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59話 リットにはコーヒーを、ルーティにはココアを


 ルーティとティセが店頭で仕事をしている間、リットには貯蔵庫にある薬の種類と数を調べて、目録を作ってもらっている。

 普段から在庫管理はしているのだが、いい機会だし一度ちゃんと何があるか調べるのもいいだろうとリットと相談したわけだ。


「お疲れ」


 俺はコーヒーのカップを2つ持って貯蔵庫を訪れた。

 リットはペンと紙を持って、大量にある薬を数えるのに悪戦苦闘しているところだったようで……


「あー! もう! どこまで数えたか分からなくなった!!」


 と、絶望の声をあげていた。


「悪い悪い、あとで手伝うから休憩でもどうだ?」

「うん、ちょっと疲れた」


 2人で居間に移動し椅子に座った。

 店頭からはルーティとティセが接客している声が聞こえる。


「あっちは見ていなくていいの?」

「俺がいたら仕事してもらっている意味がないだろ? ルーティはそれに気がついてしまう子だ」

「よく分かってるのね」

「そりゃ妹だからな」


 俺とリットは同時にコーヒーを一口飲んだ。


「ん、今日のは濃厚ね、砂糖もミルクもたっぷり。でも美味しい」


 今日淹れたコーヒーは少し手間を掛けてある。

 目の小さい金属製のフィルターを3つ使い、荒く挽いたコーヒーを入れお湯を注ぐ。

 フィルターの目はコーヒーによって塞がれるので、じっくりと時間をかけてコーヒーが抽出されるのだ。

 コーヒーの風味が非常に強いので、ミルクと砂糖も入れてあり、強めのコーヒーだ。


「口直しにハーブティもどうぞ」

「後味ではなくこの瞬間を楽しむコーヒーなのね」

「そうだよ」

「ありがとう、美味しい」


 濃厚なコーヒーをゆっくり飲むタイプの淹れ方だ。

 横に並べたハーブティーで、適度に口をリセットし、また新鮮な気持ちで最初の一口を味わえる。


 俺達はゆったりとしたこの時間を楽しんでいた。


☆☆


「ごちそうさま」

「お粗末さまでした」


 リットは満足げな顔をしてカップを置いた。

 俺達は、少しの間だけお互い見つめ合って沈黙した。


 だがすぐにリットは立ち上がる。


「じゃあ、ちょっと店頭に行ってくるわ」

「店頭?」

「そろそろルーティ達も休憩取らないと」

「それなら俺が店頭に立つよ」

「だめよ」


 リットは歯を見せて笑いながら言った。


「ルーティだってあなたと一緒にコーヒーを飲む瞬間を楽しみたいに決まってるんだから」


 俺が何か言うスキを与えること無く、リットは部屋を出ていってしまった。

 俺はコーヒーカップを指で弾く。いい音がした。

 リットが選んだ食器は値段を抑えてさえ、良いものだ。


「さて、じゃあ2人の飲み物も用意するか」


 俺はコップを木製のトレイに乗せ、台所へと移動した。


☆☆


「二人共、お疲れ様」


 テーブルにはクッキーが3枚ずつ、甘めの味付けのココアが3カップ。


「ありがとう」

「いただきます」


 ルーティはカップを手に取ると、一口飲んで目を輝かせた。

 ティセはまずクッキーから手を付けるようだ。


「これ冒険者が保存食で使うやつですよね?」


 ティセは驚いた顔をしている。


「これは……すごく美味しい」

「山で取れた木の実を混ぜてるんだ。味としてはシナモンに近いな」

「シナモン……食べたことないです」

「そうか? じゃあ夜にシナモンパイを作るよ」


 そうだ。


「あと、ほら、砂糖水を染み込ませた布」

「え?」

「その蜘蛛のおやつにいいと思って」


 そう言って、小さな布の切れ端を載せたお皿を差し出す。

 ティセの肩にいた蜘蛛はぴょんと飛び降りた。


 蜘蛛は行儀よく一度手を上げて俺に挨拶してから、そっと砂糖水を飲み始めた。


「ありがとうございます。気がついていたんですね」

「この子にか? そりゃあれだけ仲良さそうにしていればね」

「うげうげさんです」

「うげうげ?」

「さんまでが名前です」


 俺の顔を見て、ティセは口元に少しだけ楽しそうな笑みを浮かべた。


(うげうげさんの名前を言った時の反応が、ギデオンさんもルーティさんも同じだ。やっぱり兄妹なんだ)


 表情こそ乏しいが、このティセという子もルーティと同じで内心は普通の女の子なのだろう。


「お兄ちゃん」

「ん、どうした?」

「お昼も一緒に食べていい?」


 俺はルーティの頭を撫でた。

 ティセと夕飯の話もしていたというのにこいつは。


「当たり前だろ。もとからそのつもりだよ」

「そう」

「お昼だけじゃなくて夕飯も食べていくだろ?」

「うん」


 ルーティの顔に微笑みが浮かんだ。


「実は私、お兄ちゃんの料理大好きなの」


 それはとても自然な微笑みだった。キラキラしていて、本心だと一目で分かるような素敵なものだった。


「ああ、知ってた」

「そう!」

「なにかリクエストはあるか?」

「……蜂蜜ミルクが飲みたい」

「分かった」


 リクエストされたものは俺が聞きたかった答えとは違った。

 だけどこれはこれでいい。

 お昼まであと1時間半。

 なにか蜂蜜ミルクと合う、美味しいもの作るとするか。

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