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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第7章:U・S・A!
43/81

アメリカ兵が現れた

20XX年12月31日

大晦日の音楽番組で俺は今年流行った

ア・メ・リ・カ!!な歌を観ていた。


年が明けた。


20XY年1月1日 東京某所

俺は正月をぬくぬくと過ごしていた。

元々コンビニの副店長やってる俺は、1942年のガダルカナル島に補給を行うという、

普通に考えてあり得ない任務に関わってしまった為、深夜時間帯にシフトが固定されて久しい。

だから朝・昼・夕まではダメ人間として過ごす事に決めた。


…という俺個人の事情はさておき、おかしいのだ。

去年、20XX年12月27日の開門時間から、1942年のガダルカナル島の日本兵が来なくなった。

この1942年に通じる「門」を調査している自衛隊が言う事には、確かにまだ繋がっている。

それなのに兵士が全く現れなくなったという。

関係者は不安になっていたそうだ。


その間に「会議」が行われていたみたいだが、俺も関係者だけど呼ばれていない。

なんかクリスマスの「足作戦」で、1942年に近代兵器を持ち込む方法が分かったとか。

その為、「何をどれくらい持ち込んでも大丈夫か?」という討論が、

「いい年したオッサンが光る額を寄せながら真剣に」(賀名生氏談)

なされているそうだ。

俺の出る幕じゃないね。


さて、22時になるし出勤、出勤。

大晦日は、山の上の方にある神社とお寺に二年詣での行列が出来る。

車も珍しく渋滞し、うちのコンビニも深夜から現前中まで大忙しだった。

この現代人の大行列の中に、日本兵が現れなかったのは楽ではあった。

自衛隊の方でも、日本兵と鉢合わせさせないよう、基地からの外出を禁止していた。

代わりにお神酒と餅を用意していたそうだが、彼等は来なかった。


この日も何も起きなかった。

なので2日の夜は、久々に弟にシフトを代わって貰った。

そして…事件を呼び寄せる弟の運が発動してしまった。




…思い出せないけど、多分俺はいい夢を見てたんだと思う。

それだけに非常事態発生の報告で起こされたのに腹が立つ。

…電話を切って寝ていた俺に、弟のニードロップが突き刺さって目覚めさせられたのだが…。


「…殺す…」

「待て兄貴、今どっか酒屋開いてないか?」

「上の神社前の酒屋は、爺さんが早寝だから21時には閉まってるの、

 お前も知ってるだろ? つーか、うちの店でも酒類扱ってただろ」

「じゃあさ、バドワイザーある?」

「あ? 売ってないぞ」

「あとアメリカの酒って何がある?」

「日本酒飲ませとけ…」

「アメリカ兵にか?」


一気に眠気吹っ飛んだね。




その日、誰も来ない「門」の警備に自衛隊もいい加減不審がっていたのだが、

突然その男は現れた。

足を滑らせて転んだようで、軍靴から先に現代に現れた。

深夜の事で、自衛官は「大丈夫ですか?」と転んだその男に手を差し伸べた。

瞬間、男は相手が日本人だと、自衛官は男が米兵だと気づいた。

米兵は構えを取ろうとして、手に銃が無い事に気づいた。

腰に手をやったがそこに拳銃が無く、ナイフも消えていた。

男は逃げても良かったのだが、そうせずに大声を上げながら殴りかかって来た。


自衛隊の対応マニュアルには「アメリカ兵が現れた場合」のマニュアルも用意されていた。

その中の「暴れた場合」には、やんわり制圧して落ち着かせるとあった。

米兵を取り押さえ、英語で話しかけて建物にとりあえず軟禁した。

落ち着かせる為に酒でも、と思ってうちのコンビニ詰めの自衛官に連絡を入れた。

「そちらにビールはあるか?」

和田君が地ビールとかはありますよ、と回答。

違う、バドワイザーとかミラーとかクアーズとかアメリカのやつ、

そう聞いて和田君は事態を悟った。

弟はパニくって、俺を起こしに来たようだった。


フウーーーー。

なあ弟よ、コーラとかコーヒーじゃダメだったのか?

「あっ…」

と呆けた表情の弟の頭を捕まえ、ブルドッキングヘッドロックでさっきの借りを返した。

さて、起きてしまったし、顔を出してみるか。




「ご苦労様です」

と警備の自衛官に敬礼をされた。

「コーラでも飲ませましたか?」

と聞くと、やはりそう対応したようだ。

(ビンでなく缶に入ったコーラを見て「何だ、それは!」と騒ぎ、

 紙コップに注いで飲ませた模様)

あとはガムを噛ませてやり、何とか落ち着くよう話しかけているそうだ。

「門」の閉鎖ギリギリに来てしまった為、帰す事も出来ず、あと22時間は「現代」に居る。

風景を見て、ガダルカナル島のものでないのでパニくり、

日本人だらけなのに英語が通じる為、首を傾げていた。

やっと意味を持つ言葉(それまでは「殺す」や「くそったれ」という罵声だった)を話した。

「もしかして日系人部隊か?」


日系人部隊である第100歩兵大隊は、ガ島戦当時には編制はされていたそうだが、

1943年1月頭はウィスコンシン州キャンプ・マッコイで訓練中だそうだ。

アメリカ兵が帰った後に、余計な話をされても辻褄が合わない。

(日独伊三国同盟大戦車部隊なんて法螺は、特殊な状況だから吹けたのだ)

自衛官は嘘は言わずに答えた。

「我々は日本の軍事組織だが、アメリカと戦う意思は無い。ここは赤十字の拠点のようなものだ」

米兵はまた喚き始めた。

「ジャップが! 赤十字だと? 嘘をつくな。だったらその銃は何だ?」

「この銃は日本陸軍のタイプ99とは違うだろ? 我々は日本陸軍所属ではない」

「それと俺の銃をどこにやった?」

「多分洞窟の向こう側に落としたんだろうな」

「俺を早く帰せ、殺すぞジャップ!」

「はいはい、明日になったら帰しますから、今日は大人しくして下さいね。プリーズ」

「なにがプリーズだ、ふざけやがって。今すぐ俺を離せ」

「どういう理屈か分からないけど、あの洞窟は一定の時間しか開かない。

 だから、いい加減諦めて落ち着いて欲しいものです」


いまだ噛みつきそうな勢いのその男に、別な自衛官が質問する。

「貴官の氏名と階級は?」

「トッド…、マイク・T ・トッドだ。階級は軍曹」

陸軍(アーミー)海兵隊(マリナー)か?」

「陸軍だ」

「どうしてあの洞窟に? 一体何が起きたんですか?」

「はあ?」

トッド軍曹は間抜けな質問をした日本人に、イヤミをぶつけた。

「お前ら、負けて逃げてただろ。まさかここに、こんな数がいるとは思わなかったが。

 そして負け犬が洞窟で震えてると思って覗いてみたら、この有様だ。

 お前ら、降伏するなら俺を釈放し、俺に着いて来い」

自衛官は表情を変えずに聞いていたが、後ろの方ではバタバタ動くのが分かる。




「えーっと、すみません、俺ここに居る意味あります?」

バタバタした「社務所」の前で俺はコンビーフとソーセージとコーラ缶と

「PLAYBOY誌」を入れたビニール袋を持ってボーっと立っていた。

自衛官が中身をチェックして、

「これは戦時中は無かったので、我々が有効活用させていただきます」

と「PLAYBOY誌」だけ抜かれ、あとは「社務所」の方に持って行かれた。


年始休暇切り上げなのは、「会議」の面々も一緒だった。

民間系は流石に招集されなかったようで、統括部長は「後になって初めて知った」そうだが、

広瀬三佐や前田警部といった公務員は緊急呼び出しを受けていた。

(賀名生「あ、僕は外部の嘱託だから、休日出勤はしないよ~」)


「『門』の一帯が米軍の手に落ちた?」

「その米兵からの供述はどうなっているんだ?」

「日本軍は一体どこに行った? 辻政信は?」

「というか、その辻政信が一番危ないじゃないか」

「やったのか? 我々にも黙って全面攻勢にでも出たのか?」

「1月中旬、撤退を悟らせない為、と確かに連絡はしていたぞ」

「あいつが我々に一々経過報告するなんて思った方がおかしいんだ。ああ、失敗した…」

「『足作戦』にばかり気をとらわれていたのが失敗だった」

様々に嘆きが飛び交っていた。

彼等は、好意で助けてやっている過去の人間が、まさか自分たちを出し抜く等

予想していなかったのだ。

自分たちは、好意か何かは知らないが、「何者か」を出し抜こうとしていたのに。

その「何者か」を出し抜く作戦が、同時に辻政信という過去の人間が

相対的に未来の人間であるここの連中を出し抜く機会を与えてしまったのだ。

辻は機を得るまで、ここの会議の連中にも、第17軍や第8方面軍司令部にも、

「彼等の望む想定内の我がまま」だけを見せて安心させていたのだった。


広瀬三佐は報告書をまとめてから会議室に入った。

(状況はかなり悪い。「門」はもうおしまいかもしれない)

そう思いながら、一礼して会議を始めた。

「えー、皆さん、事情はお聞きの通り、『門』からアメリカ兵が現れました。

 彼の話をまとめると、日本軍は攻勢に出て失敗し、元いた陣地より後方に撤退…、

 言葉を飾らずに言えば散り散りに逃げ去ったそうです。

 戦況について、米兵、トッド軍曹の話をまとめましたのでご覧下さい」

広瀬三佐が印刷した資料を配る。

そして日本軍の攻撃の様子が伝わった。

(続く)

感想ありがとうございます。

大分前の感想で「日本兵が来るなら米兵も来るんじゃねーの?」ってあったような気がしました。

…ネタバラシしないで、と思ってましたが、とりあえず本当に来ました。

具体的には(現地行ってみないと)決めてないのですが、エスペランス岬から山に入って

丸一日歩くくらい、第17軍司令部からは歩いて半日くらいの場所を想定してます。

その辺って、米軍に奪われていなかった場所だと思いました。

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