第三十八話 それはヤリモク
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「男の人なんてやれれば良いんですよ、ただ、やれれば良いんです!だったら娼館にでも通っておけば良いではないかと考えるかもしれませんが、そうすると病気が心配になるでしょう?であるのなら、ちょっと好みの病気を持たない女を囲っておけば問題ない。これほど性欲処理に丁度良い存在もないでしょう!」
「あの・・お嬢様?」
「だと言うのに、独占欲だけは強い男は、ちょっと囲っているだけの女でも、他の男に良い顔をするのを激しく嫌ったりするのです。何かの将来を誓うわけでもなく、ただ、ただ、『ヤリモク』で手元に置いておく。人によってはその『ヤリモク』の女を複数ストックしている場合もありますわよね」
「あ・・あの・・お嬢様?」
「そこの貴女、名前は何とおっしゃいますの?」
「マレーネと申しますが」
「マレーネ、貴女も可愛らしい顔をしているのだから十分に気をつけなさい。男というのはいつでも自分勝手なものなのです。特に背も高く、顔もそれなりに良くて、人望も集めていますという雰囲気の男はまず駄目です。地味でウダツが上がらない程度が丁度良いのです。今まで女性と縁がなかったという雰囲気を醸し出している純朴な男が良いのですが、残念ながら、最初の交際が成功体験となって華やかな恋愛に憧れるという場合もございます。油断は禁物、わかります?」
「わ・・わかります」
侍女として潜り込んだマレーネは、思わず大きく頷いた。
目を覚ました客人の対応をするために部屋を訪れた侍女のマレーネだが、想像を超えたカロリーネの反応に気が動転してしまったのだが、カロリーネの言うことは、いちいちご尤もと思えるような内容だったのだ。
マレーネとて女、今まで男に騙されたことなど片手では足りないほどであるし『ヤリモク』男を数えてみれば、両手の指を合わせても足りないほどだと言えるだろう。
「周りから羨ましがられるような男を連れて歩くのは楽しいですけど、そんな楽しさもほんの一瞬だけのこと。大概はその楽しさの数倍は嫌な思いをして、最後には号泣するほど傷ついて終わりを迎えることになるのです。私なんて何度号泣のターンを繰り返したか分かりません!とにかくモラヴィア訛りは駄目!私は今度こそ!モラヴィア訛りがない男を見つけてやるつもりよ!」
どうやらカロリーネは宰相の娘ダーナとドラホスラフ第三王子の結婚がほぼ決まっているようなものだという話を信じ切っているらしい。
宰相の娘とやらと結婚をするのならさっさと勝手にするが良い。自分はここから抜け出して、絶対にモラヴィア訛りがない男を捕まえてやる!そう言って奮起しているカロリーネを見つめながら侍女のマレーネは、複雑な思いに駆られてしまう。
マレーネの主人であるファナ妃は幸せそうな女が地獄の奥底に叩きつけられる話が大好きで、ショックを受けたその時の様子を詳細に語ることを望まれる。だからこそ、カロリーネはマレーネの言葉を聞いて奮起するのではなく、絶望してくれなくては困るのだ。
わざわざ攫うように連れて来られたカロリーネは、部屋に閉じ込められるようにして愛されていたのを知っている。そんなふうに自分を愛した男が実は他の女と結婚する予定である。正妻となる女の家にわざわざ置いていくのは、夫の愛人の面倒を見るのが正妻の役割だと考えているから。
そのことを知ったカロリーネは、間違いなくショックを受けると思ったのに、
「男の人なんてやれれば良いんですよ、ただ、やれれば良いんです!だったら娼館にでも通っておけば良いではないかと考えるかもしれませんが、そうすると病気が心配になるでしょう?であるのなら、ちょっと好みの病気を持たない女を囲っておけば問題ない。これほど性欲処理に丁度良い存在もないでしょう!」
と、言い出した。
そうじゃない、そうじゃない。もっとショックを受けて身も世もなく泣き出すくらいのことをして欲しいのに、目の前のカロリーネはあまりの怒りに目をギラギラさせている。マレーネはカロリーネが誘拐される、愛される、その後放置されるというターンを二回も繰り返しているということを知らない。
「次は絶対にないですわ!」
要するに『ヤリモク』での誘拐は絶対に阻止してやるぞと奮起しているということだろうか?
「そんなに欲求不満だったのかしら!だったら他で発散すればよろしいのです!」
「はあ・・そうですよねえ・・」
そう答えながらもマレーネは呆れた眼差しで、全身に薔薇の花びらを散らしたような跡を残している令嬢をじっとりと見つめた。カロリーネはプンスカ怒り続けているけれど、彼女の有り様は王子の執着の深さを感じずにはいられないものだったのだ。
だが、これはチャンスではないだろうか?
カロリーネ自身がドラホスラフから離れることを望んでいるのなら、その望みをマレーネが叶えてやれば良い。マレーネの主人であるファナが求めているのは圧倒的な絶望であるのなら、今からカロリーネを屋敷から連れ出して梟の幹部にでも引き渡せば、後はファナ妃が望むようにことを進めてくれることだろう。
「カロリーネ様、であるのなら私と・・」
一緒に屋敷を逃げ出しませんか?そうマレーネが言おうとしたところ・・
「男がやりモク、やりたいだけの目的で女を囲い込むなんていうのは誰でも何処でも同じことですわよ!」
そんな言葉と共にバターンッと扉が開いたかと思うと、見たこともないお仕着せを着た侍女の集団が現れる。
「若い男なんて、一度女体の味を覚えたらそればかりを考えるようになってしまうのです!一度許されたのだから何度でも!本当にそう!その挙句に女は妊娠、出産をすることになるのです!」
何故か赤ちゃんを背中におんぶした状態の侍女が、胸を張ってそう豪語した。
「何故赤ちゃん!」
と、マレーネは口でも言ったし、心の中でも絶叫したのだけれど、赤ちゃんをおんぶした侍女の勢いは止まらない。
「男の『ヤリモク』の結果がこの赤ちゃんなのよ!」
マレーネは突然部屋にやってきた迫力ある侍女と、その背中におんぶされた赤ちゃんを交互に見たけれど、ヤリモクの結果がその赤ちゃんなら望まれない子供を妊娠したということだろうか?
他人事ではない展開に、マレーネが一人でアワアワしていると、
「カサンドラ様!不敬に当たるようなことをお言いになるのはおやめください!アルノルト王太子殿下は決して『ヤリモク』でカサンドラ様に手を出した訳ではないでしょう!」
と、ベッドの上でシーツを自分の体に巻きつけたカロリーネが怒りの声をあげる。
「か・・カサンドラ様?」
カサンドラ様というと、クラルヴァイン王国の王太子妃の名前だし、結婚式を祝って発売された記念コインをマレーネも見ているのだが、
「あのカサンドラ様?」
愕然としたマレーネが二歩ほど後ずさると、
「ああ〜!この人!うちの周辺を嗅ぎ回っているのを見たことがある〜!」
と言って、後ろからマレーネを羽交締めにしたピンクブロンドの髪の女がにこりと笑った。
「まあ、ハイデマリー様、それでは南大陸の?」
「カサンドラ様違いますよ〜、この人見るからにトウラン人じゃないですか〜恐らくファナ妃の回し者じゃないですかね〜?」
「あらあら、まあまあ」
カサンドラは右頬に自分の手を当てながら小首を傾げると、
「やっぱりファナ妃も裏で動いていたのですわね!」
と、嬉しそうに言い出したのだった。
連休2話づつ更新ですが、途中、カロリーネ・カテリーナの間違いが多くて!!誤字脱字報告有り難うございます!読みづらくてすみません!ラストまであともう一歩、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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