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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第2章:法螺を吹くならよりデカく
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日本兵は戦車を見つけた

偶然は重なり合うとシャレにならない。

コスプレ撮影会の後、戦車のオーナーさんは

コスプレーヤーの女の子たちと打ち上げに行ったそうだ。

その時、戦車を持って行く訳にもいかず、会場に頼んで預かってもらった。

深夜彼等はタクシーでサバゲー会場に戻り、トラックに積んで出発した。

戦車を運ぶなら人目につかない時間が良いという判断だったそうだ。

そして、トラックがパンクした。

「ちょっと駐車場に駐めさせてもらっていいですか?」

とうちのコンビニに来たところを、日本兵と鉢合わせしたそうだ…。


ガ島の方も大変だった。

本来、輸送船11隻で増援兵力がやって来る筈だった。

しかし11月15日に海軍が第三次ソロモン海戦に負けた事により、

予定していた戦艦による米飛行場の砲撃が無く、

制海権も制空権も失った状態で輸送を強行、

輸送船は11隻中6隻が沈没、1隻が離脱で、4隻が辛うじて上陸、

4日分の食糧しか持たない約8000人が、米軍ヘンダーソン飛行場を攻撃した。

そして撃退された…。

数日かけて撤退して来た兵士は、「門」の近くの日本軍陣地に収容された。

航空機の飛ばない夜間、入れ替わりで現代に運ばれ、治療を受けていた。

重傷者は来ない。

手術で時間がかかると回転率が悪化し、2時間しか開かない上に3人しか同時に使えない

「門」の効率を下げるからだ。

だが、ただ縫うだけ、弾を抜くだけ、痛み止めを打つだけ等の兵士は現代で治療を受ける。

ガ島部隊の軍医、衛生兵が限られる中、それらを十分な人数用意出来る現代は重要だった。

本格的な治療とかはしない。

浜さんから聞いたところ

「治療の治すっていうより、修理の直すって方が当てはまります」

とのこと。

動けるようになればそれで良い、出血が酷いなら体幹側をガムテープで縛るとかで十分だそうだ。

…だからガムテープ結構売れたのね…

(自衛隊からも補充されていたそうだが、山奥だからたまに在庫切れ起こしてたみたい)


そんな訳で、医官も自衛官も数をこなす治療にかかりっきりで、

野戦病院と化した「門」前の偽装陣地は、インフラの整った現代ですら、

そこに溜めてある物資を使い切ろうとしていた。

薬品はともかく、使い捨て手袋とか、脱脂綿やそれに代わるティッシュペーパー、

ガーゼを仮留めするクリップ等の消耗品が不足して来た。

いくら野戦病院といっても、他の患者の血がついたものを使い回すのは誇りが許さない。

無いならともかく、買えば有るのだから。

もう深夜に一般人が出歩くイベントは終わっていた事と、

その日日本兵の外出禁止にした事で買い出しが無く、

欲しい物資が無い為買い出しの要求が出ていた。

そこで日本兵1人と自衛官2人が、とりあえずの不足分を補う為に買い出しに来たのだった。


そうして両者は出会った。

出会ってしまった…。


日本兵は付き添いの自衛官を振り切って、野戦病院と化した陣地、

そして「門」を叫びながら駆け抜けた。

「戦車だ! 戦車が増援に来ているぞ!!!」


治療中の兵士、今治療されに現れた兵士も、それを見ようとした。

自衛官に制止されながらも、ついに彼等は藪の向こうに自軍の戦車を見た。

「戦車だ!」


そして声が無くなった。

泣き出していた。

1人治療を終え、別な負傷兵が現れるが、交代毎に一様に

「万歳! 万歳!」

と叫びながら出て来た。

血の気も失せた顔ながら、治療を受ける前に

「友軍の戦車を是非見せてくれ」

と医官に頼み込んだ。

もう押し留められなかった。

一目戦車を見た直後から、血の気の無い顔色ながらも、

精気というか覇気というか、そんなのが甦るのが感じられた。


自衛隊では頭を抱えた。

本来なら、一般人には早々にお帰り願うところである。

しかしここまで喜び、涙を流して感動し、負傷兵が生きる力を呼び起こしている様を見るにつけ、

今すぐ帰して良いものか悩ましかった。

戦車が黙って去っていったら、士気がガタ落ちするだけならまだマシで、

「何故去るのか! 我々を見捨てるのか!」

と暴れてしまう可能性もある。

今、負傷し撤退して来ている兵士たちは、つい最近ガ島に来たばかりの第38師団で、

今まで補給を受けて戦力回復していた第2師団や川口支隊と違って、

「門」というものをおおよそでしか知らない。

大雑把に「洞窟を抜けたところに、日本の秘密の補給基地と野戦病院がある」と説明されていた。

だから、仮に戦車が本物であったとしても、「門」を通れない事を知らない。

うまく説明したいが、今まさに負けて撤退して来た兵士数百?数千?に対し

「あれは玩具(おもちゃ)。それに運び込めない」なんて言っても、おそらく通じない。

医官もメディックも治療で忙しいし、対応策なんか考える暇はない。

自衛隊は軍隊ならではの手に出た。



自分たちでは判断出来ませんので、命令を出して下さい!



通信機の向こうで頭を抱えている姿が、何となく想像できた。

だが、すぐに指示が何個も伝えられたそうだ。

自衛官は急ぎ命令を実行した。

コンビニに来ていた戦車の製作者、

彼と同僚は運搬車のパンクが直ったら出て行くところだった。

彼等は、藪の向こうから聞こえる万歳の声や、

日本兵らしいコスプレがチラ見していくのを気味悪がっていた。

トラックのパンクは簡単に直せないから業者に連絡し、修理して貰おうと、

彼等はスマホをいじりながら待っていた。


そこに自衛官がやって来た。

交渉が始まった。

「困ります」

「責任持って返しますから」

「修理もこちらで請け負います」

「謝礼の方も出しますので」

そんな声が漏れ聞こえた。

交渉がまとまったようだ。

九五式軽戦車の実物大(レプリカ)を、自衛隊で数日借り上げる事が決まったようだ。


これで、しばらく兵士たちに戦車を見られても、

「やがて投入する」

とか言って安心させ、感動も薄れさせてから撤去させるつもりであった。


困った事はまだ終わっていなかった。

時刻は4時38分だった。

治療を受けていた兵士3人をガ島に戻し、次を迎えようとしていた。

しかし

「洞窟が塞がっております」

と日本兵たちが困ったように訴えて来た。

センサー等を見ても、確かに閉塞されていた。

おかしい!

明らかに閉じるのが早過ぎる。

今までは、4時50分が最も早い閉塞時間だったのに、それより12分も早まった。

自衛官が慌てていた。

再度連絡をあちこちに入れていた。

3人の日本兵が、明日の開通時間まで現代に残る事になってしまった。

彼等にあまり「敗戦から立ち直った現代日本」という事実を知らせたくない。

戦争をしている末端の兵士に、聞かせて良い情報では無いから。

故に日本兵の現代での宿泊を原則として禁じていた。

だが、この不測の事態においては仕方ない。

診療所にも使っている、社務所のようなプレハブ小屋は、

仮眠が精一杯で宿泊用には出来ていない。

麓に宿があるから、普段は戻っているのだが、今回は3人を監視する必要もあり、

何人かは残さないとならない。

打ち合わせも必要だとか。




という話を、俺は

「…という訳で、こちらの休憩所とか仮眠所を貸していただけませんか」

と頼みに来た自衛官と、連絡役の浜さんからそれぞれに聞かされた…。

徹夜で警備する自衛官もいるし、野営も可能だ。

問題はぶっ続けで負傷兵を治療というか修理し続けていた医官だ。

サバゲー大会の日ではなく、その翌日から負傷兵が来始めて、応援を加えても大変だったそうだ。

「先人の苦労を思い知った。野戦病院がここまで辛いとは…」

辛いが中には、十分な治療を施すことなく、本来は入院が必要な者を

添え木と痛み止め処方と栄養剤注射で帰す、

医者としての心苦しさもあるそうだ。

効果よりも回転率という作業は、治療中はともかく、終わってから結構精神にキタそうだ。

精神的に疲労している上に、「社務所」の方は日本兵に譲っている。

この「ガ島救援作戦」で動かせる人員はそう多くなく、医官は交代要員含めて全員が来ている。

そして今日の日が沈んで「門」が開いたら、また多くの負傷兵を「直す」事になる。

だから医官は仮眠が必要である、野営でもテントでもなく、屋内での。


また面倒な事になって来た…。

そう思ったが、協力してるし、協力費貰ってる以上やるべき事はしないと。

元ドライブインの使ってない二階を掃除し、そこに泊めた。

一階は一般人が使いたいと来るかもしれないから。

ドライブインの裏、道路からは見えない位置で自衛官が壁に寄りかかって寝ていた。

彼はちょっと寝たら、すぐに藪の中に戻っていった。

皆、疲れているんだなあ。

…さて、この先本当にどうすんだろ?

(続く)

感想ありがとうございます。


設定で「山奥、昔はよく使ってた国道沿いだが、今はたまにしか通行が無い」場所なんで、

出来るだけ現実味(リアリティ)を持たせるつもりですが、

多少のとこは「人目に触れない場所だし」で流して下さい。

いや、ツッコミ、コメント、指摘は大歓迎です。

後で修正する上で参考になりますので。

可能なら一回完走させてから、ツッコミがあったとこを「全体の話の流れの上で無理ないように」

修正したいと思ってます。

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