仕切り直して、方針を立て直してみた
会議は一旦終わり、日を改めてもう一度という事になった。
明日も昼から会議なんで、深夜時間帯を2日連続で弟に代わって貰う事にした。
今年に入ってまだ数日ではあるが、弟の方が深夜シフトが多くなった。
「大学卒業したら、絶対うちでは働かない! 絶対就職成功させる!」
と深夜が連続になったら文句を言ってやがった。
そうだ、お前はさっさと就職しろ、今は就職氷河期じゃないんだし。
あと、去年俺は「月月火水木金金」なんて言われるくらい連勤だったんだ。
一週間も連続してない癖に文句言ってんじゃねえ!
てな微笑ましい兄弟喧嘩の後、親父と話をしたかった。
思い返したら、あの偉そうな面々に説教みたいに言ったのが凄い恥ずかしい。
が、一個の判断材料は親父なんだから、疑問に思った事を聞いてみた。
「親父、ある人が『何が正解か分からないなら、私情で判断するのも間違いじゃない』
って言ってたけど、どう思う?」
親父を俺の顔をマジマジと見て
「後悔しない判断ってなら、それでいいんじゃないの」
と答えた。
「実は…」
「面倒臭い話は聞かんぞ! 首突っ込んだお前の責任だからな」
「…じゃあ例えばって話で。
例えば、親父が過去に戻ってより良い現代になるように修正出来るなら、
やってみる? やらない? どっちだ?」
「やらないな」
「ほお! どうして?」
「より良い現代って、金があるって事だろ? うん、それ良い現代だな。
でも、あの時の判断が間違っていたとは思えない。
さっきのお前の質問で言うなら、今金が欲しいも私情だし、
あの時『やってられるか!』って思ったのも私情だ。
正義とかはどこにもねえな」
「正義とかはどうでもいいんだけど…。無責任な判断でいいから、やり直させようと思わない?」
「今の俺は、過去の俺のあの気持ちを覚えてるから、それは無いな。
もしその辺抜きなら、今の俺はやり直そうとさせる、そして当時の俺はやっぱりやらない。
それでいいんじゃない? お互い言いたい事言って、やりたい事やるんなら。
今の俺の私情を過去の俺に押し付ける気もないし、
過去の俺も今の俺を全部否定はしないだろうな」
「さっき正義とか言ってたけど、例えば歴史的意義とか、社会正義とかそんなのは?」
「そんなのあったら選択肢じゃねえな。一択しか出来ないんだろ。
まあ俺はそういう選択肢突き付けられたら、逃げるけどな」
「はは…(苦笑)」
「逃げるしかねえぞ、お前。責任負わされてたまるかってんだ。
責任は相応の者が負えばそれでいいんだ。
お前も面倒をいつまでも背負ってないで、どっかで終わりにしろよ。
ま、やった分だけ親方日の丸から金貰い続けるのは良いことだ」
まあ、こういう親父だ。
全面的に肯定はしなくても、俺は頭の整理が出来たような気がした。
翌日:
会議に俺は定刻通りに来たのだが、お偉いさんたちはもう大分前に来てた感じだった。
全員揃ったとこで、決定事項みたいな形で話が始まった。
「昨日君たちに言われた事だが、整理がついた。
初心に戻って、歴史を変えてでも先人を助けるって事で、この会議はやっていく」
そして学者だそうだが、その人が言った。
「その決定に自分たちは従えないので、私は離脱します。
これまでの機密については、誓約書通り、決して他言しないのでそこは安心して下さい」
「この件は小一時間前に話をして、そうする他無いねってなりました。
まあ会議前の話し合いは内輪の打ち合わせみたいなものなので、
この場で離脱の方は起立して下さい。
そして、離脱反対の方がいなければ、会議として承認しようと思います」
反対者は無かった。大学、研究所、シンクタンクの3分の2が離脱を表明し、
一礼して名札を返し、会議室から出て行った。
残った人たちは、そもそも歴史改変にそこまで反対ではないか、
反対ではあるが「どうしても『門』について調べ尽くしたい」という面々だった。
「警察も歴史改変には反対でしたね」
誰かがそう言うも
「反対ですが、我々抜きで、また脱走とかあったら手が打てないでしょう?
それに人道支援の方は賛成、これも小さな歴史改変ですからね。残りますよ」
そういう回答だった。
意見は「どんな手を使ってでも、先人を出来るだけ救う」に指向した。
政治家先生は「それが第一で、データ取って将来に生かすは第二としよう」と言った。
「総理への説明は僕がしておくよ。ミッドウェー海戦か。
確かにあの時みたいに目標が二分してると、いざという時の判断に影響が出るだろうね」
その言葉で俺も思い出した事があった。
挙手をし、発言許可を貰った。
「現場の自衛官、警官、医官の人たちにも、この方針をはっきり伝えて下さい。
俺が彼等から頼まれたので、これは言っておかないと、と思いました。
あの人たちも、方針が曖昧で、非常時の責任を負いかねるようです」
「そうですね…」
広瀬三佐が上官らしい人と小声で話をし始めた。
「そうしましょう。そして、方針に反対の人の離脱も認めましょう」
これも全会一致で承認された。
夕方:
「門」が開く事が無いから、自衛官、警官、研究者、医官、非番も含めて全員が一度集められた。
会議室の、なんか偉そうな人サイドの席に座ってる俺を見て、
浜さんが敬礼し、野村さんはお辞儀をし、和田君は親指を立てた。
改めて、今後の方針の説明と協力依頼、協力出来ないという
個人の信条があれば離脱許可が告げられた。
自衛官から3人、警察から2人の離脱が出た。
「歴史を変える重みに耐えられません」との事だった。
親父の言葉を思い出す、『責任なんかかぶってたまるか!相応の人が責任は取ればいいんだ』。
彼等は自分が関わる事で、何らかの責任を負ってしまう気質なのだろう。
それはそれで否定できないな。
一方で医官と研究者は全員残ると言った。
「幸い自分たちは、そんなに歴史を変える職分じゃないので、気軽なものです。
むしろ助かる患者を助けない方が、余程気が重くなります」
とは医官たちの一致した意思だった。
…ここのいるお偉いさんたちは、その「助けられるとこを、一方的に打ち切られた」事から
今回の行動に繋がっているのだし、人間そういうものなのかな。
一方研究者たちは
「こんな機会は探してもあるものではない。崇高な意思とかとは無関係だが、
研究材料を手離したくないんです。どこまで出来るか分かりませんが、最後まで居させて下さい」
と言っていた。
(私情で判断するのも間違いじゃないよな、そう思う)
今後の方針と、現場での判断について権限拡大と、責任は上官が取るという明確な意思表明があり、
現場の人間の士気が上がったように見える。
それまでは「出来る限り先人に配慮しなさい」「何かあったら報告しなさい」だったからね。
そして持ち場に戻って貰う事になったが、その前に
「思っている事、言いたい事があったら、全部聞きますから、言って行って下さい」
となった。
「それは、この部屋の全員ではなく、自衛官なら防衛省関係者、警察なら警察関係者に
個々に言った方が良いのではないでしょうか?」
「門」前の部隊で一番偉い人がそう発言し、結局そうなった。
そうなったのだが…ある議題で会議全体の話に戻った。
きっかけは、ある警察官からの質問だった。
「そういえば、以前ガ島から持ち込まれた南部十四年式拳銃と手榴弾って、どこ行きました?」
「あれは、どこ行ったんだ? 警視庁で保管してる筈だが」
「いや、受け取って無いが」
「凶器なので保管の義務があった筈ですが、その後の事が気になってましたので」
「ちょっと! 自衛隊さん、誰かこっち来てくれる?」
「はい、何でしょうか?」
「以前ガ島の脱走兵が持ち込んだ銃器と爆弾、どうなりました?」
「警察にお渡しした筈ですが?」
「受け取ってないから聞いてるんですよ」
「少々お待ち下さい。おい!仏舎利の件の脱走兵が出た時の当直、こっち来てくれない?」
「はっ、自分がその時おりましたが」
「例の腹に詰めてた拳銃と手榴弾、どうした?」
「彼(研究員)が検査をしていました」
「その後は?」
「警察に渡すようにと伝えましたが」
「ちょっと呼んで来て貰えます?」
「はい、何ですか?」
「2回目の脱走事件の時、ガ島から持って来た銃と爆弾、どうしましたか?」
「許可を得て、各種研究設備で調査しました」
「誰の許可?」
「広瀬三佐です」
「おーい、広瀬さん、こっち来て貰える?」
「…そこに集まり過ぎだから、マイク使って全体の話にした方が良いんじゃないですか?」
「そうしようか」
改めて全員が着席、予備のパイプ椅子にも座って、自衛隊・警察・研究機関と別れた。
「拳銃と手榴弾の調査許可は出しましたか?」
「はい出しました。調査後に元の位置に戻すって事で許可を出しました」
「調査後、元に戻したのですか?」
「はい、確かに現場に戻しました」
「その後どうしたか、知ってる人は?」
「確か、5日後ですかね、銃と手榴弾を持って来たのを見ました」
「それでどうなった?」
「ガ島の兵士が持って帰りましたよ」
「「「「「はあああああ??????」」」」」
「あれは警察が保管する事になっていたのですが」
「自分はそのような説明を受けておりません」
「自分は事件翌日の当直でしたが、その件は知っていました。その日は来ませんでしたが」
「自分は3日目の当直でした。その件は聞きましたが、やはり来なかったのを覚えています」
「自分は4日目の当直です。メモ書きで見ました。もう警察が持っていったものかと思ってました」
賀名生さんが『メモ書き…、やはりセキュリティはローテクな部分に穴がある』と呟いていた。
そして賀名生さんは
「どうやって持って帰ったの? 仏舎利に詰めてた?」
と質問したら、意外な回答
「いえ、普通にホルスターに納めていました。
現場は武器が足りてないから、自分たちのものなら持っていく、と。
『先人の意思を尊重するように』って事だったので、そうしました」
「待って、それで『門』潜れたの?」
「洞窟内には落ちていませんでしたから、行けたのだと思います」
偉い人の席がざわざわし出した。
賀名生さんが発言した。
「もしかして過去から持って来たものはノーチェックで通るんじゃないか、
という疑問があったけど、ノーチェックだったみたいね。
必ず『人』というパケットを必要とするけど。
武器は持ち込む時はチェックがかかるが、持ち帰る時はチェックがかからない!」
現場関係者は首を傾げている。
「パケット」云々の仮説は彼等は聞いていないから。
賀名生さんは
「あとでプリント作って渡すから、納得はその時にして。
僕の仮説。時期が1942±数年のものならば、ガ島から持ち出したものと見て、
『門』というファイヤーウォールはノーチェックで通してしまう」
そう言った。
「つまりは?」
「もしも大戦中の兵器が使える形で存在していたなら、それをガ島に送る事が出来る」
一瞬ざわざわする会議室を広瀬三佐が制した。
「そんなものありませんよ…」
「無ければ作ろう。現在でも当時とほとんど構造の変わらない武器がある筈だ。
年代測定法を誤魔化せたら、『門』を堂々と通過して武器を搬入出来る」
(続く)
感想ありがとうございます。
この章後半は、書いてて中々に難しかったです。
話の展開上、どうしても現場に手落ち、読む人によっては「こんな無能に書くなよ」という
描写が出てしまい、いずれ直すにしても難しいなと思ってます。
あと「兄弟で勤務の差が激しく違い過ぎる」とありましたので、
一応弟君は大学生でバイトです。
バイト君に無理はさせられません。
「俺」氏は30前後で「(名ばかり)管理職」です。
そんで弟君、今就職活動中です。
「後出し設定乙」と言われるかもしれませんが、こんな感じです。
親父殿の現在のやる気の無さと無責任さは、とりあえずフォローしないでおきます。
キレ者がやる気根底から無くして、世捨て人に近くなった感じなので。
(本当はどっかで「元キレ者」な見せ場書きたかったんですが、出番作れず)
次回、別な意味の「キレ」者辻―ン復活です。