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三十六話 【夏・学院祭編】悪夢

 真っ暗闇の中、カレンは大きな瞳一杯に涙を浮かべながらも必死に助けを求め続ける。


「誰か、誰かー!!」


 ガタンッ!!!!

 そこで閉ざされていたドアが蹴破られ、真っ暗だった小屋に月明かりが射し込んだ。


「カレン!!」

「ブレントさまぁ!!」


「探したぞ。なぜこんなところに」

「呼び出されて、この小屋に入った途端いきなり……」


 閉じ込められたのだと告げるカレンの声は震えていた。声だけではない。よほど怖かったのだろう。身体を震わせる彼女を、見ていられないという風にブレントは抱きしめる。


「もう大丈夫だ、オレが傍にいる」

「ブレントさまぁ」

 泣きじゃくりながらカレンも力いっぱいブレントを抱き返す。


 そして間近で見つめ合い……二人はどちらからともなく口付けを交わした。


 まるで二人を祝福するように打ちあがる花火をバックに……。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「うぅ、うぅ~……っ!?」

 自分の唸り声でハッと目が覚める。

 パトリシアはじっとりと汗ばみ前髪の張り付く額を拭いながらゆっくりと起き上がった。


「……なんだ、夢か」

 嫌な夢を見た。夢というより過去に観たアニメの記憶と言った方が正しいかもしれない。


(思い出したのは、もうすぐ夏の学院祭だから?)


 アニメと同じように現実が進むなら、学院祭の夜にブレントと花火を一緒に見ようと約束したカレンは、嫉妬したパトリシアとその取り巻きによりボロ小屋へ閉じ込められる。


 約束の時間になってもカレンが現れないことを不審に思ったブレントは、彼女を探しだし救出。


 そして二人の想いは燃え上がり勢いでキスをするのだ。


 まだ言葉に出して両想いになるわけではない。けれど、惹かれあうように口付けを交わした二人は、その後から互いを強く意識するようになる。


 例えるなら友達以上恋人未満のじれじれ両片想い状態だ。


「はぁ……気が重い」


 二人が約束をする前に、ブレントを後夜祭に誘ってみようかとも考えたが、はたして彼が自分の誘いに乗ってくれるかどうか……自信がなかった。






「――? パティってば」


 次の日。天気が良かったのでサンドイッチを買い学院の中庭でお昼を食べようと誘われ、マリーと一緒にベンチに座っていたパトリシアだったが、気が付けば昨日の悪夢を思い出し上の空になっていたようだ。


「どうしたの、ぼうっとして。なにか悩み事?」

「ううん、なんでもないの。ごめんなさい」


 気分を切り替えてマリーに笑い掛ければ、彼女は「もうすぐ学院祭ね」と木材を運ぶため中庭を横切っている生徒たちを眺めながら言った。


 貴族のご子息ご息女が通うこの学院では、当日の露店など全て業者に任せるため、殆どの生徒は当日を楽しみにするだけなのだが。生徒会と学院祭執行委員に所属している面々は、こうして力仕事を含め準備に携わっている。


 ブレントも生徒会に所属しているため、最近は女性を侍らせる時間もない程忙しそう。


「後夜祭の花火、綺麗でしょうね」

 学院祭の最後の締めとして行われる打ち上げ花火は毎年人気の催し物なので、マリーも楽しみにしているようだ。


「パティは、ブレント殿下と一緒に観るでしょう? 私はどうしようかしら」

 一人で観るのも寂しいしクラスメイトを誘ってみようかなと話すマリーに思わず「わたしも予定は決まってない」と伝えた。


 パトリシアとしても、ブレントがカレンとキスしているであろう時間帯に一人重たい気持ちで過ごすのは複雑なので、できることならマリーと一緒に過ごしたいと思ったのだが。


「えぇ? ダメよ、ああいうイベントの時ぐらい婚約者と仲を深めなくちゃ」

 毎回違う女性を侍らせているブレントを目撃するたび渋い顔をするマリーは、心配そうな顔でそう言う。


 その時だった。


「う、うわーっ!?」


 男子生徒の叫び声と共に、すごい物音がして驚いた二人は、そちらへ視線を向けた。


 大きく分厚い木の板を二人掛かりで運んでいた男子生徒の一人がバランスを崩し、そのまま片足が板の下敷きになって倒れていた。


「大丈夫ですか!?」


 周りの生徒たちは突然の事件に騒然となり、青ざめた顔色でそれを眺めているだけだったが、パトリシアとマリーはすぐに現場へ駆けつける。


 二人で板の端を持ち、反対側を持ってくださいと板を運んでいたもう一人の男子生徒に声を掛けると、彼はハッとしたように我に返って板を持ち上げた。


「いっ――」


 蹲っている男子生徒は、板の下敷きになっていた足を押えて苦悶の表情を浮かべている。


「おい、大丈夫か?」

「くっ……足がっ、動かない」


 筋をおかしくしたのか、骨折してしまった可能性もある。

 素人が下手に動かさないほうが良いと判断して、パトリシアは学院に駐在している医師を呼んで来ようと思ったのだが。


「大変、大丈夫ですか!?」


 そこで突然目の前に飛び出してきたのは、栗色の髪の少女……カレンだった。

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