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ベイルの町


 ボーナスポイントについての疑問が解消したころ、荷馬車はさらに進んでいた。

 急に森が開け、前に城壁が見えてくる。


「おおっ、あれがベイルの町か」

「さようでございます」

「なかなかにでかいな」


 城壁の長さは、一辺が一キロメートル以上はあるだろうか。

 もちろん現代日本の都市とは比べ物にならない。それでも、城壁を造るコストを考えれば、なかなかの都市だろう。

 城壁の周囲には、町の住人が育てているのか、畑が広がっていた。

 森が急に開けたのはそのせいだ。


 太陽はまだ半分も上がっていない。

 グミスライムを狩ったりと、いろいろあったが、時間にすれば三時間くらいか。

 一時間の長さは地球と同じと考えていいのだろう。


「この辺りでは一番の都市にございます」


 商人が自慢げに話す。

 都市の周りには何台かの荷馬車が集まっていた。

 商人の荷馬車も、その中に入って町に近づいていく。


 城門はあるが、門番はいない。

 検問も行われてはいないようだ。


「町には自由に入れるのか?」

「もちろんでございます。高い城壁でもございませんし、統制しようにも移動魔法がございますから」


 移動魔法。そんなものがあるのか。

 確かに、魔法で移動できるなら、城門で検問しても無駄か。


 あれ?

 じゃあ城壁は何のためにあるのだろう。

 そもそも、移動魔法があるのなら、ベイルの町まで荷馬車で来ることはなかったのでは。


「そ、そうか」


 いろいろ疑問点はあるが、スルーする。

 城壁があるのは魔物対策か。

 荷馬車で来たのは、俺の空間が使えなかったからだ。


 荷馬車は町の中へと入っていった。


「まずは、奴隷商のところへまいります。その後、騎士団の詰め所へ行き、武器屋、防具屋の順で回りたいと存じます。それでよろしいでしょうか」

「任せる」


 町に入ると商人がこの先の予定を告げてくる。


 荷馬車が町の中を進んだ。

 道は広く、石畳が敷いてある。左右の建物は、漆喰の塗られた四階建てくらいの立派なものだ。

 商店もないような文明レベルにしては、たいしたものだろう。

 雑踏というほどでもないが、人も結構歩いている。

 落ち着いたよい街といえるだろう。


 歩いているのは、村人、商人、農夫、戦士、剣士もいた。

 都市に住む市民なのに村人とはこれいかに。


「市はこの先、町の中心に立っております。ですが、今は右に入ります」

「分かった」


 荷馬車が道を右に曲がる。


「この先は治安の悪いところもございます。娼館などもございますが、あまり奥に入ることは勧められません」

「気をつけよう」


 娼館ってなんだろう、と思ったが、娼婦のいる館で娼館かあ。


 ザ、娼館。風俗店。ぱふぱふしてくれるお店。めくるめく官能ワールド。


 やはりこの世界にもそういう需要はあるのだろう。

 治安が悪いということは、この世界でも、娼館のある場所はスラム街近くだったり暴力団が支配していたりするのだろうか。


 これは調査が必要だ。

 是非とも行かずばなるまい。

 この世界で生きていく以上、どのような危険があるか知っておくことは重要なことだ。

 そこが危険なところであるなら、その実態を解明しておかねばならないだろう。


 調査のためにも、俺は行くべきなのだ。


 いや、あくまでも調査だ。

 異世界の調査である。

 調査のためにあんなことやこんなことをするとしても、それは仕方のないことなのだ。


 うむ。調査のためであればやむをえない。

 是非におよばず。


 などと考えていると、荷馬車は右に入ってすぐ、二軒目の家の前に止まった。

 ここが奴隷商か。赤いレンガ造りの三階建て。見た目は普通の民家のようだ。


「何かご用でしょうか」


 荷馬車が止まると、家の中から若い男が飛び出してくる。

 商人Lv3。レベルが低いから、まだ見習いだろう。


「奴隷身分に落とされた犯罪者を引き渡しにまいりました。荷台をご確認ください」


 村の商人の言葉に、男は荷台のシートをはずしケージを確認した。


「承りました。それでは、店の中にお入りください」


 俺と商人が店の中に入る。


「奴隷は俺が売ることにしておいた方がよかろう」


 奥に案内される途中で、商人に告げた。

 俺なら三割アップがある。


「かしこまりました。それでは、こちらをお持ちください」


 商人が二つ返事で引き受ける。なにやら手紙を渡してきた。


「これは?」

「村長からの委任状でございます」


 そんなものがあったのか。

 手紙を受け取り、案内された部屋の中に入る。


 座り心地のいいソファーに座っていると、やがて一人の男が現れた。



アラン 男 63歳

奴隷商人 Lv44



 奴隷商人なんていうジョブもあるのか。

 そして、いきなりの過去最高レベル。なかなかやり手のようだ。

 あるいはあの村が田舎過ぎるのか。


「当家の主、アランでございます」

「ミチオだ」

「ソマーラの村のビッカーでございます」

「どうぞおかけください」


 立って挨拶し、促されてまた座る。

 ソファーの座り心地がいいのは、奴隷商の客がそれだけ上客ぞろいだからだろう。

 奴隷を買えるような金持ちでなければいけないし。


「本日は市もなかなか盛況のようにございます」


 商人が切り出した。

 まずは雑談からか。


「ご存じないのですか? 二日前に迷宮が見つかったのです」

「迷宮でございますか」


 ふむ。迷宮があるのか。

 そういえば、フィールドとダンジョンの両方がある設定を選んだのだっけ。

 俺は黙って情報収集に徹する。


「町の近くで魔物に遭遇しませんでしたか」

「ベイルの町近くではありませんが、今日に限り二度も」

「他の迷宮の活動も強まるのかもしれません」

「しかも本日はグミスライムまで」

「それは……。大丈夫だったのでしょうか」


 奴隷商人が心配顔で問いかけてきた。


「グミスライムはこちらにおられるミチオ様が退治してくださいました」

「お一人ででございますか?」

「ミチオ様は昨日村を襲ってきた盗賊たちをも相手にしなかったおかたなのでございます」


 なんかほめられて居心地が悪いな。

 話題を変えよう。


「その盗賊の装備を盗もうとした男がいてな。村の掟で奴隷身分に落とすことになった」

「さようでございますか」

「これが村長からの委任状だ」


 手紙を出す。

 奴隷商人が受け取った。


「拝見させていただきます」

「売却額の半分をミチオ様にお渡しすることになっております」


 書状を見ている奴隷商人に村の商人が説明する。


「なるほど。確かにそのようでございます」

「いかがかな」

「男は確認させていただきました。健康体で働き盛り、およそ三万ナールほどが買取の相場かと存じます」


 俺は村の商人を見た。

 相場なんて俺には分からん。

 商人が軽くうなずく。


「分かった。それでよかろう」

「ありがとうございます」

「それでは、私とミチオ様に半分ずつお支払いいただけますか」


 三割アップは効かなかったようだ。

 奴隷だと駄目なのだろうか。


「お客様は当家をご利用になられるのは初めてでしょうか」


 奴隷商人が俺に訊いてくる。


「この町には初めて来たところでな」

「なるほど。冒険者のかたでございましたか」


 なんでそうなるのだろう。

 俺の顔はそんなに冒険者に見えるのだろうか。

 もっとも、盗賊に襲われるような田舎の村近くをブラブラしているのは冒険者くらいなものなのかもしれないが。


「いやまあギルドにも入っておらんがな」

「それでは今後、奴隷をお買いになられるご予定がございますでしょうか」


 待て。なんと言ったか。


「奴隷を……買う……冒険者は多いのか?」


 なんとか話を繋げた。


「それはもちろん多ございます」


 奴隷を買う。

 何故かそんなことはまったく思いつかなかった。

 現代日本の常識にとらわれすぎだろうか。


 この世界には奴隷がいる。

 奴隷を売ったのだから、奴隷を買うこともできるはずだ。


 女奴隷を買ってはべらすことができるのだろうか。

 女奴隷を買ってウハウハできるのだろうか。

 女奴隷を買って……。


「そうなのか。いや、俺はまだ師匠のところから独り立ちしたばかりでな。山奥での修行だった故、いろいろと疎いこともある」


 考えていた言い訳を持ち出す。

 田舎の出身で山奥で修行していた、ということにしておけば、この世界の常識を知らない言い訳になるし、強さの説明にもなるだろう。

 俺が強いのはデュランダルを出せるおかげだが。


「さようでございますか。確かに、見たところまだお若いようにお見受けいたします。この町近くの迷宮には行かれないのでしょうか」

「ふむ。それも悪くはあるまい」


 ダンジョンがあるなら、入ってみるのもいいだろう。

 穴があるなら入れてみたい。それが男というものだ。


「それならば是非一度、説明させてくださいませ」

「そうか。ではまた来よう」


 なんか巧いこと営業されてしまった。



 奴隷商人はいったん部屋の外に出て、お金を持って戻ってくる。


「こちらが半金の一万五千ナールになります」

「確かにお受け取りいたしました」


 商人が代金を受け取った。

 金貨が一枚と銀貨がたくさん。金貨一枚一万ナールか。


「今後のお取引にも期待して、お客様には一万九千五百ナールで買取させていただきます」


 続いて、奴隷商人はお金の入ったもう一つの皿を俺に差し出す。

 金貨一枚と銀貨がものすごくたくさん。

 俺だけ三割アップなのか。


 ちらりと村の商人を見るが、特になんとも思っていないようだ。

 三割アップについても、奴隷を買えと言われたことについても。


「確かに、受け取った」


 しかし、奴隷を買えだなんていう心臓に悪いエクスキューズはやめてほしかった。


 実際問題、奴隷を買うなんてどうなのか。

 奴隷を買うのは犯罪だろう。

 いや、それは現代日本の倫理なのか。

 この世界にはこの世界の倫理がある。

 考えてみれば、俺は奴隷を売りに来たのだ。村の掟だとはいえ、奴隷を売った以上、買うこともそんなに変ではあるまい。


 そうか。そもそも奴隷を売るなんて駄目だよな。

 汚れっちまった悲しみに。


 などと悲嘆にくれていてもしょうがないので、とっとと逃げ出すことにする。


「それでは、ミチオ様のまたのお越しをお待ちしております」


 名前まで覚えられてしまったようだ。

 これでは逃げられない。


 まあいいや。また来よう。

 迷宮のことも聞きたいし。



 俺と商人が奴隷商の館を出る。

 商人が荷馬車をUターンさせた後、俺も荷馬車に乗り込んだ。


 先ほどの道に戻った後、中心部に向かって進む。


「おお。あれが市か」


 広い道の両側に、屋台が設けられていた。

 食料品や衣料品などが置かれ、人が集まっている。



戦士Lv41


剣士Lv47


神官Lv35


料理人Lv28



 結構いろいろなジョブがある。

 レベルが高い人もそれなりにいるようだ。



冒険者Lv13



 本当に冒険者というジョブもあった。


「あそこが、騎士団の詰め所になっております」


 市の中を進んでいくと商人が指差す。

 町の中心だろうか。道が広場を伴ったロータリーになっており、左手前に、鐘楼を備えたレンガ造りの建物がある。


 荷馬車がその建物の前で停まった。


「××××××××××」

「××××××××××」


 中から騎士が出てきて、商人となにやら話す。



騎士Lv4



 レベルは低い。

 まだ見習いだろうか。


「ミチオ様、盗賊のインテリジェンスカードをお出しください」


 商人が話しかけてきた。


「うむ」


 あ、そうか。

 何のために来たのか、分かっていなかった。

 盗賊の賞金をもらえるのだった。


 リュックサックを下ろし、巾着袋を開けて、中からカードを取り出す。

 見習いの騎士に渡した。


 商人も渡している。村人が倒したという二枚だろうか。


 盗賊のインテリジェンスカードは、見てみたが何も書かれてはいなかった。

 あれで分かるのだろうか。


「それでは、インテリジェンスカードを確認させてもらう」

「お願いします」


 騎士Lv4の言葉に商人が腕を伸ばす。

 左手の甲を騎士の顔の辺りに上げた。


「滔々流るる霊の意思、脈々息づく知の調べ、インテリジェンスカード、オープン」


 何をするのかと思ったが、確認するインテリジェンスカードって、俺たちのか。


 やばい。

 俺のも確認するのだろうか。


 はたして俺にインテリジェンスカードはあるのか。

 なかったらどうなる?


 騎士が商人のカードを確認し終える。

 商人が腕を戻した。騎士は次に俺の方を見る。


 まあいくしかないよな。


 仕方がないので、重心を移動し、左手を伸ばした。

 騎士の顔の前まで腕を上げる。


「これでよいか」

「滔々流るる霊の意思、脈々息づく知の調べ、インテリジェンスカード、オープン」


 内心の不安をよそに、俺の手の甲からはあっさりとインテリジェンスカードが飛び出してきた。

 いや、出てくるのは出てくるので心配だが。

 どうなっているのだろう。


「……どうだ?」


 騎士が黙っていることに気をもんで尋ねる。

 その沈黙が怖い。


「……苗字持ち?……いや。自由民のかたでしたか。結構です」


 合格のようだ。

 騎士は詰め所に入っていった。


 俺は自分のインテリジェンスカードを見てみる。



加賀道夫 男 17歳 村人 自由民



 漢字とアラビア数字で書かれていた。

 苗字があるのはこの世界では珍しいのだろう。

 俺は自由民のようだ。

 自由民の他に奴隷があることは確実だが、貴族とかもいるんだろうか。


「何を調べたのだ?」

「ジョブが盗賊になっていないかどうかです。盗賊に懸賞金を渡すわけにはまいりませんので」


 商人の答えに一瞬硬直する。

 俺は盗賊のジョブを持っていた。


 もっとも、インテリジェンスカードに書かれている俺のジョブは村人だ。

 ファーストジョブがジョブとして反映されるのだろうか。

 村人がファーストジョブでよかった。


「そうか」


 軽く息を吐く。

 インテリジェンスカードは引っ張っても手から離れないようだ。先端部分を軽く押すと、手の甲に引っ込んだ。

 本当にどうなっているのだろう。


「盗賊のカードは中で確認を行っております。すぐに結果が分かりましょう」

「盗賊のインテリジェンスカードは、どうやって取ったのだ」

「人が死亡して三十分経つと、自然にインテリジェンスカードが出てまいります」


 商人が説明する。

 インテリジェンスカードが取れない間は生きているということか。


 やがて、詰め所の中から一人の女性が出てきた。



ラディア・マキシナント・ゴッゼル 女 28歳

騎士Lv27

装備 マジカルアーマー 加速のブーツ



 レベルはそれほど高くないが、見たことがない装備の上に、名前も複雑だ。

 おそらく名家の出身なんだろう。

 引き締まった体躯のきりりとした美人である。多分、胸は大きくない。

 亜麻色の髪を後ろでまとめていた。


「盗賊を倒したのはそのほうか」


 艶やかな目元をこちらに向けてくる。


「そうだ」

「あれはこの町のスラムを根拠としている盗賊団の一味だ。現在壊滅作戦を展開中なので一部が逃げ出したのだろう。そのほうが倒した中の二人に懸賞金がかけられている。その他の者にはまだ賞金はかかっていない」


 美人の騎士がちらりと商人の方を見た。


「さようでございますか」


 商人が渡した二枚は駄目だったのだろう。


 詰め所の中から、先ほどのLv4が走り出てくる。

 美人の騎士に白い袋を渡した。


「これがその賞金だ。受け取るがよい」


 美人の騎士はその袋を俺に投げてよこす。


「うわ」


 あわてて受け取った。

 扱いひどくね?


「受け取ったら、さっさと立ち去るがよいぞ」


 美人騎士は、そう言い残してすぐに詰め所の中に戻っていった。


 え?

 これだけ?


 いやいや。せっかくの美人なのに。せめて名乗りあうとか。


「ありがとうございます」


 商人はそう言って荷馬車を出発させる。


 ホントにこれだけなのか。

 にべもない。

 騎士団のくせに、村が襲われたことについても何もないのか。


 いや。分かっていた。

 分かっていたさ。

 美女と仲よくできるのはイケメン限定であるということは。


 地球でもてなかったやつは異世界でももてないのだ。

 地球でもてなかったのに異世界ではもてるなんていうことがどうしてありえようか。

 いや、ない。



「次は武器屋か」


 疲れた声で商人に確認する。

 はぁ。


「さようでございます」


 商人はそのまま荷馬車を進ませた。


 賞金はリュックサックに入れる。三十パーセントアップは効いたのだろうか。

 懸賞金だからそれはないか。

 あのすげない態度ではな。


 しょ、賞金は三割アップにしといたんだからね。


 と、こういう反応がほしかった。



 ロータリーを渡ってしばらく行くと、剣を置いてある店が目に入る。

 ここが武器屋か。



ひもろぎの剣 両手剣

スキル 知力二倍 火炎剣 浄化



 店の真ん中に立派な大剣が飾ってあった。

 スキルが三つある。なかなかのものなのだろう。


 荷馬車が止まったので、俺が降りる。

 男が寄ってきた。



武器商人Lv21



 武器商人なんてジョブもあるのか。


「ちょっといいか」

「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」

「剣を売りたい」


 武器商人に荷馬車の剣を見せる。


「武器に宿りし魂よ、その力を解き放て、武器鑑定」


 武器商人がつぶやきながら銅の剣を見た。


 うわっ。

 結構こっ恥ずかしい。

 インテリジェンスカードのときにはカードが出てくることにびっくりして気をとられていたが、これはいたたまれない。


 多分、武器鑑定というスキルがあるのだろう。

 ボーナススキルの鑑定には呪文がなくて本当によかった。


「いかがかな」

「銅の剣は全部で十八本になります。銅の剣の買取価格は一本二百五十ナールでございます」


 商人を見ると、軽くうなずいている。

 十八本のうち二本は村人の取り分だ。


「よかろう」

「鉄の剣が一本、買取価格は千ナールになります」

「うむ」

「それから……」


 武器商人がほむらのレイピアを取り上げた。


「どうだ?」

「スキルつきの武器でございますか……。ほむらのレイピア。一万八千ナールで買い取らせていただきます」


 さすがはスキルつきの武器か。桁が違う。

 商人を見ると、驚いたようにしていたが、軽くうなずいた。


「分かった」

「シミターの買取価格は五百ナールでございます」


 武器商人はシミターをちらりと見ただけで告げる。


「それはスキルスロットを含んでの値段か?」

「お客様、おたわむれは困ります。こちらの剣にはスキルはついておりません」


 注文をつけた俺を、武器商人が蔑むような目で見てきた。

 武器商人には空きスロットが分からないのだろうか。


「いや。スキルはついていないが……。ちなみに、これだといくらになる」


 腰に差していた銅の剣を武器商人に見せる。


「武器に宿りし魂よ、その力を解き放て、武器鑑定……。ただの銅の剣でございます。二百五十ナールが相場でございます」


 武器商人は『ただの』を強調した。


 俺が差していた銅の剣には空きスロットがある。

 武器商人にはその空きスロットが分からないのか。

 いずれにしても、値段に反映されないことは間違いない。


「分かった。シミターは俺が引き取る。買い取りはその他の剣だけで頼む」

「ありがとうございます。大量にお持込いただきました。つきましては、全部で三万五百五十ナールでお引き受けしたく存じます」


 それで三割アップなんだろうか。

 どうなっているのかほんとに分からん。


「それでよかろう」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 武器商人が一度奥に引き込み、硬貨を皿に載せて持ってきた。

 金貨が三枚と、銀貨が五枚、銅貨が大量に。

 やはり金貨一枚一万ナールか。

 めんどくさいので銅貨は数えずに受け取る。


「確かに、受け取った」

「ありがとうございました」


 金貨一枚と、銀貨、銅貨を巾着袋に入れる。

 金貨二枚を商人に差し出した。


「村の取り分はこれでよいか?」

「これでは多ございます」


 銅の剣二本、ほむらのレイピア、シミターでしめて一万九千ナールだ。


「多いのはシミターの分だ。高く買わせてもらおう」

「かしこまりました。ありがとうございます」


 商人は買取価格が三割アップしたことについては何も言わなかった。

 その分はもらっておいてもいいだろう。

 俺のスキルだし。



 続いて、隣の防具屋へ行く。


「村人が倒した盗賊は防具を着けておりませんでした。仕入れも行わなければなりません。防具屋に荷を置いたら、私はおいとまさせていただきます」

「そうか。世話になったな」

「いいえ。こちらこそ何から何まで本当にお世話になりました。もう一度、お礼を述べさせていただきます。村を救っていただき、感謝の言葉もございません」


 ティリヒさんは来なかったけどね。

 商人は防具屋の近くに荷を降ろすと、荷馬車を進めて去っていった。


 こっちの店の中央には、さっきの美人騎士も着けていたマジカルアーマーが飾られている。



マジカルアーマー 胴装備

スキル 魔法ダメージ軽減



 スキルつきのよい防具のようだ。


 皮の鎧と皮の靴をそれぞれ一個ずつ、状態のよさそうなものを選んで別にする。

 それから商人を呼んだ。


「ちょっとよいか」

「いらっしゃいませ」



防具商人Lv33



 武器商人と防具商人は別のジョブになっているらしい。

 だから武器屋と防具屋は別々なのか。


「これらを買い取ってほしい」

「我は尋ね力を見る、守りの魂立ち出でよ、防具鑑定」


 防具商人が装備品を見る。

 やっぱ恥ずかしいな。


 武器鑑定と防具鑑定は別スキルなのか。

 武器商人は武器鑑定しか使えなくて、防具商人は防具鑑定しか使えないのだろう。


「いかがか」

「盗賊のバンダナは五百ナール、鉄の鎧は千八百ナール、皮の鎧は二百ナール、皮の靴は二十ナールで買い取らせていただきます」

「分かった」


 相場も分からないし、向こうの言い値でうなずくしかない。


 盗賊のバンダナは思ったほど高くなかった。

 五百ナールというのが、そのために奴隷に落とされてしまうような金額なのかどうか。


「皮の鎧が二個、皮の靴が七個あります。全部で三千六百九十二ナールでお引き受けさせていただきたく存じます」

「頼む」


 多分三割アップになっているのだろう。

 その値段で了承する。


 防具商人が代金を持ってきた。


 小銭がいっぱいだ。


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