169 ルチアーナの好感度アップ大作戦 3
「えっ! わた、私ですか!?」
寝耳に水の話だったため、驚いて聞き返すと、王太子から真面目な表情で頷かれた。
「ああ、色々と忙しいだろうが、検討してもらえないか」
真摯な表情で尋ねてくる王太子を前に、私はびっくりして目を見開く。
まあ、……鴨が葱を背負って来たわ!
なぜなら私は、どうにかして王太子と仲良くならなければいけないと考え、その方法をずっと探していたからだ。
白百合領に滞在する10日間で、聖獣問題が片付くとは思えなかったので、学園に戻った後も、引き続き聖獣について色々と試みなければいけないだろうと覚悟していた。
そのため、今後もどうにかして王太子と仲良くしておく必要があると考えていたところ、王太子自ら彼と関わる理由を与えてくれるなんて。
「検討しました! ぜひ生徒会に加わらせてください!!」
あれほど私のことを嫌っていた王太子のことだ。
私の生徒会入りを申し出た裏には、ラカーシュの口添えがあったに違いない。
そして、いくら大事な従兄からの口添えがあったにしても、王太子は私が生徒会に参加することに、全面的には賛成していないはずだ。
そのため、私ごときが答えを迷ったりしたら前言を撤回されかねない……と考え、大きな声で即答する。
すると、王太子は驚いた様子を見せた。
「は、もう返事をするのか? それは……すごい決断力だな。では、今後は君が生徒会の広報担当だ。よろしく頼む」
そう言うと、王太子は右手を差し出してきた。
突然の成り行きに未だ戸惑ってはいたものの、逃がさないわよ、とばかりに私は王太子の手をぎゅっと握り返す。
初めて握った王太子の手は私より大きくて、手袋越しでも分かるほど温かかった。
そのため、ふと現実に立ち戻る。
えっ、あれっ、私ごときが王太子と握手をしているわよ!?
その時になってやっと、私は自分の行動を自覚し、はっとして顔を上げた。
すると、王太子のきらきらしい美貌が間近に迫っていることに気付く。
近くで見た王太子の瞳は翠の宝石のように輝いており、とても近距離から観賞するような対象ではないと、心臓がどくりと跳ねた。
「うぐっ!」
そのため、私は慌てて握っていた手を離す。
「し、失礼しました! お、王太子殿下の手を握るなんて、図々し過ぎましたね!」
まずい、まずい、まずい。
最近、どういうわけか(もちろんこの世界が乙女ゲームを基にしているため)イケメン遭遇率が高く、イケメン慣れしているような気持ちになっていたけれど、王太子の美貌は格別だわ。
動揺していることを悟られまいと、誤魔化すような言葉を口にしたけれど、王太子は戸惑った様子で返事をした。
「……いや、私から手を差し出したのだが」
「あ、そ、そうでしたね」
自分でも挙動不審になっていることは分かっていたため、『落ち着くのよ、私!』と心の中で言い聞かせていると、片手を取られた。
えっと思って取られた手を見ると、ラカーシュから両手で握りしめられている。
「えっ、あの、ラカーシュ様?」
「私も生徒会役員だからね。ルチアーナ嬢、よろしく頼むよ」
ラカーシュは両手で少し強めに私の手を包み込むと、その整った貌で間近に覗き込んできた。
すると、吸い込まれるような漆黒でありながらもキラキラと輝く黒ダイヤモンドの瞳が目に入り、やはりラカーシュも近距離から観賞するような対象ではないと、心臓がどくどくと不規則な音を刻み出す。
「こ、ここ、こちらこそ、よろしくお願いします!」
おかしい、おかしい。
私はラカーシュから見つめられることには、だいぶ耐性が付いたはずなのに、どうしてこんなにドキドキしているのかしら。
そう思うけれど、ラカーシュの見つめ方がこれまでと異なるように思われて、動悸が収まらない。
どういうことかしらと、服の胸元部分をぎゅっと押さえつけていると、王太子が呆れた様子でため息をついた。
「ラカーシュ、私は挨拶をしただけだ。にもかかわらず、あからさまに誘う視線を送るんじゃない。いつからお前はそんな風になってしまったのだ」
王太子の言葉を聞いたラカーシュは、そこで初めて自分の行動を自覚したとばかりにぱちりと目を閉じると、数秒間そのままの状態を保っていた。
それから、彼は目を開いたけれど、その目つきは先ほどまでと異なり、よく見慣れた穏やかなものに戻っていた。
そのため、私はほっと安心する。
それでも、何とはなしにできるだけ距離を取ろうと、座席に深く座り直していると、王太子とラカーシュは無言で私を見つめた後、2人ともに苦笑した。
……多分、あの表情は、私が男性慣れしていないことに呆れているのだ。
そう考えてむっとしたけれど、慣れていない私をかわいそうに思ったのか、そのまま2人で話を始めたので、私は再び窓の外を眺めることにした。
この2人はイケメン過ぎるから、見つめ続けているのは心臓に悪いことを身をもって理解したわ、と考えながら。
そのため、その後の時間は頑なに窓の外を見続けていたのだけれど、視線を向けなくても声は耳に入ってきたため……2人ともイケボよねーと耳を楽しませている間に、視察先に到着した。
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