに用があるわけではないわ、私が用があるのはそいつよっ!」
びしっと指をさされて、…うん、やっぱり面倒臭いと思う私。
そんな私の前に、リージは立った。
「ヒイラギさんに何の用?」
「リージには関係ないでしょっ!」
「ヒイラギさんは僕の恩人で、パートナーだ」
淡々とした口調だが、どこか響きの強い声でリージは言う。
おお、これはもしや、庇われてる?
小さいけどやっぱり男の子、かっこいいなぁ~と呑気に感心していたが、アイリーフは怒りで真っ赤になって髪を膨らませた。
「何よっ!ずっとソロだったくせにっ、私の誘いを断ってそんなひ弱そうな男と組むなんてっ!許さないんだからっ!」
「別にアイリーフに許してもらう必要性を感じない。それにヒイラギさんを侮辱するなら、それこそ僕が許さない」
うん、女なんだけどって口を挟む間も無い。
それに今更性別言っても、かえって火に油だよね…きっと。
しかし言わなくてもリージの私を庇う態度に、アイリーフが切れるのは早かった。
「なによ、なによ、なによっ!そんな男っ!」
アイリーフは背中の杖を抜いた。
「アイリーフ!?」
リージの咎める声にも構わず、彼女は詠唱した。
「火よ、火の精霊よ、この名アイリーフが呼びかける、アイリーフの名のもと、集い寄りて力を揮えっ!
ファイヤーバードっ!」
リージが少し躊躇ってからナイフを抜き、アイリーフに飛びかかろうとしたが、少し躊躇った分発動の方が早かった。
出現し、形を持った火の鳥に、リージはとっさにナイフを捨て、私の方へ反転して…私を庇おうとしてくれた。
そんなリージを私は抱きしめ、片手を火の鳥の方へと差し出した。
「ひかりのかべ」
私達の前面で空気が煌めき、光が一枚の板のように形成された。
もちろん、火の鳥はそれにぶつかって霧散した。
「え、」
私に体当たりして、軌道からずらそうとしたけれど、体格差から抱きつくで終わってしまったリージは、けれど私の言葉に振り向いて、それを見た。
「………すごい」
「な、なによ、それっ」
目を丸くして硬直していたアイリーフは、無事な私達…の、抱き合ってる格好を見て、再びその顔を怒りに染めた。
杖を構え直す。
「火よ、火の精霊よ、この名アイリーフが」
今度はリージの方が早かった。
私から離れ、一気に走り寄り、アイリーフの前に立つ。
目の前に立たれて、アイリーフの詠唱は止まった。
「どいてっ、どいてよリージっ!」
激情した声が響く…が、次に響いたリージの声の方が、ずっと怖かった。
「うるさい、黙れ」
冷たいを通り越して、氷点下な声だった。
バシッと音がして、アイリーフの小さな体が地面に転がった。
リージの手元に杖だけが残る。
アイリーフは頬に手を当てて、身を起こす。両目からはポロポロと涙が零れていた。
「ひどいっ、何するのリージっ!?」
そんな彼女を気にすることなく、リージは片膝を立て…その上に杖を叩きつけた。
止める暇もなかった。
鈍いバキッという音が響いて、杖が中心から圧し折られていた。
リージの行動に、アイリーフは目を見開き…驚きでか、涙も引っ込んでいた。
「…わ、たしの杖、リーシャさんの、お師匠様の形見の」
「今のお前に母さんの弟子を名のる資格なんて無い、二度と母さんの名を口にするな」
リージの放り捨てた杖をアイリーフは拾い上げて、止まっていた涙を再びボロボロと落とした。
「ばかっ、リージのばかぁっ!もう知らないっ!」
泣きながら、でもすれ違いざまに私を睨んで…彼女は去っていた。
うん。最後まで口を挟むことも出来なかったわ…まぁ、これが私なんだが。