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第五十一話 マリンフォート教国

 執務室の中で三人の話は続いている。

 カインは聖女に関して思い浮かぶのは、初代エスフォート国王でもあるユウヤさんの奥さんでもあったメリネさんの名前を思い出す。


「カインは他国のことは知らぬよな。マグナ、説明してやってくれ」


 国王がマグナ宰相に説明を促す。


「このエスフォート王国より、南西に馬車で一ヶ月ほどの距離がある場所にマリンフォート教国がある。この世界で讃えられている七柱の神の教えを世界に広めている国だ。各国に司教や司祭などを派遣して国民に教えを説いており、我が国の国教でもある。貴族制の国とは異なり、その国の王は、教皇と言われ、選挙により代々選ばれているのだ。教皇の下には、枢機卿、大司教、司教、司祭と順に分けられており、国の運営を行っておる。その中で聖女とは、称号に『聖女』を持っている女性を指すのだ。五歳の洗礼時に称号がわかると、家族から離され教国本部で大事に育てられる。聖女の役目については詳しいことはわからぬが、この世界で一人だけの称号ということもあり、我が国でも丁重に出迎えねばならぬ」


 マグナ宰相の説明に国王とカインは頷く。カインが理解したのを確認し、さらに話しを続ける。


「それでお主には、この国の境界まで近衛騎士と一緒に迎えに行ってもらい、国内での護衛の役目も果たして欲しい。お主は貴族であると同時に冒険者でもあるはずだ。聖女も大人ばかりに囲まれては息が詰まっておるだろう。シルク嬢はお主に同行してもらおうと思っておる。テレスティア王女殿下は王都で待つことになるだろう。さすがに同行はさせられぬのでな。冒険者は他にも依頼を出すことになるから、そこに合流してくれ」


「――――それは断ることは可能で……」


「……カイン、断れると思っておるのか? ドリントルの城壁の件は既に王都に話は来ておるぞ。この王都の城壁と変わらぬ規模の城壁を築いたとな。国でも興して戦争でも始めるつもりか……。それを何も言わずに不問にすると言っておるのだ。常識の範囲なら口を挟むつもりもなかったが……。お主は想像以上のことをするからのぉ。周りからも煩いのじゃ。もちろん国からも、衛兵の派遣、建築物を建てるための人材の派遣をするつもりじゃ。もちろん資金の援助もするぞ」


 国王が目を細めてカインを見据える。やはり王都から近いということもあり、商人たちから情報はすぐに王都に伝わっていたようだ。


「流石にそのつもりはありませんよ。ただ、すぐ隣には魔物が住む森があります。過去にダンジョンが氾濫を起こしたとも。そのための対策です。援助に関してはありがたく受け取らせていただきます。さすがに領民だけではいつまで掛るかわかりませんし、資金にも限度がありますから」


 カインは背中に冷たい汗を流しながら釈明する。


「まぁ良い。我が国と戦争を起こしても、お主一人に我が国は負けるだろうしな。護衛の件頼んだぞ」


「――――わかりました」


 国王の返答が難しい言葉に、カイン苦笑いしながら頷いた。



 打ち合わせが終わり、帰りの馬車でカインは腕を組んで悩んだ。

 夏休みは内政を中心に行い、合間を見てシルクの実家でもあるマルビーク領、そしてティファーナの実家のリーベルト領にも行くつもりだった。


「やはり、一度飛んで行って『転移』を使えるようにするしかないか……」


 貴族の役目として、街の移動に伴い、その街に少しでも金銭を落としていく必要があったのだが、役目を果たしていては夏休みの二ヶ月では足りない。

 貴族の役目を早々に放棄して、最短距離で移動することに決めたカインであった。



 屋敷に戻り、執務室でコランと打ち合わせを行った。

 やはり聖女の護衛の事を聞くと、コランは盛大に驚いた。


「聖女様ですよ……。驚かないはずがありません。それにしてもまさか聖女様の護衛に選ばれるなんて……」


「本当は受けたくなかったけどね、陛下からドリントルの街への人の派遣や、援助もしてもらうことになってたから仕方なかったよ」


 カインはコランに力なく答える。冒険者としてはAランクとして登録しているが、基本的には討伐のみしか経験していない。

 護衛依頼は初挑戦になる。探査(サーチ)が使えるので問題はないと思うが、やはり心配であった。


「今週末に一度、転移地点を使えるようにマルビーク領とリーベルト領に行ってくるつもりだよ」


「わかりました」


 カインはため息をつきながら、自分の忙しさに苦笑いするしかなかった。



 次の日、学園に登校すると、すぐにテレスとシルクが寄ってきた。

 既に両親から、聖女の護衛の件を聞いているようだった。


「カイン様、お父様から聞きましたわ。聖女様の護衛になったと……。何もないとは思いますが気をつけてください。それにしてもシルクは一緒に行けるのに……。お父様にお願いしたけど、断られました」

 テレスティアはカインがシルクと聖女を迎えに同行すると聞いて、国王に一緒に行けるように嘆願したのだが、さすがに王女を出すわけにも行かぬと断られたのだった。

 そのお陰で朝からテレスティアは少し不機嫌である。


「テレスは残念だけどカインくんと一緒に行ってくるよ。マルビーク領に今年は帰れないけど、カインくんと一緒に旅できるからいいかな」


 シルクの言葉で、テレスティアは益々不機嫌になって眉間にシワを寄せている。


「マルビーク領だけど、少し時間があれば行けるかもしれないよ。学園内では話せないけど……。それなら、テレスも含めて三人で出掛けることもできるかな」


 転移魔法で行くつもりだが、さすがに教室には他の生徒もいる。伝説と言われている転移魔法をカインが簡単に使えると知られる訳にもいかなかった。

 テレスティアはカインの言葉を聞いて、表情が次第に緩んでくる。


「カイン様! 来週にでも王城でお茶会をしましょう。その時に教えてくださいね! 絶対ですよっ!?」


 カインの両肩を掴み揺すりながらテレスティアはカインに答えを求めた。


「うんうん、わかったよ、テレス、来週王城にいくから。とりあえず肩離してくれないと痛いよ……」


 ハッと自分が何をしていたか気づいたテレスは、顔を赤くして手で覆い隠してしまった。


「わたしったら……」


 その時、扉が開かれ担任が入ってくる。


「ほらほら、ホームルーム始めるからみんな座れー!」


 担任の声で、テレスティアとシルクは席に戻っていった。

 午前に二時限の授業を受けたあと、カインは専門科目がなかったこともあり、図書室に向かうことにした。

 今まで来る機会はなかったが、王都の学園の図書室ということもあり、多数の本が収められている。

 司書に聞きながら、必要と思われる本を探していく。

 まずは、この大陸の地理についてだ。この世界の地図はあまり詳細には描かれていない。城や街、森や道など簡単に描かれている。他国については「この先は○○国」くらいにしか描かれていなかった。他国に流出した場合、自国が不利になることもあり、販売もしておらず、学園では図書室に仕舞われている。

 カインはエスフォート王国内の地図を確認しながら、マルビーク領とリーベルト領の位置を確かめていった。

 そして次に歴史の本に目を通していく。マリンフォード教や、教国の歴史について調べる必要があると思っておいた。


 三百年近く前に、ユウヤとカインの両親はマリンフォード教国によって召還された。

 邪神アーロンが現れてから国々は互いに戦争を起こし、魔物の氾濫が起きていた時代に、教国に隠されていた伝説とも言われる宝珠が使用されたのだ。

 現在も教皇や聖女が住む皇都のどこかに、神から授けられたといわれる宝珠が隠されている。

 宝珠に溜め込まれた魔力は数百年に渡り大気中から魔力を少しずつ溜め込んでいく。

 召還魔法を次に使うことができるのは、いつになるのかわかるはずもない。

 知っているのは教皇や聖女、または枢機卿などの高位な身分の者だけだった。


「またいつかユウヤさんや両親みたいに、呼ばれる人がいるのかもしれないな……」


 カインはそう思いながら読み終わった本を閉じた。


 



 


いつもありがとうございます。次話の予定は1月22日予定です。あくまで予定ですので。

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面倒ごとは主人公にやらせりゃ良いや的な考えがイラつきますね。 何かやらかせば説教とかもうね。本来なら何もしたくなくなるんじゃないか? しかし、テレス第三王女以外の子供って出てきませんね 今後出てくる…
[気になる点] カインがドリントルの城壁づくりでまた国王様方から説教をされているようだけど たしか「領地をやるから好きにやって良い」と言われたような?いやそこまで名言されてはいなかったのか? 許嫁から…
[気になる点] 神の使徒であり規格外の加護貰ってる主人公の方が価値というか上なんじゃないの? まあ、公にできないんだろうけど。最新のステータスみたらさらに引かれそうだよね。 主人公と敵対して困るのは国…
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