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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第2章:法螺を吹くならよりデカく
17/81

ペテン師が広げまくった風呂敷を無事回収していった

「戦車連隊が救援に来た!」

そんな錯覚を与えた戦車のレプリカ

それを士気を落とさないよう(?)撤去したペテン

その作戦は電話から始まった。


広瀬三佐は、最初から

「騙すならもっと大掛かりに、壮大な夢見せて騙そう。

 胡散臭いと思っても、勢いで脳が麻痺するくらいのスケールにしよう」

と考えていた。

しかし、旧日本軍の戦車は、個人が作ったレプリカや映画会社のセットを全部集めても、

騙す程大量にはならなかった。

そこである場所に電話をかけた。

「あ、大洗町役場ですか?

 こちら防衛省の広瀬と言う者です。

 あ、はい、よろしくお願いします。

 イベント関連の部署にお繋ぎ頂けませんか?

 はい、そうです、戦車関係のアレです」


そこから情報を集め、ドイツ軍、イタリア軍、フランス軍等の

レプリカ戦車を可能な限りかき集めた。

また

「架空戦記の映画撮影の依頼がありまして、

 エキストラ募集してるんですが、

 急で申し訳ないですが、おいで頂けませんか?」

と人も集めた。

場所がサバイバルゲーム会場の近くだった為、何となく信じられたようだった。

夜になり、集合場所に行くと、想像以上にドイツ兵だらけだった(笑)。

背が高い人を見られやすい役にあて、普通の人はハーフトラックに載せた。


そして防衛省や自衛隊内の「それっぽく見えるクドい顔」から選抜して、

ドイツ軍司令部とイタリア軍司令部を作った。

「なあに、日本人が古代ローマ人の役をやれるくらいだから、何とかなるだろ」

と、かなり無茶な事を言っていた。


翌日シフトに入った野村さんが言うには

「実は夜じゃなければ、あるいはもっと近くで見られたら、嘘があっさりバレた」

という危ないものでもあったそうだ。

戦車は個人の趣味だから、実物よりも小さく作ったりしていた。

件のⅢ号戦車は、本物の3分の2のサイズで、トラクターの改造だそうだ。

集まった人の個人装備には、1944年に開発された突撃銃(アサルトライフル)もあった。

ドイツ語やイタリア語のガヤ用の音源を使っていたが、

トラックに乗ってるドイツ兵役やイタリア兵役は、

たまに日本語でヒソヒソ話をしていたそうだ。

それどころか、幌付きトラックの中には

「軍服着せたマネキンが入ってただけです。

 私はその着せ替えの手伝いを昨日はさせられたんです」




トリックの最後のピースが「偽装工作で偽戦車作成」だそうだ。

送ったのはサンプルとしての組み立て用ベニヤ板と、戦車の絵が描かれた紙である。

「一方的に言われ、見たままだけだと、なんか胡散臭いなー…で終わるが、

 自分のそれに関わり、仕事の一部を任され、現実として接してしまうと、

 それは彼の中で『真実』として補完されてしまうんだ」

と三佐は言ってたそうだが、それマジで詐欺師のやり様…。

(野村「というより、訳が分からなくなってるとこに、さらに畳みかけて

 何も考えられなくしただけなような…」)

「戦車の偽装自体は悪くは無いですよ。

 陣地から離れた場所に置いて攻撃を誘導する事も出来ますし、

 戦車と錯覚させて敵を一瞬足止めも出来る。

 偽戦車の為に本物の戦車を使わざるを得なくなり、無駄弾使わせることも出来ます」

「でも、バズーカとか使われたらダメじゃないの?」

「個人携帯用対戦車ロケット砲は1942年の北アフリカ戦線が初登場ですから、

 まだ今の時期のガダルカナル島には来てない筈です。

 今戦っている海兵第1師団から別部隊に交代した時が

 入ってくるタイミングだと思いますよ」

「でも、ドイツ戦車っぽいのを見つかるように作って、

 アメリカを悩ませるって、それ上手くいくの? どう思う?」

「一瞬でバレるんじゃないですかね。

 でも、あの法螺話(ファンタジー)にちょっとでも現実性(リアリティ)を持たせる為には…」

現実性(リアリティ)? 本当に有ったと思う? 俺、陸軍の方でも怪しんでると思うよ。

 連中だって馬鹿じゃないんだから。

 深夜の夢幻も、一晩寝て起きて冷静になったら『あれ、何だったんだ?』って絶対なる」

「そうかもしれませんね。ええ、まあ、アハハ」

「怪しんで、大本営だっけ?そこに連絡取れたら、バレるんじゃないの?」

「そこまで通信で連絡出来たら大したもんですけどね。

 ソロモン諸島を管轄する第17軍か、より上位のラバウルの第8方面軍が精一杯かと」


俺たちのコンビニとは全く別な場所で、会話に繋がりはないが、広瀬三佐がボソリと呟いていた。

「…今回の騒動、大事になって、むしろ大本営まで連絡して欲しいくらいだ」






-------------------


広瀬三佐はいつもの会議で報告がてら、こんな話をし出した。

「そろそろ、もっと上位の指揮官と連携したいですね」

「確かに。小隊、中隊、大隊、そんな規模では戦局を変える権限は無いからな」

「一方で最も補給を必要としているのが、それら現場部隊だが…」

「補給は補給として、意思決定出来る人間と話したいですよ」

「誰だっけ? この当時の指揮官は。川口少将?」

「彼はとっくに罷免されてます。

 一応上位に第17軍の百武中将がいますが、彼も意思決定権は無いですね」

「軍司令官に決定権が無い、か…」

「ええ、投入後にいきなり上位組織を作られたり、彼自身は反対した命令を

 大本営から来た参謀に強行させられたりしましたからね」

「やはり大本営まで話を通さないとならんな」

「大本営と言っても継戦派もいれば、撤退派もいる。

 撤退派は黙っていても撤退させるから、抵抗勢力たる継戦派が大事だ。

 この場合だと誰が一番の難物だ?」

「はっきり言って、辻政信参謀でしょう。

 さっき出た、攻撃を強行させたのも彼です。

 彼を説得出来れば、1943年2月7日と言わず、撤退を早める事が出来ます」

「辻政信か…」

会議場は静まった。

「大丈夫か? 彼を説得なんて難しいだろう」

「大体、彼はまだガ島にいるのか?」

「いえ、今日は11月27日ですが、それより前の11月8日に駆逐艦に乗ってガ島を去っています」

「彼がガ島に戻って来る事は?」

「史実では、ありません」

「では直接話すのは無理だな」

「何とかなりそうなのは?」

「ラバウルの今村均将軍とかはどうでしょう?」

「今村大将か! あの人なら説得出来そうだ。

 方針としては今村大将と連絡を取れるようにしよう」

「あ、今村大将は当時はまだ中将なので、今後は気をつけて中将と呼びましょう」

 

そして別件の問題。

「『門』が閉じるのが早くなった件について、何か分かった事は有りますか?」

技官が挙手する。

「これまでの『門』が開いていた時間は、約120分でした。

 微妙なブレで、2時50分に開いた時は、4時50分に閉じました。

 逆に3時10分に開いた時は、5時10分まで開いています。

 気圧、気温の変動から計測時間は合っています。

 その上で一昨日の閉鎖時間を見てみると、

 開いた時間は2時51分、閉じた時間は4時38分で開放時間は107分でした。

 昨日は3時1分に開き、4時47に閉じる、開放時間は106分です。

 データがあるので、3日前を見ると開いた時間が3時10分、閉じた時間が4時57分で107分。

 あとはグラフにまとめましたので、ご覧ください」

「………」

「開放時間が徐々に短くなっているのか?」

「そうです。理由までは不明ですが、何となくの推測は出来るのではないでしょうか」

「我々の世界との乖離…」

「だと思います。ちょっとずつでも歴史が変われば、その分繋がる時間が短くなる」

「予想閉塞日は?」

「現在のまま一次関数的に減少するなら、2日で1分短縮、212日後に消滅するでしょう」

「半年以上後か、ならばガ島は撤退を終えている筈だな」

「2月7日の撤退予定日には66分しか開いていないことになります」

「それもこのままのペースで減り続けたら、の話です。

 乖離が著しくなることで、指数関数的に短縮間隔が速まる可能性だってあります」

「………」

「各種解析を急ぐ必要が出て来たようです。

 各部署は何でもいいから、原理に繋がるデータを得ましょう。

 次にまたいつ開くのか、もう開かないのか、分からないわけですから」

そして会議は散会した。


-------------------




「門」と偽装陣地は落ち着きを取り戻した。

…と言っても、負傷者多数の医官デスマーチに変わりはない。

コンビニの方は落ち着いて来た。


自衛官だけで栄養ドリンクを買いに来たりする。

「あっち(ガ島)の要望ですか?」

「いや、こっちの医官が欲しがってる。

 実際には効かんし、糖分過多なのも分かってるが、飲まずにやってられん、だそうで」

「…大変っすね」

「そのようです」


「店長、そろそろ賞味期限切れの食品は廃棄しないとダメですね」

「あ、そうだね。野村さん、頼める?」

「りょうか…はい、やっておきます。

 でも、この捨てる分を送ってやれたらいいんですけどねえ」

「そうだね。なんで捨てる直前価格とか分かるんだろ?」


そう言ってるうちに日本兵が買い出しに来た。

会計していて、ちょっとだけ2000円に足りなかった。

「あ、そういや廃棄前の弁当、値引きシール貼ったのあったよね。

 あれおまけでつけて2000円ちょいオーバーくらいにしとかない?

 どうせ余したって繰り越せないんだから」

まあ良いか、という感じで付き添いの自衛官も頷く。

かくして、2090円で会計し、兵は帰った。


度々言うが、俺は「月月火水木金金」なんて揶揄されたくらい、

深夜シフトが連日続いていた。

連勤も凄いことになっていた。

値引きシールの貼り間違いがあったのに気づいていなかった。

(続く)

感想ありがとうございます。

励みになります。


さて、物語上の日付は11月下旬なので、そろそろ史実上の人物に会わせないとって時期になりました。

黙ってたら「大本営で撤退決定」→「ガ島撤退」で、ただ飯食わせる為に空間が繋がっただけになりますし、前章で会議の面々が企んでるのも無意味になりますので。

段々史実の将校が登場して来ます。

…代わりに「俺」氏の出番が少なくなりそうなので、そこは上手くやらないと、と思います。

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