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収穫祭最終日

 

 収穫祭二日目はほとんど屋敷から出ていない。理由は想像できると思うが、魔王との戦いに敗れた俺は身も心もボロボロとなった。そんな俺にさらなる挑戦者が現れた。


 メルナ伯爵とはいい訓練になった。その日俺の打ち合いを見て、悪かったところを指摘し正しいやり方を教え、実践させてくれた。


 ここまでは良かった。しかし実践させる相手がルンバというのがいただけ無かった。


 木刀での打ち合い、打ち込みのはずなのに命の危険を感じたほどだった。


 当然俺は死にたくないがために必死になった。


 その途中、メルナ伯爵がノルド父さんに『あいつはあれくらいのレベルでやり合うくらいの方が伸びるんじゃないか?』

 

などと危険極まりない発言をしていた。


『うーん、そうなんですけど、アルは騎士になりたいわけじゃないですからね』


『どっちかって言うと冒険者の才能だな。しぶとく生き残るぞアレは』


『他国には興味があるみたいだけど、冒険者は危ないから嫌って言ってましたからね』


『ほー、変な奴だなー。俺があれくらいの――』


 とにかく理解力のある父親を持って助かった。


 アルも騎士になるんだ! とか言われていたら困るところだった。


 とにかく昨日は朝の稽古でぐったりとして部屋から出る気にもなれなかったという訳。


 そして今日は収穫祭の最終日。


 今日の朝にメルナ伯爵とロリーナ子爵、リナリア夫人が帰ることになっている。


 何だかんだ騒がしかった祭りも今日で終わり。客人たちもいなくなり平和な日々に戻るだけだ。


 スロウレット家とメイド総出で玄関を出て、メルナ伯爵たちを見送る。


「ノルド、今度は俺の領地にも来いよ! 歓迎してやるからな」


「はい、王都に行くときは必ず参ります」


 ノルド父さんが返事をすると、メルナ伯爵は俺の頭を撫でた。


「お前も絶対に来るんだぞ。まあ貴族のパーティーにはそろそろ顔を出さないといけない年だけどな。その時にでも会えるだろうよ」


「ええ! そうなの!?」


 俺が素早くノルド父さんを見上げると、苦笑いを返されてしまった。どうやら本当らしい。


「ええー、パーティーとか面倒くさそう」


 俺の気だるげな声を聞くと、メルナ伯爵は楽しそうに笑い。「またな!」と言い残して馬車へと歩いていった。


 今まであまり見かけなかった、鎧を着た騎士のような護衛が二人メルナ伯爵に付き従う。今までは使用人の宿舎にいたのであろうか。


「では私も。お世話になりました。私の領地の方にも来てくださいね」


「もちろん皆さんお越し下さいね。歓迎いたします」


「ああ、もちろんさ。アルもな」


「……はい、勿論です」


 社交辞令だよね? 二人とも本気じゃないよね? 


「ところでユステル。護衛はどうしたんだい? もしかして連れてきていないのかい?」


 魔物や盗賊が存在する、この世界で貴族が護衛も無しに旅などできるはずがない。まあメルナ伯爵の馬車と一緒にいれば安心だけど。あの人に護衛なんかいらないと思えるくらいだから。多分盗賊や傭兵崩れが襲いかかったら、痛い目を見るのは襲った方だと思う。


 というかユステルとは誰だろうか?


「ああ、護衛ならちゃんと彼らがいますよ」


 ロリーナ子爵が指をさす所には、馬車の出発準備をしている御者と農民の姿をした男女の四人が。


「あの人たちは御者や使用人ではないのですか?」


「御者の人はまだしも、彼や彼女達もそう見えるのかい?」


「よく見ればあの人達、セリアさんの食堂にもいたかも。それに何か動きも普通とは違うような」


「護衛にも色々なやり方があるからね」


「なるほどー」


「ではまた会いましょう」


「またねアル君」


 ロリーナ子爵が颯爽と馬車へと向かい、リナリア夫人は俺の頭を撫でて、ロリーナ子爵の後をとてとてと追いかける。

 あ、腕組んだ。あの二人の領地にはしばらく行きたくはないな。新婚さんだからか、ずっとべったりしているのだから。


 屋敷でもピンク色のオーラを出していちゃついているところを何回も目撃した。その度に俺は胸をかきむしりたくなるような衝動に何度も襲われた。


 メルナ伯爵の馬車が敷地を出た後、付いていくようにロリーナ子爵の馬車が出ていく。


 皆が皆、気さくな貴族だとパーティーも楽しそうなんだけどなー。


 見送りを終えて、それぞれ皆が屋敷へと戻っていく。


 まあパーティーもまだ先だし、気にしなくても大丈夫だろう。今は収穫祭の最終日を楽しむことにしよう。

 さっそく俺はお金を取りに自分の部屋へと鼻歌交じりに戻るのであった。



 ×   ×    ×



 せっかくなので、今日はシルヴィオ兄さんを外へと連れ出してみた。この本の虫である兄は、祭りの最終日だというのに自分の部屋へとこもって本を読もうとしていたのだ。

 エルナ母さんの援護もあり、連れ出すことは簡単だった。


 今思えば、シルヴィオ兄さんと二人で村に行くのは初めてなのかもしれない。


 いつも俺はエリノラ姉さんにはあちこち連れまわされるのだけど。


「シルヴィオ兄さんは本が好きだね」


 いつものコリアット村への道を歩きながら、何となく話す。


「本には色々な世界が広がっているから楽しいよね。様々な価値観、発想、それらを感じることで自分の視点や思考も豊かにしてくれるからね」


 軽い会話をしようとしていたがために、結構真面目な返事がきて驚いた。


「……なのに、今日も自分の部屋に籠ろうとしていたんだね」


「それは反省しているよ。ちょうど物語がいいところだったんだ」


「何の本?」


「マリーン姫と三匹のドラゴン」


「あ、それ前に読んだ本だ」


 昔エリノラ姉さんに本を取ってもらった時に見た奴だ。あのあと気になってなんとなく読んだんだよ。


 英雄に憧れる少年が、ドラゴンにさらわれたマリーン姫を助けるという日本でもよくあるありふれたもの。


「本当かい? まだ言わないでよ。楽しみにしているんだ」


 俺の返事を聞くと、シルヴィオ兄さんは年相応な笑みを浮かべる。本の話になるとコロコロと表情が変わるなー。将来のお嫁さんも本好きの女性に違いない。


「わかったわかった。それにしても意外だね。シルヴィオ兄さんが冒険物を読むなんて」


「意外かい? 僕は物語の少年のような危険なことはできないから、惹かれたのかもしれないな」


「ああいうのはノルド父さんや、エリノラ姉さんにやらせておけばいいよ」


「父さんの血は、僕たち兄弟には色濃く流れなかったようだね」


「シルヴィオ兄さんの見た目は完璧ノルド父さんなのにね」


「アルは完璧に見た目も中身も母さんじゃないかな」


「見た目はともかく、あんなにぽわぽわとしてるかなー?」


 後、エルナ母さん程容姿は良くないと思うんだけど。


「似てるよ」


 シルヴィオ兄さんはそれだけを言って笑い、これ以上は教えてくれなかった。



 ×    ×    ×




 村につくと、収穫祭が最終日のせいか大いに盛り上がりをみせていた。村人たちは家族を連れて、歩き周り楽しそうに会話をする。手をつなぎ、食べ物や飲み物を片手に歩き回る。


 皆がそれぞれ出し合う屋台からは、様々な食欲そそる香りが漂い、人々のお腹を刺激する。


 それにより、子供がご飯を食べたいと母親にねだる。それに父親も便乗してエールを飲みたい、つまみが欲しいと頼み込む。それを聞いて、奥さんは仕方がないとばかりに財布を開く。今日ばかりは家計を守るために厳しい奥さんたちも笑顔になり懐が緩くなるようだ。


「すごい人だね初日もこうだったの?」


「いや、こんなに多くは無かったよ。最終日には準備もほとんど無いし、夜には宴があるからじゃないかな?」


 宴とは焚火の周りで踊ったり、歌を歌ったり、豪華な酒や食べ物を皆で食べる事。

 この時のお酒や食べ物はノルド父さんが手配してくれるものである。


「今年はトリエラ商会からの支援があるから豪華になるって、父さんが言っていたね」


 今年はトリエラ商会からの支援もあり、豪華になるのだ。村人たちはそれを大いに楽しみにしている事であろう。


「アイツ、それほどまで儲けているのか」


 俺の脳内では裏切り者の顔が浮かびあがり、親指をぐっと立てて『これからもご贔屓によろしくッス!』という声が聞こえる。


「あはは……何があったのかは知らないけれど、そんなに怒らなくても。せっかくの収穫祭なんだし」


 シルヴィオ兄さんは苦笑いをしながら俺を宥める。

 それもそうだった。今日は楽しまなくては。あんな奴のせいで暗い気持ちになるのも良くない。小さな事では怒っていてはいけない。いい加減に水に流してやるか。


「シルヴィオ兄さん喉が渇いたから、フルーツジュース買おう!」


 明るく言いながら俺はシルヴィオ兄さんの腕を引っ張り、屋台へと向かった。


収穫祭は後1話くらいで終わる予定です。


暴走しなければ。

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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

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