第三十五話 どうしてこんなことに
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両手を広げて肩をすくめた宰相の娘、ダーナ・シュバンクマイルは言い出した。
「今の王家、本当にポンコツだから仕方なくない?」
ダーナがそう言って朗らかな笑顔を浮かべていたのだので、ダグマレーナ・オルシャンスカは、
「不敬ですわよ!不敬!」
と、即座に大声を上げたのだった。
ダーナはとにかく太っている。
赤子の時から良く乳を飲み、幼児の頃から食欲旺盛。ぽっちゃり可愛いお嬢様だったダーナは、成長するに従いぽっちゃりからでっぷり体型に移行し、
「「「何あのワイン樽型体形〜!」」」
と、陰口を叩かれるまでに成長をした。
胸は大きく、腰は優美なラインを描くように細く、そしてお尻はどっしりと大きい方が良い。それが女性らしさなのだと謳われて、より細い腰のラインを作るために、最近では平民女性までもがコルセットを利用している。ちなみにダーナは生まれてこの方、一度としてコルセットというものを利用したことがない。利用したいなどと思ったことがないのだ。
どっしり貫禄の塊のようなダーナだが、父親に似て頭はすこぶる優秀に出来ている。だからこそ、父親の助けとなるために王宮にも出仕しているのだが、
「ダーナ、どうやら我々は不敬罪どころか謀反の罪を被せられて捕らえられることになりそうだよ」
と、棒のような体型の父親が執務室に戻って来るなり言い出した。
「どうやらマグダレーナ嬢がブジュチスラフ王子の元へ突撃訪問を成功させたようでね、私はヤロフスラフ様を擁立して王家に反旗を翻す事になったらしい」
「んまあ!なんてことかしら!」
海賊退治に向かわずに侯王の弟であるヤロフスラフが居るホムトフ領へと向かったのはドラホスラフ第三王子であり、彼は反旗を翻す気満々かもしれない。宰相ウラジミール・シュバンクマイエルは未だに考え中というところではあったのだが、ここで謀反を疑われたら仕方がない。
一応、ウラジミールは侯王ヴァーツラフとは物心ついた時からの幼馴染であり、幼い時からその能力を見出されて側近として共に成長してきたという自負がある。国王を裏切る?いやいやまさか、そんなことは・・ちょっとね〜、いや、いくらなんでも・・というスタンスで居たのだけれど・・
「ブジュチスラフ王子はマグダレーナ嬢の戯言を鵜呑みにしたようなんでね、今すぐ王宮から逃げ出そうか」
ウラジミールは執務机の上に散らばった書類を整理しながらそう言うと、ダーナは大きなため息を吐き出しながら言い出した。
「はあ〜、ギリギリでしたわね。ギリギリで証拠を掻き集められたところですけど、王家の存続にはギリギリ間に合わない感じですわね」
大航海時代を経て、造船のための木材を輸出し続けたモラヴィアの国庫は豊かになったのだが、続けられる伐採の所為で大規模な土砂災害による被害が国内各所で発生しているような状態に陥った。
復興支援への費用が足りないところは、心ある商会が貸してくれることとなったのだが、どうやらこの商会、南大陸の国々から多額の支援を受けているようだったのだ。
モラヴィアを植民地としたい南大陸の国々が金を絡めてモラヴィアに深く食い込もうと企んでいるだけではなく、どうやらこの支援金、復興に当てられることなく他に使われているらしいことが明らかとなったのだ。
その金がどのような経緯で動いているのかを確認するために、ダーナは父について宮殿内に潜り込んでいたのだが、ようやくその原因の一端を見つけることが出来たところで今回の騒ぎが起こったという事になる。
「あちらも焦っているということでしょうかね?」
「さあな、だが、マグダレーナ嬢がうまい具合に使われているのは間違いない事実であろう」
どちらにしても、宮殿の中で調べられることは調べ尽くしたところではあった為、
「それではこれから何処に行きますの?」
身の回りの品を片付けながらダーナが立ち上がると、
「もちろん、家族揃って今から領地に帰る事にしよう」
ウラジミールは気軽な調子で言い出した。
「これ幸いと兵を差し向けられることになりそうですが?」
「そうなればますます面白いな」
宰相が抱える領地は、代々、侯都を守るのに要と言われるような場所を割り当てられることになる。モラヴィアを手中に収めたいと考えるのなら、まずは手始めに堕としておきたい場所となるだろう。
「我らが領主館にはアルノルト殿下も向かうことになっている」
「えーっと」
「カサンドラ妃やカロリーネ嬢は、先行して向かっているとのことだ」
「えーっと」
「ドラホスラフ殿下とは領主館で顔を合わせることとなるだろう」
「あの・・お父様?」
ダーナは呆れた顔で神経質そうな父親の顔を見上げた。
「うちのマナーハウスに役者が勢揃い状態じゃございませんこと?」
「侯王様は謀反と聞けば、まずはホムトフ領がある北部を警戒することだろう。何しろ彼の方は異母弟であるヤロスラフ様が大嫌いだからな。何だかんだ言って古い付き合いである私のことはお座なり程度にしか警戒をしない。そこの甘さが毒であるということを彼の方は何処までいっても理解しない」
「お父様、まさかの謀反を起こす気、満々状態でしたのね?」
「謀反?私が?」
ウラジミールは大きく肩を竦めると、笑い出す。
「宰相職を賜る私は、誰もよりもモラヴィア侯国が存続することを第一に考えているだけだよ」
「はあ・・」
ウラジミールは侯国が存続するのならそれで良い、言うなれば頭(侯王)は誰だって良いとすら考えている。
「どうしてこんなことになってしまったのかしら・・」
ダーナの傍若無人な態度がきっかけなのは間違いないけれど、大きく駒を動かして来たのはダーナではない。
モラヴィア侯国は幹が腐り、害虫によって無数の幹割れが生じた大木だ。ところどころ穴まであき始めているような状態だが、樹木補修が間に合うかどうかは賭けのようなものでもある。
「それにしても、ドラホスラフ殿下が恋人と一緒にうちのマナーハウスに居るだなんて・・」
色恋に全く縁のないダーナは、恋人のイチャイチャぶりをただただ眺めるだけ眺めてこの年まで成長して来たのだが・・
「嫌だわ、私、殿下とは幼馴染なんですもの。殿下の恋人から鼻で笑われたり、見当違いな嫉妬を受けたり、挙句の果てには当て馬にされたりしたらどうしましょう!」
と、つくづくとうんざりした様子で言い出した。
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