純粋
本当は年内に投稿したかったのですが……
明けましておめでとうございます。
今年も『転生してスローライフをおくりたい』をよろしくお願いいたします。
メルナ伯爵とユリーナ……じゃなかったロリーナ子爵達と全員顔合わせが済んだところで夕食を食べた。
バルトロの料理や名物スパゲッティは随分とお気に召したようで、セリアさんの食堂でたくさん食べたにも関わらず、バクバクと食べていた。
そして夕食が終わり、皆さんはのんびりと客間で談笑をしていらっしゃる。
そして俺は自分の部屋へと戻ろうと、廊下を歩いているところなのだが。
「どうして俺に付いてきているんですか? リナリア夫人?」
「夫人とは大げさです。リナリアでいいですよ」
「えっと、リナリアさん。どうして付いてきているんですか?」
「アルフリート君とお話ししたいなーって」
リナリアさんは首を傾げて『駄目ですか?』と瞳で尋ねてくる。
「大丈夫ですけど、俺の部屋は狭いですし大して何もありませんよ?」
「はい! 構いませんよ」
何が楽しいのかリナリアさんは俺を見てニコニコと微笑んでいる。
よくはわからないが、とにかく部屋に向かおう。
そして歩くこと数歩。
「…………(そー)」
何かが俺の頭に近付いてきている気がする。
「……何か?」
「ふぇ? どうかしましたか?」
クルリと振り返るがリナリアさんが普通にいるだけ。
おかしいな。確かに頭の近くで気配を感じたのかだが。
「いえ、気のせいでした。すいません」
エリノラ姉さんのせいで、変に気配に敏感になった気がする。
エリノラ姉さんはいつのまにか、すぐ後ろに立っていたりすることがあるから。
「…………(そーー)」
またしても俺の後頭部付近に気配が。
すごくウズウズする。
これがエリノラ姉さんだったら、俺は何回意識を刈り取られていることだろうか。
歩みのリズムを変えると、気配が遠ざかる。
一体何なのだろう。
ここにいるのは俺とリナリアさんのみ。
となると原因はリナリアさんしか考えられないのだが。
警戒していた俺だが誘い出す為に、警戒をとくことにしてみる。
断続的に近付く気配を必死に感じまいとしながら歩むと、俺の部屋の前に着いた。
なので普通に声をかけようと振り返る。
「…………あっ」
「………………」
立ち止まった俺の頭に乗っかるリナリアさんの小さな手。
「……なでなで」
「いやいや!」
「えっ、ごめんなさい嫌だった?」
「いや、そうじゃないですけど。急に頭を撫でられれば困惑しますよ」
「困惑だなんて難しい言葉よく知ってるねー」
「いや、今はそっちじゃなくて」
この人、実はすごく天然なのじゃないだろうか。
「えっと、何だかアル君が可愛くて撫でたくなってしまって……」
それで何回も後頭部に手を伸ばしていたと。
俺は警戒心の強い小動物か何かかよ。
「子供が好きなんですか?」
「そうなんです! 特に私は末の娘で姉妹しかいなかったので。特に弟が欲しかったんです!」
拳を握って力説してくれるリナリアさん。
なるほど、それはわかる。すごくわかる。
実は俺も日本では女である姉が三人もいて
、男である俺はなんと一番年下の弟として生を受けてしまった。
そして俺はことごとく姉に振り回され、玩具にされることに。
現在もそうなのだが、もし俺に弟がいれば過去の姉達や、エリノラ姉さんへの盾として使うことができるのに。
「その気持ちわかります。俺も弟が欲しいです!」
「本当!? ならば私の子になりませんか?」
少しリナリアさんのテンションがおかしい気がする。
「それは飛躍しすぎだと思います。第一ロリー……ユリーナ子爵と子供をつくればいいじゃないですか」
「そ、そんなユステルと子供だなんて。恥ずかしいです」
「いやいや、夫婦でしょうが」
思いの他長く廊下にいることに気付き、俺は一旦リナリアさんを部屋へと招き入れる。
「今暖をとりますね」
「この部屋に暖炉はないように見えますけど?」
リナリアさんの疑問に俺は火魔法で小さな火球を二つ作りだすことで答える。
「わぁ、魔法ですか? エルナ様にアル君は魔法が使えると聞きましたが、やはりお上手ですね」
「まあ、よく家で練習してますから」
最近ではエリノラ姉さんから逃げる為に、ある無魔法を練習している。
魔法はこの世界を楽しく彩るものであり、自分の身を守るものでもあるからね。
「私は少ししか風魔法を使えません。何かコツでもあるんでしょうか?」
「んー。気ままに使えばいいんじゃないですか? 邪魔な枝を落としたり、部屋の空気を入れ換えたり。細かな所に使えば毎日つかえていい練習になるのでは?」
「……えっと、攻撃用にウィンドスラッシュとか中級魔法などを練習したりしないのですか?」
「いや、攻撃魔法なんて物騒なものコリアット村からあまり出ないので使わないですよ。日常の応用からでも攻撃として使えますし」
「なるほど。アル君は考え方がなかなか面白いですね」
アル君はもう定着なんだ……
「なかなか難しいですけど、毎日使えば慣れますよ」
発想を柔軟にする。すなわち魔法によって生活が豊かになる。
そしてそれは、あらゆる脅威、主に姉から身を守ることになるだろう。
話が落ち着いた所で、リナリアさんがキョロキョロと部屋を観察しだす。
そんなに見られると少し恥ずかしいです。
「あっ、リバーシですね」
リナリアさんがテーブルの上に置いてある、リバーシに気が付く。
えー、今日は大会で散々やったし、最近リバーシばかりしている気がするのでやりたくないのだが。
「最近王都からもどんどん広まっていますよね」
どうやら裏切り者のトリエラはちゃんと捌いているようだ。結構結構。だけど、なんか無性に腹が立ってきたよ。
「そうなんですか。それは良かったですね」
腹が立ったせいで少し返事が冷たくなってしまった。いかんいかん。リナリアさんは悪くない。
「はい。お陰で父も大喜びで。あ、父というのはラウ・ウラジー公爵のことでして」
「公爵!?」
そんなビッグなパパなの!?
「え、えっと言ってませんでしたっけ?」
「初耳ですよ!」
公爵と言えば、王族じゃなければよっぽと大きな成果を上げなければなれない爵位ですよね? 大きな領地を持つ貴族の最上位じゃないですか。
「アルってば本当に父さんの話を聞いてなかったのね」
呆れた声を出して現れたのはエリノラ姉さん。
ノックして下さいといつも申し上げているのに!
「いや、ノックしたわよ。お客人がいるのにしないわけ無いでしょ」
気配でも消してたんじゃ。全く気付かなかったよ。
「もしかしてリナリア様は王族にご縁があったり」
「そ、そんな王族にご縁なんてありませんよ」
おずおずと答える俺の質問に、慌ててリナリアさんは否定する。
良かった。王族となんて関わりたくないよ。
「それならどうしてユリーナ子爵へ嫁いだのですか? 」
「そう、それを私もお聞きしたかったんです!」
俺の疑問にエリノラ姉さんも便乗してくる。
「え、えっとその……ひ、一目惚れです」
顔を真っ赤に染めて視線を逸らすリナリアさん。
照れないで可愛いいから。
「それってユリーナ子爵にですよね!?いつですか?」
そこを逃さずエリノラ姉さんは食いつく。
どこの世界でも恋話は人気ですよね。
それが他人であればなおさら。
「えっと……七年前に」
犯罪者だ! ユリーナ子爵は犯罪者だ!
な、七年前。というかリナリアさんは何歳なんだ!?
「失礼ですが、リナリアさんの年齢はいくつですか?」
これは大事! 日本よりも早婚が推奨されるこの世界でも危ないと思うんです。
横目ではエリノラが『あんた失礼よ』と目で語っている気がする。
「今年で十六歳になりました」
つまり九才からの恋愛ですか。
貴族では許嫁などという制度があるのは知っていたけど、それを関係なしに九才からの一目惚れが成就したなんて。
源氏物語と言う歴史的ハーレム小説を古典文学として持ちつつ、ロリコンというものに寛容さを持つ元日本人の俺でも受け止めきれる気がしない。
「それでどうやって結ばれたんですか?」
エリノラ姉さんナイスな質問だよ。
「えっと、最初はお父様も認めてくれなかったんですけど、長年想い続けることで認めてもらえるようになり、ユステルとも相思相愛の関係にもなれました」
はにかみように笑いながら言う。
「長年って」
「七年間ずっとです」
リナリアさんは満面の笑顔で答える。
「めっちゃ純粋や」
打算なんて微塵も無い。
貴女に心からの敬意を払います。
「身分の違う恋。素敵……」
エリノラ姉さんは感動しているのか、瞳に熱がある気がする。
「エリノラ姉さんは女子力が足りないから恋愛なんて無理だよ」
「はあぁ!? あたしにだって女子力くらいあるわよ!」
「エリノラ姉さん女子力とかわかるの?」
「も、もちろん女子力くらいあるに決まってるじゃない」
女子力とは、輝いた生き方をする女が持つ力であり、自らの綺麗さやセンスの良さを目立たせて自身の存在を示す力。
すなわち!
男性からチヤホヤされる力。
そんなエリノラ姉さんにとってはファンタジーパワー。そんなの持っているはずがない!
多分エリノラ姉さんの言う女子力は、腕力とか戦闘力だと思うんだけど。
「痛い!? 何で叩いたの!」
「あたしの勘が叩けって言っていたのよ」
「……そんな下らない神託があるのか」
「ウフフ、仲がいいですね」
部屋には頭を抑えた俺と、腕を組んでそっぽ向くエリノラ姉さん。
そしてクスクスと笑う、リナリアさんの声が響いていた。
スローライフの更新もどんどんしていきたいと思います。