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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第6章:足作戦
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「足作戦」分析・その1:金額チェックに残された「何者か」の足跡

20XX年 東京市ヶ谷の会議室:

「ううむ…」

集まった一同は取られたデータを見て嘆息した。

「『門』は物を通過させる際に、コンビニ本店のマスタデータを覗きに来ていた。

 瞬時の閲覧で、かつ電子的な足跡を一切残さない。

 このハッキングは、アクセスがあった瞬間モニタオンにする罠でも、

 人間の目には一瞬しか映らず、ノイズが走ったようにしか見えない事で誤魔化されていた。

 しかし、外部に仕掛けた監視カメラのスロー再生で証拠が残った。

 その証拠を時系列で並べると、確かに『門』通過時間と一致する」




ひと月前、「足計画」発動に際し統括部長は「金額」というものの話をし始めた。

「金額って主観的なものですよね。

 例えば、これ私の私物なんですけど、テレフォンカードがあります。

 普通に考えれば105度数なので1000円です。

 しかしこれ、実は私が若かりし頃に売れてた某アイドルのサイン入りなんです。

 さて、いくらになるでしょう?」

「(苦笑)いくらかは知らないが、プレミアついて価値が上がるだろうね」

「では、それはどうやって調べます?

 おそらく検索して調べるでしょう。

 ではその検索エンジンはどこから調べているか。

 そうやって突き詰めていけば、金額は主観的なものでありながら、

 デジタルデータという照合がしやすいものでもある。

 どこかが決めた価格テーブルを覗けば良いわけです」

「ふむ。分かって来た。つまり、君の会社の規則(ローカルルール)を知っているということは、

 確実に君の会社の何かを覗きに来ている、それをキャッチしようということなんだな」

「そういう事です。

 ただし、そう簡単でも無いので協力を依頼したいのです」

「何かね?」

「データベースが覗かれた、規則情報を覗かれた、それならその痕跡を探せば良い。

 しかし、アクセスログ、サーバログ、ネットワークの通信全て当たりましたが、

 例の『何者か』の足跡が残っていないんです。

 だから専門家を使って、その『彼』の足跡を見つけたいんです」

「では警視庁のサイバー犯罪室で使ってる者ですが、心当たりがあります。

 …ちょっと癖の強い男ですが、彼を推薦します」

「経歴書を後でくれないか?」

「それが…、自分の個人情報を出すのを極端に嫌うのです。

 『セキュリティはローテクな部分から突破される』なんて言ってまして」

「名前も知らない者じゃ使えないぞ」

「保証人として、警視庁(うち)のプロファイラーを出します。

 この2人で組んで、相手の行動から残される足跡を探し出しています。

 正体は分からずとも、もう1人の方に責任を負わせます」

しばし雑然とした時、統括部長は言った。

「私としましては、足跡さえ掴めたら相手が悪魔だろうがアイドルだろうが、かまいません」

「後半は本音だろ」

「分かった、君にも責任を負ってもらうよ」

「分かりました。では、大至急手配をお願いします」


「あと、この足跡を見つける作戦ですが、一計あります」

「聞かせて貰おう」

「来月クリスマスがあります。

 クリスマスは1日違えば、値段が大きく変わる商品を扱っています。

 その値上げ、値引きに関して、一応消費動向を見て決めているのですが、

 ここに罠を張ろうと思います」

「続け給え」

「『彼』は原価ではなく、企業が決めた価格を見ている。

 思えばコンビニエンスストアの前に『門』を開けるって、計算づくでした。

 そこの本部のデータベースをハッキングすれば金額は分かるのですから。

 あの店のもっと山の方に行った、寺社の門前の土産物屋さんなんかの前だと、

 かえって苦労したでしょうね。親会社もなければ、たまに金額が10年前ので止まってる。

 話を戻します。コンビニゆえの賞味期限による値引き、季節商売、イベントにも対応できる。

 それ故に、クリスマスとなるとどのデータを見に来るか、予想がつきます。

 そこで、他店への迷惑はかけないように、特例を用意します。

 つまり26日になったら捨て値で売る、そういう規則を作り、読ませるのです」

「その作られた規則を踏んだ時に、ベッタリと足跡が残るという訳か」

「そうです。で、その足跡を取る為に、クリスマス後に安くなるチキンレッグを使いましょう」

「鶏の足で、『何者か』の足跡を取る、か。中々ウィットが効いているではないか(笑)」

「この作戦は『足作戦』と名付けませんか」

「異議なし」


こうして「足作戦」が策定された。




翌日:

「東京西部山村地区の統括部長さん、いる?」

〇〇ホールディングスの本店に、ネクタイをしていないラフな格好で男が訪ねて来た。

受付嬢は内心を隠して笑顔で

「お取次ぎの前に要件を伺います。アポイントの方はありますでしょうか?」

と尋ねた。

「アポ? あるよ。あ、名刺出すの忘れてたね。はい」

だが、出された名刺を見て、受付嬢は慌てて連絡を入れた。

「経済産業省情報セキュリティ政策室顧問 賀名生 丹益 ~Tamiyasu Anoh~」


統括部長は応接室に通し、人払いを命じた。

賀名生(あのう) 丹益(たみやす)さん、別読みして『あのうにます』さん、匿名(アノニマス)さん…。

 昨日会議で個人情報隠す人だって聞いてなかったら、分かりませんでしたよ」

「部長さん、アウト! 簡単に会議がどうこう言うの、個人レベルのセキュリティ甘過ぎ。

 情報はローテクな部分から漏れる事多いのよ」

「肝に命じますが、そういうやり取りより、いきなり今日来た理由を伺いたい。

 まさか今日急に来るなんて」

「行動は読ませたくないんでね。

 ま、本題に入る。

 特別規則とやらは今日中に作ってアップして。

 会長さん、アレの同志なんでしょ? 何なら話通して」

「え? 今日中?」

「ネット検索って、集めた情報をインデックス化しといて、そこから検索ってパターンもあるのよ。

 もしもそれがそういう仕組みだったら、直前にアップしても読みに来ないかもしれないよ」

「あ! ボットとかそういう奴ですか。確かにもう一月も無いし、

 更新タイミングが一月単位なら危ないですね」

「だからすぐに作業入って。

 あと僕は、表向きプライバシーマークの審査って事にしとくから、

 サーバセンターの関係者に会わせてね」


統括部長はその日、終電間際まで作業し、「何これ?」と事情を知らないサーバ関係者に、

会長の許可ありとか強引に言いくるめて、例の金額設定や寄附規則を投入したという…。


匿名(アノニマス)氏はさらに色々な要求を出した。

その日、サーバセンターは警察関係者が入れるようにする事。

通常24時間照明がついているサーバルームを消灯する事。

監視カメラはデジタルカメラの他、フィルムカメラも用意した。

「これなら電子的ないたずらで消すことは出来ない」

電圧の変化、電磁波の測定、様々に準備をしていた。

全ての準備を終えたのは、クリスマス直前であった。


統括部長のアリバイ工作は他にもしていた。

実際に某児童施設に対し、クリスマスケーキの寄附を行い、その帳簿は5円でつけさせた。

他のコンビニも巻き込んだ訳だが、「社会貢献活動」の一言でその店は従った。

凄く喜んでくれたと報告が入った。

悩みの種は「来年からどうしよう…」という事だが、

今回はそれに見合った成果が得られた。




再び時間は12月26日:

「チキン10個セットを渡す時、ホールケーキを渡す時、ショートケーキ詰め合わせを渡す時、

 それぞれの時刻が秒までの情報で現場から報告されてますが…

 これは凄い、本当にその時間ピッタリだ…」

「0円でも良かったのでは?」

「以前0円設定したものは弾かれたが、今回のやり方なら」

「試す価値はあると思うけど、多分ダメだと思うから5円にしたんだよねー」

会議への参加資格を得た匿名(アノニマス)氏が言う。

「と言うと?」

「価格がついていないと判断したら、別のデータ見に行くっしょ。

 0円って怪し過ぎるから。

 コンピュータのプログラムでも0って割り算出来ないからチェック対象になるよ」

「0除算? では『門』はプログラムか何かで動いているという事か?」

「正確なとこは分かんないですけど、プログラムって程大したものではないでしょう。

 貴方たちも散々言ってるように、設定ですよ。

 設定をして置くだけで動く、便利なデバイスだろうね」

「それは後で聞こう。

 次の問題だが、武器はどうだ?

 武器と判定しているデータベースがあるのではないか?」

「ビンゴ! でも、多分そこはいじれない」

「どこだと君は思っているのか?」

「推測だけど”ジェーン年鑑”だろうね。あそこが一番充実している」

「む…確かに。そこは今回みたいな工作が出来ないな」

「”ジェーン年鑑”もこの時代のデータじゃないでしょ。

 未来なら1942年の武器も20XX年の兵器も、その他の時代も全部調べられる。

 それについては”価格”と違って現在に調べに来る必要が無い。

 そして、そうであれば我々では手が出せない…」

「では”ジェーン年鑑”で兵器と定義されていない物ならいけるのでは?」

「そこは金額設定に引っ掛かるね。

 でも、どこのデータベースか何となくは予想つく」

「防衛省の調達のデータか…」

「メーカーの情報が直接見られているかもしれない」

「そこも今回みたいな罠張って、当たりなら何とかなる。

 何とかなるけど、それでいいの?

 貴方たち、本気で大戦中の日本軍に武装面でも協力するで、一致してんの?」

ざわつき始める。

毎回その議論は、出ては途中で「まずは…」という議題で誤魔化される。

「まずは」の対象こそ「足作戦」だったので、もう先送りは出来ない筈だが…。


「それはさて置き…」

(匿名氏「さて置くのかい?」)

「『門』のメカニズムについてはどうなっている?

 科学的アプローチは?」

ここはやはり進展無しだった。

「では、『彼』の心理や行動から見たアプローチは?」

警視庁のプロファイラー前田警部と匿名(アノニマス)氏が答える。

(続く)

感想ありがとうございます。

今日は種明かし部です。

勿体つけず、今日中に3話出して一気に説明します。

2部目は2時間後の投下です。

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