第三十四話 戻れない道
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「カロリーネ様が連れ去られた?」
「そうなんです、殿下が連れ去ってしまわれました」
「あらまあ」
カテリーナ・バーロヴァ女伯爵の専属執事であるビアッジョから報告を聞いたカサンドラが呆れた声を上げていると、後ろに居たアルノルトが、
「丁度良いタイミングといえば丁度良いのかな」
と、言い出した。
クラルヴァイン王国の王太子であるアルノルトにとって、隣国モラヴィアは重要な立ち位置にある国だった。北方に接する隣国モラヴィア、大航海時代を経て戦艦を作るための木材を輸出することで大いに儲けている隣国。
侯王がもう少し頭が良ければ良かったのだが、侯王ヴァーツラフは明らかに優秀とは言い切れない王だった。
前の侯王は娘二人が生まれた後になかなか男子に恵まれず、長女カテリーナが十五歳となった時に、待望の男児となるヴァーツラフが生まれた。その一年後に側妃がヤロスラフ王子を生んだのだが、先王も正妃も側妃の子には見向きもせずに、ヴァーツラフを真綿に包むようにして育てたのだ。
トウラン王国から独立した侯国は、トウランの妨害を受ける中で国を統治することに忙しく、姉のカテリーナがヴァーツラフとヤロスラフの二人の王子を実質育てたようなものだった。ヤロスラフ王子の母は王子を出産後、自分の役目は終えたとばかりに家臣の家へと降嫁した。だからこそ、ヤロスラフ王子は万が一があった時のための世継ぎの予備として育てられるだけで、何の後ろ盾もないような状態だったわけだ。
カテリーナが北辺の国アークレイリに輿入れ後、世継ぎとなったヴァーツラフはとにかく甘やかされて育てられたのに比べ、ヤロスラフは放置されて育ったようなものだった。
その放置されて育ったヤロスラフが非常に優秀な王子だったのだ、あまりに優秀な王子だった為、
「僕はヤロスラフが居ると怖い、なんだか怖くて仕方がないんだ!」
と、ヴァーツラフ王子が言い出した為、ヤロスラフは辺境に身を移すことになったのだ。
要するに、今現在、モラヴィア侯国を治めている侯王ヴァーツラフは非常に甘えた男であるし、その息子ブジュチスラフもまた、ヴァーツラフに輪をかけて甘えた男だった。
侯王の妃となったダグマールは侯国を支える要となったのは間違いないが、第一王子であるブジュチスラフを無条件に甘えさせている時点で王妃失格だと言えるだろう。
モラヴィア侯国はパヴェル第二王子が死んだ時点で、終わりが見えていたのかもしれない。その終わりが見えたモラヴィアを狙うのが自国で材木を賄えない南大陸の国々ということになる。
クラルヴァイン王国としては南大陸の国の何処かに隣国を植民地されることは許容出来ない。モラヴィアの植民地化に成功すれば、次に狙われるのはクラルヴァイン王国となるのは間違いないのだから。
そうして、クラルヴァイン王国としては、現在、自然災害が多発するモラヴィアを吸収して統治したいとは思わない。コストが見合わないと判断されているのだ。だったら、侯王の姉であるカテリーナを動かしてカテリーナの孫あたりを新しい侯国の王に据えて、アークレイリをモラヴィアの後ろ盾とする方がまだましだ。
侯国に自浄作用があれば良いのだが、火龍砲の売買締結に関わる折衝を行っている限りで言えば、見込みは薄いと判断した。仕方がないので侯国は潰す、潰すならどうやって潰そうか、そこまで考えていたところで、ようやくドラホスラフ第三王子が動き出した。
第一王子に見切りをつけようとする貴族たちを唆し、扇動し、自分の勢力にするために駆け回っていた王子だったけれど、遂に堪りかねて侯都へとやって来てしまったのだろう。
「カサンドラ、私は明日も宮殿で火龍砲の折衝をする予定なのだが・・」
その話し合いの場で、火龍砲の値段の高さでごねられ、自国に麻薬が広がったのはクラルヴァイン王国の所為だと責められ、早々に見切りをつけることになるのだが、この時のアルノルトはまだ、ブジュチスラフ第一王子の愚鈍ぶりがそこまでだとは気が付いてはいない。
「予定通り、フロリアンと移動をしますわよ」
カサンドラはにっこりと笑って言い出した。
「予定通り移動をいたしますわ!」
カサンドラが予定通りと言って、アルノルトの予定通りになった試しはないのだが、カサンドラは昔からアルノルトの不利になるようなことは絶対にしない。
「予定通り、ドラホスラフ様と移動したカロリーネ様を追いかけますわ!」
「予定通り、クラルヴァインの王宮に帰るのではないのか?」
カサンドラは小さく肩をすくめながら言い出した。
「モラヴィアで大きな戦が起こればクラルヴァイン王国だって巻き込まれることになってしまうでしょう?」
「そうなると困るから私がわざわざモラヴィアまで出ているのだが?」
「アルノルト様、私は貴方を愛しておりますの」
カサンドラはその美しい顔に妖艶な笑みを浮かべながら言い出した。
「とっても、とーっても愛しておりますの。だからこそ、死なば諸共」
「縁起でもない」
「それは冗談として、私はもう少しだけモラヴィアに残ります」
カサンドラはそう言って執事のビアッジョの方を振り返ると、
「早朝、シュバンクマイエル宰相閣下の領地へと向かうとカテリーナ様に伝えて頂戴」
と、言い出した。
「カサンドラ、お前は戻れない道へと進もうとしているぞ?」
アルノルトの言葉に、カサンドラはにこりと笑って、
「とっても楽しみな道のりですわね」
と、言い出した。
宰相ウラジミール・シュバンクマイエルの所有する領地は侯都に隣接しており、侯都を守る要の場所とも言われているのだ。
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