乙女の真髄
活動報告にてミレーヌのキャラクターラフを公開中です。
そちらも見て貰えると嬉しいです。
さて、コミカライズの方ですが、何やらランキングで一位を獲得していました。
潮里先生凄いですね。
原作者として嬉しい限りです。
そして、自分の方は原作者という響きにちょっと嬉しくなっております。
コミックウォーカー様、ニコニコ静画様でも楽しめますので、是非とも読んでいただければと思います。
コミカライズ版の幼少期リオンが可愛いと評判でしたよ!
中身はアレだけどね!
マリエの屋敷を訪れた俺たちは、今後のことについて話をしていた。
その過程で――アンジェの世話をするメイドのリーダー、メイド長とでも呼んでおこう。
この人が俺に言う。
「この屋敷を使わせろ?」
「はい。お嬢様たちが共和国に滞在する間は、この屋敷で空いている部屋を使わせていただきます」
「俺に許可を求められても困るって」
「リオン様の許可が必要なのです」
よりにもよって、マリエがいる屋敷にアンジェを住まわせるの?
それってまずくない?
困惑していると、メイド長が俺に事情を説明してくれる。
「リコルヌは確かに立派な船ですが、ずっと船内というわけにもいきません。大地の上で休ませたいのです。大使館に確認を取ったのですが、アンジェリカ様に相応しいお屋敷はここしかないと言うので許可は取っております」
リコルヌ?
船の名前だろうか?
どんな船だろう?
「でも、マリエがいる屋敷にっていうのは――」
「だからこそ、です」
メイド長が俺を見る目が冷たいというか、鋭かった。
「リオン様、あのマリエと随分と親しいご様子でしたね」
「お、おう。ほら、アレだ。一緒に留学したし、多少は――」
「口には出しませんが、お嬢様が心配されています。あり得ないとは思っていますが、万が一にでもリオン様がマリエに籠絡されれば――」
俺とマリエが必要以上に近付かないために、アンジェが側で見張るということか?
いや、こいつらメイドが見張るということだろう。
「信用がないな」
「信じてはおります。ですが、あの五人を籠絡した相手です。警戒しても仕方がないと思いませんか?」
「あの五人って――あいつらだぞ」
今も玄関で座り込んでいる五人を、窓から眺めるとメイド長も少し困っていた。
「と、とにかく、気をつけてください。お嬢様はリオン様にお会いできると、それはもう楽しみにしていたというのに」
ノエルの件でメイドさんたちの視線がね――きついっす。
「分かったから。というか、マリエはない。絶対にないから」
「――信じておりますよ」
前世の妹だ。
手を出すなんてあり得ない。
メイド長が俺に頭を下げて離れていくと、外の様子に変化があった。
マリエが出てきたのだ。
五人が立ち上がって言い訳をしていたが、マリエは耳を貸さなかった。
「今まで私は甘やかしすぎたと思うの」
「マリエ、俺たちの話を聞いてくれ!」
「ユリウス――貴方たちが本当に私のことを考えているのか試させてもらうわ。まっとうな手段で――冒険者のような活動以外でお金を稼いできなさい。そうしないと、絶対に家に入れないから。あ、それから小銭程度を稼いでも家には入れるわよ。けど――五人の中で一番稼ぐのはいったい誰かしらね?」
それを聞いた五人が息をのんでいた。
――何これ?
こいつはアレか?
五人を競わせようとしているのか?
俺からすれば競ってまでマリエなんか欲しくないが、五人にしてみれば重要な問題だったらしい。
五人が互いに向ける視線は、今にも火花が散りそうな程だった。
ユリウスが他の四人を前にして宣言する。
「お前たちには悪いが、この勝負だけは譲らない」
ジルクも同様だ。
「殿下、私も引くつもりはありませんよ」
ブラッドが前髪を手で払いのけながら、
「一番稼いだ奴がマリエの一番になる。シンプルで分かりやすいじゃないか」
クリスが眼鏡を外した。
「誰がマリエの一番になれるか――勝負というわけだな」
グレッグが自分の手の平に拳を叩き付け、
「いいぜ、やってやらぁ!」
マリエを巡って野郎五人が争おうとしていた。
――何これ? まったく理解できない。
だが、アンジェたちが滞在する屋敷にユリウスたちがいないのはありがたい話だ。
マリエは五人を前に微笑んでいた。
「みんな、頑張ってね」
きっと自分のために争う五人を前に優越感を得ているのだろう。
俺には分かる。
「あいつやりやがった」
嫌われてもいいと思っているのか、マリエはやりたい放題に見えた。
◇
五人を追い出したマリエは上機嫌だった。
「何て清々しいのかしら」
どうしてもっと早くに追い出さなかったのだろう?
そう考えて、安物の紅茶で優雅な一時を過ごしていた。
ジルクが大量買いした茶葉で、味はマリエ好みではないが――勿体ないので日頃から飲んでいる。
だが、そんな紅茶すらおいしかった。
窓際で紅茶を飲んでいるマリエに声をかけるのはカーラだ。
不安そうにしている。
「マリエ様、本当によろしかったんですか?」
それは五人との今後の関係を心配した言葉だ。
マリエは動じない。
「五人が稼げるようになってくれれば一番だけど、本当は世間を学んで欲しいのよ。別に私が嫌われたって構わないわ」
(むしろ、ここで何人か離れてくれたら負担も減ってラッキーよね。というか、私のために五人が一番を競うと思うと――やだ、ちょっとドキドキしちゃう)
こんな展開が大好きなマリエは、カーラもお茶に誘うのだった。
「カーラも飲みなさい。今日は奮発してお菓子も付けるわ。夜は――外食よ」
「外食ですか!」
すっかりこの暮らしに馴染んでしまったカーラは、外食と聞いて喜ぶのだった。
「えぇ、そうよ。もちろんチキンじゃないわ。ビーフを食べるわ」
「――ビーフ」
両手を胸の前で組み、そして祈るような仕草で幸せそうな顔をしているカーラを見ながらマリエは財布の中を見る。
(い、いけるわよね? でも、ちょっときついかな? というか、今日くらいカイルやカーラを休ませてあげたいし、ここはお兄ちゃんにお金を借りるしか――)
苦労をともにしてきた二人をねぎらうお金を、リオンに借りようとするマリエだった。
◇
五人を追い出したマリエが、俺にお金を借りに来た。
「みんなと外食したいの。お金を貸して、お兄ちゃん!」
「帰れ! ――とは言えないか」
色々な事情を考慮すれば、貸さないと突き放すことも出来ない。
あの五人の世話をするために苦労してきたのは知っている。
今日くらいは外食してもいいだろうと、俺はお金を貸してやるのだった。
――返ってこないだろうけどね。
お札を受け取ったマリエが目を輝かせている。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「それはいいが、お前はこれからのことを考えているのか?」
すぐにでも俺たちを連れ帰りたいアンジェたちを説得する方法を聞けば、マリエは視線を俺から外した。
「おい!」
「だってまともに考えたら残る理由がないじゃない! 共和国も私たちには帰って欲しそうだし」
散々暴れ回ったから、共和国も俺たちには帰って欲しいようだ。
ピエールの件で少し暴れすぎてしまった。
今はちょっと反省している。
「ルクシオンで聖樹を攻撃、もしくはボスを暗殺なんて選択は嫌だぞ」
世界の危機を防ぐ方法はいくつかある。
ボスが手に負えなくなる前に排除。
聖樹そのものを破壊――というか伐採。
どれも国際問題一直線。
秘密裏にやったとしてもアルゼル共和国は大混乱だろう。
――やりたくねぇ。
「ゲームならやっちゃえ、って思うけど――リアルだと駄目よね。私もやりたくないわ。けど、放置は出来ないわよ」
「そもそも、アルゼル共和国の危機で、俺たちには関係なくない? ホルファートまで危機になるのか?」
尋ねるとマリエは言い淀んでいた。
「おい、どうした?」
「わ、分からないのよ。だって、ゲームだと失敗すればゲームオーバーで、成功すれば危機を回避するわけだし」
世界の危機と言われても、どの程度か判断できないということだ。
――帰りてぇ。
「実は俺たちが来る必要なかったんじゃないの?」
「知らないわよ! そもそも、レリアが余計なことをしたからややこしくなったのよ。全部あいつの責任よ」
「お前のせいで俺が苦労したことを忘れるなよ」
「ごめんなさい」
マリエが謝罪をしてきたところで、俺はあいつらのことを確認するのだ。
「レリアと三人で話をするとして、それよりもあの五人だ。どうする?」
「どうするって?」
「屋敷から追い出して良かったのか?」
「あ~、あれね」
マリエは遠い目をしていた。
「エリクをうちで預かっているんだけど、あの五人は普段の態度がエリクよりも酷いのよね。確かにエリクは問題ありだけど、それ以上に酷いっておかしくない? 元は期待されていた王子様たちよ」
王子様も一般庶民の生活力を求められても困るだろ。
だが、あいつらはここらで世間を知った方がいいのも事実。
後でフォローしておこう。
「なら、早い内にレリアと話をしておくか。姉貴さん――ノエルの件もあるからな」
「ノエル? え、あの犬と何か関係があるの?」
あぁ、こいつは姉貴さんの本名を知らなかったのか。
俺も昨日知ったばかりだし。
「実は――」
事情を話すとマリエが俺を笑ったので、きつい拳骨をお見舞いしておいた。
◇
夏休み。
レリアはエミールに誘われてデートをしていた。
慌ただしい共和国も、少しは落ち着きを取り戻しつつある。
エミールがレリアに話題を振る。
「港から色々と報告が来てね。王国の飛行船が来たんだけど、それが伯爵の飛行船と同型艦だったんだ。もう、港は大騒ぎだよ」
「そ、そうなんだ」
レリアは思う。
(エミールって何だか優しすぎて物足りないのよね)
色々と気を使ってくれるのも分かるが、女性と付き合ったことがないため楽しませ方を知らなかった。
初々しさがいいと思った時期もあるが、なれてくると物足りない。
(話題も仕事の話とか何を考えているのかしら?)
不満に思っていると、二人の前に黒髪を後ろで縛った男子が現れる。
野性味あふれるその男子は――セルジュだった。
「よう、レリア! お、エミールも一緒か」
片手を挙げて白い歯を見せて笑っていた。
「セルジュ、あんたいつ帰ってきたの!?」
「昨日だ。おかげで大騒ぎだったのを知らなくて、親父に怒られた」
セルジュに駆け寄り話を聞こうとすると、セルジュの左肩の辺りに浮かんでいる球体に目が行く。
青い球体には、赤い一つ目――その姿は、ルクシオンと似ていた。
アルベルクに怒られたので逃げてきたというセルジュに、レリアは呆れた。
「こっちは大変だったのよ。あ、えっと――」
二人の視線がエミールに向かう。
エミールはセルジュを前にして、少し不満そうにしていた。
「帰っていたんだね、セルジュ」
レリアはすぐにでもリオンたちのことをセルジュに相談したかった。
そのため――。
「ごめん、エミール。今日はセルジュと話をさせて」
――レリアは一日だけと思い、エミールと別れてセルジュと話をすることにした。
エミールは困ったように笑っていた。
「二人とも仲が良いよね。分かったよ。今日はここで別れよう」
レリアは安堵した。
(物分かりが良くて助かったわ。それよりも、早くあの二人のことを相談しないと。それに、この球体ロボット――もしかして、こいつもチートアイテムを回収したの?)
セルジュは去って行くエミールの背中を見送っていた。
「いいのか? 付き合っているんだろ?」
「それどころじゃないのよ。こっちは予定が狂って大変よ。私たちと同じ転生者がいたのよ。ホルファート王国に最低でも二人いるわ。あんたが連れているのと同じチートアイテムを持っているのよ」
それを聞いて青い球体――イデアルが興味を示した。
『私と同じ、ですか。大変興味深いお話ですね。お嬢さん、良かったら詳しくお聞かせください。マスター、これは重要な案件です。すぐにお嬢さんの相談を受けた方がよろしいかと』
セルジュは溜息を吐く。
「恋人を放置するだけの理由がある、ってか。分かった。なら、どこか落ち着ける場所にでも行こうか」
二人はそのまま歩き出した。
「あんた、また背が伸びたんじゃない?」
「成長期だからな。お前の方はどうだ?」
セルジュからレリアは胸を隠すのだった。
「どこを見ているのよ!」
「はぁ? 身長の話だろ? 何で胸を隠すんだよ」
リオンに胸のことを言われて、過敏になっていたレリアは思わず赤面するのだった。
「そ、そうよね。身長の話よね」
「大丈夫か? それより飯は食ったか? まだなら一緒に食おうぜ」
「いいわね。あんたと一緒なら気取る必要もないし、気楽で良いわ」
二人は楽しそうに歩いていた。
その様子を、物陰からエミールが見ているとも知らずに――。
マリエ( ゜∀゜)「外食とか久しぶり! 今日はいっぱい食べるわよ! みんな好きなものを注文しなさい。お金の心配はしなくていいわ!」
カイルヽ(*´∀`)ノ「やったー! 片付けをしなくていいって最高ですね」
カーラヽ(*´∀`)ノ「お肉ぅ! マリエ様、デザートはありですか?」
マリエヾ(*´∀`*)ノ「もちろんよ。デザートも注文しなさい。今日は豪勢にいくわよ」
アンジェ(;゜Д゜)
リビア(;゜Д゜)