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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第2章:法螺を吹くならよりデカく
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色々と新しい伏線が張られたっぽい

賞味期限が近い商品に値引きシールを貼る作業。

これもマニュアル化されている。

100円の商品には「5%引き」とか「10円引き」を貼り、

廃棄寸前に「20円引き」を貼ったりする。

100円の商品に「50円引き」を最初からは貼らない。

「半額」を貼って良いのも、もう少し高い商品からだったりする。


俺は、結局何連勤だったんだろ?

覚えてない。

それくらいだから、「30円引き」シールを貼るところを「50円引き」を貼っていた。

それをレジ通した。

それくらいの事はたまにあるヒューマンエラーで、大きな問題にはならない。

だが、俺が関わってしまった極秘案件では、ちょっとした問題を引き起こした。



自衛官が店にやって来た。

先ほどの買い出しの日本兵におまけでつけた弁当が、現代に残されていったそうだ。

藪の中の陣地に行ってみると、思った以上に深刻な声で通信が飛んでいた。

「店内控えを見せて貰えますか?」

と言われ、それを出した。

「確かに2090円です。では金額の閾値(しきいち)も下がったって事か?」

俺は「も」と言ってのを聞き逃さなかった。

「『も』って何ですか? 何かあったんですか?」

自衛官はちょっと付近の同僚の顔を見た。

一番上っぽい人が手で丸を作っていた。

「はい、実は『門』の開通時間が短くなっているようなんです。

 それで上の方が会議を開いているようです。

 詳しいとこまでは分かりませんが、

 店長さんも戦車騒動の時の帰れなかった日本兵は覚えてますよね」

「あ、あのいつもより10分以上早く閉じてしまったってやつ。

 あれ、ずっとなの?」

「そのようです」


へー…、で済ませて帰ろうとしたが、事は自分の売った物が発端だから、俺にも調査依頼が来た。

金額制限も、実は気づかなかっただけで、徐々に減っていってなかったか?

1ヶ月分の日本兵に売った分の金額を整理して提出、品目も調査。

俺は疲れてるのに!!

まあコンビニは記録がしっかりしているから、ちゃんとやればこの辺は機械が出力してくれる。

それを分析するのは人間の仕事だ。




「なーーんか面倒な事がまた起きたんだって?」

報告をまとめている俺のとこに統括部長が来た。

金額、商品関係の事だから出張って来たみたい。

部長と一緒に、バックヤードでチェック。

朝からシフトの親父は、やっぱり顔を出そうともしない。

客が来ない店内で、陳列棚の整理をしたりしてる…。


「うん、おかしいのは今日だけだね」

統括部長のお墨付きが出て良かった。

なんとか会議の方の電話も、統括部長が応対してくれた。

色々助かります。

電話を切って、再度チェックした。

「この日のレジだけど、この弁当の値引きおかしくない?」

「え?」

「これ、時間的にまだ50円引きにしちゃダメだよ。30円引きでしょ」

「あ」

細かいなあ…。

しかし、その50円引き弁当が実は30円引きだったって事で、実は2110円になっていたのか…。

兵隊さん、ぬか喜びさせてごめんなさい。


統括部長は首を傾げた。

「でもさ、こんなのよくある事だから、レジを通った時点で金額確定だと思うんだ」

「はあ」

「だってさ、一応マニュアルでは30円引きだけど、

 店員が50円引きで良いとして、金銭受け取って物を渡したら契約成立だよね。

 金額って、双方納得して契約成立したらそこで確定だよね」

「ですね」

「なんでレジの金額じゃなくて、本来そうするべき金額が分かったんだろうね?」

「さあ…?」

「うん、ちょっとこれは問題だよ」

「はあ…」

俺はよく分からない。つーか、寝たい。

「いいよ、いいよ、この辺の事務は私がやって置くから、もう帰っておやすみ」

「ありがとうございます。助かります」

「で、今晩もお願いね」

「……鬼…」

それでも太陽が昇っている中、俺は帰宅した。




統括部長は諸々プリントアウトしたり、スマホで写真撮ったり、

メールに資料添付したりして帰っていったそうだ。

その後本部に戻った統括部長は調べ物をしていた。

「流石に見当たらないか。どうしてくれようか…」

PCの前で独り言を呟いていた。




-------------------


「会議もこう連日は面倒ですな」

「まあ今朝の報告が誤報だったって事は共有しとかないとな」

出席者同士の私語の後、会議が始まった。


「『門』が開通時間が短くなっているという報告に続く、

 金額設定も変わったかもしれないという報告は、

 結果から言って誤報でした」

ふうー、と安堵の吐息。

「さて問題はここからだ。

 例の副店長君はミスと言えないミスをしただけで、会計としては問題無かったようだ。

 一応値引きの規則というのはあるが、ある程度は店員の判断に任せる部分もあるからね。

 ところが『門』は正当な会計ではなく、本来のルールの方を優先した。

 恣意的に値引きしたわけではなく、貼り間違いとは言え、許容範囲の金額でも弾いた。

 これについて説明があるそうだ」

統括部長が話す。

「この金額の件、以前の実験で割に合わない値引きや0円設定が弾かれるのは、

 原価が元になっていると考えていました。

 しかし、30円か50円か、そんな値引きはどっちでも正当だと考えていました。

 ここにある根拠は、元の価格と値引き範囲、賞味期限との比較という人為的な営業規則(ルール)です。

 原価から言ったら、まだ元が取れる値段だったにも関わらず弾かれた。

 つまり、原価で計算はされていない、と私は考えました」

一瞬の沈黙の後、周囲から質問が出る。

「つまり、『門』を開けた存在は、君の店の規則(ローカルルール)を知っているという事か?」

「おそらくそうです」

「どうやって…って、マニュアルくらいどっかから手に入るか」

「原価でなく人為的ルール優先、それを確認するにはどうしたらいい?」

「実は腹案があります」


統括部長の提案で、一同笑った。

内容がおかしかったのではなく、やる事が何となくユーモラスだったからだ。

「なるほどね。確かにアレは祭りの後は捨て値で売られる」

「ガ島の司令部にも話を通しておかないとな。

 まあ頭固い連中で『そんなのケシカラン!』と怒るかもしれない」

「絶対怒るでしょ。そんなのより必要な物資が多々あるわけだし」

「いや、案外士気向上で怒らんかもしれないよ」

「まあ、やってみよう」

「話してみて通じなかったら、こちらの目論見も教えて良いだろう」


こうして「足作戦」が立案されたそうだ。


-------------------




さて、久々に市岡曹長がやって来た。

スポーツ飲料は負傷兵の経口補水液として使われている為、大量に買い込みに来たのだった。

その際、やはり三国同盟戦車隊の話になった。

「あれは夢だったんでしょうか?

 話が中隊長まで達したら

 『そんな馬鹿な話があるわけ無いだろう』

 と一喝されたと聞きました。

 ですが、兵たちは戦車連隊や独逸兵を見たわけですし、実在していたんですよね?」

つくづく、「門」を士官が通過出来ないのが幸いだった。

兵や下士官は、一見して将校っぽい人から「近寄ってはならん」と言われ

夜に遠目から見ていたのだが、士官だったら

「ところで貴官はどこの誰だ?」から始まり、

「戦車隊なら挨拶をしてくる。引き留めるな」

と間近で彼等を見られたのだから(嘘はすぐにバレる)。

浜さんが代わりに答えてくれた。

「戦車は確かにおりました。

 どこでどうやって戦っているのかは分かりませんし、

 米軍の戦車だって強いので、彼等はもう負けたのかもしれません。

 そうであっても、いくらかは敵に打撃を与えている筈です。

 だから貴官たちも頑張って下さい。

 貴官たちは気を強く持ち、陣地を死守して下さい」

曹長は敬礼を返した。

そして続けた。

「我々兵隊は、先日までガ島に居られた辻参謀殿に期待していたのです。

 攻め方を変えて下さい、このままでは負けます、と頼みました。

 参謀殿は随分マラリアにやられて憔悴していました。

 自分たちは辻参謀殿に、この陣地から貰ったマラリアの薬を分けました。

 その後、何も言わずに駆逐艦で帰ってしまい、随分ガッカリしたものです。

 それが今回の戦車の来援。あれはきっと、我々の願いを辻参謀殿が聞き届けた、

 流石は辻参謀殿、作戦の神様、大本営で我々の苦境を説いて、

 ついに戦車を動かしたのか!と喜んでいたところでした」

「そうですか…」

現代側の言葉が続かない。

心の中では「騙してごめんなさい」と手を合わせていた。

「ですが、戦車は確かにおったわけです。

 我々は辻参謀殿が動かしてくれたものと信じ、戦いますよ」

そう言って去っていった。


辻参謀殿ね。

どんな人かは俺は知らないが、ガ島の状況を変えてくれたらいいなあ。

(続く)

感想ありがとうございます。


この章終わり。

物語上の日付が12月に入りますんで、章も改め、話を加速させていきたいと思います。


新章投下は、明日も休日なので連投して、明日17時にします。

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