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閑話4:秘書官の休暇

 広々とした執務室に僕は一人取り残されて、書類に埋まっていた。ちなみに、現在進行形ですよ?


 秘書官としてクロード様に雇われて、秘書官どころか事務官を兼任してるんじゃないかってくらい書類仕事がたんまり。

 でもそのぶん良い給料もらってるから文句は言えない。

 同期の皇宮勤めに聞いたところ、びっくりする給料だった。多いって事じゃなくて少なすぎて。そのくせ仕事は専門外までこなさなくちゃいけないらしい。まあ、僕の場合も秘書だけど事務要素が強いけど。


 僕は学院時代にクロード様に早々に声をかけられて、実は現実の給料をしらなかったので、ある意味クロード様に拾われて良かったのかも知れない。

 結構鬼のような雇い主だけど、少なくとも給料をケチったりはしないし、働きに応じて給料アップもある。

 仕事の量はブラック通りこしてるけど、でも他に比べたらマシ――うん、マシだと思おう。

一応認められていると思えば……なんとか耐えられる気がしないでもないしね!


 さて、良い主なのか悪い主なのかちょっと分からないクロード様だけど、現在領地へお戻りになっている。リーシャ様を連れて。

 そして、僕はこの機会に休暇を取ってもいいと言われている。

 それを聞いたときは明日雨でも降るのかなって思ったのは内緒だ。まあ、クロード様にはバレていただろうけど。あの人、本当に読心術でもあるんじゃないかって思う。

 話はそれたけど、この家に新しくやってきた総括執事のラグナートさんの許可もとって、久しぶりに三人の友人と会う予定だ。


 彼らは当然学院出身のエリート連中だ。そんなエリート連中は実際に仕事を始めてそれぞれ自尊心を叩き潰されている最中で、愚痴は主に上司や先輩になる。


「マジでやってらんねーよ! 仕事出来るならともかく、こんなこともわかんねーのかよ! って怒鳴り返したくなったわ」

「分かる! 俺のところもいるわ、そういうの! 貴族だからぜってーコネだろ」


 ここに集まっているのは基本的に上級階級から中級階級の平民だ。というか、貴族様は僕たちの事がお嫌いだったのか、いつもつっかかってきていた。

 学院では身分よりも勉強できる奴の方が優位に立つ。だからこそ貴族のお方たちは気に食わないようだった。


「皇宮だったら公務員だし安定してる上給料だって他よりいいから選んだけどさ、これなら民間で実力見せつけてのし上がった方が良かったかもな」

「いや、民間も大変だぞ。熾烈な契約競争とかもあるし、結局コネあるやつが強いのは同じかも。まあ、身分でどうこうっていうのがないだけマシかもな。一部コネ就職のやつもいるけど」

「どこも実力主義と謳っても結局内情はこんなもんだよな。そういえば、お前はその貴族様に雇われてるんだったな」


 僕の方に三人の視線が集まった。


「まあ、学院時代に声かけられたから」

「リンドベルド公爵様か……、あの人なら上司としてすごく有能そうなんだけど」


 有能どころか、人じゃないと思ってる。いや、これ本気で。たぶん、リーシャ様も同じ事思ってる。


「理不尽な事では怒らなそうだしな」


 理不尽な事では怒らないかもしれないけど、理不尽な仕事を押し付けられることはままある。でも、ミスしても嫌味言われるだけで怒られることはない……、あれ、こっちの方が実は堪えるのか?


「給料も良いみたいだし」


 ぶっちゃけ一般的に鑑みれば超高給取りだ。だけどその分休みなく働かされることもあるし、彼女作る暇もないし、寝る時間も――……あれ、これやっぱり職場としてブラックなんじゃ……。

 でも最近はマシかな? ラグナートさんのおかげで書類仕事は順調に回っているし、リーシャ様もびっくりするほど仕事が出来る。あの悪意ある噂とか、本当に噂でしかなかったんだなぁって感じる。


「そういや、リンドベルド公爵様と言えば結婚したんだよな? 俺噂で聞いたけど、結構酷い女だって聞いたけど?」

「違うし!」


 思わず口から否定の言葉が飛び出た。


「リーシャ様は超美人だし、頭も良いし、すごく優しい方だから!」


 本当に女神だと思う! リーシャ様のおかげでまともにご飯食べられるようになったし、お茶の時間もできたしね!


「いや、でもさ……」

「噂で人を判断したら駄目だって僕は良く学んだんだ」

「でもディエゴの言うのは正しいかも知れないな」

「どういうことだよ」


 一人が僕の言葉に同意するかのように声をひそめた。


「ほらなんでも豪遊してたとか、変な薬をやってるとか色々噂あっただろう? それが本当で彼女が結婚したなら、彼女の実家の領地はいい方に向かうはずだ。だけど、むしろますます経営状態は悪化してるって話だ」

「え?」

「農民とかが隣の領地に逃げ出して行ってるとも聞くぞ。そういう話は貴族としてもやばいだろ? 社交界どころか俺が耳にするくらいだから、結構真実味はあるぞ」

「マジかよ! でもなんでお前知ってるんだよ」

「その隣の領地っていうのが俺の出身領地。この前帰った時、親父たちが愚痴ってるの聞いたんだわ」


 何か知ってる事ないのかと視線で問われたけど、僕は何も知らない。たぶん、ラグナートさん辺りなら領地の状況を詳しく知っているんだろうけど、何もしないという事はきっとそういう事なんだろう。

 そもそもリーシャ様のご実家の方々は良い噂を聞かないし。なんとなく、リーシャ様は状況的に冷遇されていたんだろうなぁっていうのは分かる。


「もう結婚したんだから他領の人間だし、どうすることも出来ないんじゃない?」

「ディエゴ、お前ドライだな。一応お前の雇い主の奥様の実家の話なのに。リンドベルド公爵様がなんとかしたりしないのかって話も出てるぞ?」

「ああ、一応親戚になったわけだしな」


 うーん……、リーシャ様が知ったらどうするんだろう? 何もしないのかな? それとも、やっぱり気になる?

 ラグナートさんが知らないはずないのに黙ってるって事は、リーシャ様に知らせる気がないって考えられる。

 リーシャ様は社交が好きじゃないし、邸宅にほとんど引きこもりで外からの情報は少ない。大体、今ここにいるメンバーで知ってるのは一人だけだし、もしかしたらラグナートさんもまだ知らない可能性も……なさそうなんだけど、あの人。

 クロード様同様、人やめてそうなくらい有能だし。

 でも一つ言えるのは、僕は何も知らないという事。


「少なくとも僕は今初めてそんな状況だって知ったし、たぶんクロード様も知らないんじゃないかなぁ? それどころじゃないくらいには忙しいし、もしクロード様がご存じなら僕にだって情報は入ってくると思うよ」


 果たしてクロード様が知らないなんて事あるのかなって疑いたくもなるけど、とにかく僕は本当に初めて知った事だ。

 三人は一瞬疑いながらも、すぐに信じてくれた。


「ま、本当に知らなそうだしこれ以上聞いて無駄か」

「言っておくけど、僕にだって守秘義務というものがあるんだからね」

「そりゃそうだな」

「だけど、お前ちょっと分かりやすいところあるから少しつつくと顔に出るんだぞ?」

「えぇ!?」


 確かに嘘つくのは苦手だけど、一応ポーカーフェイスというものは身につけたはず!


「ふと思ったんだが、お前が公爵様に雇われたのって分かりやすいからじゃないのか? それなのに変に頑固だから絶対口を割らないし……なんかそんな気がしてきたぞ」

「そ、そんな事ない! 一応僕は首席だったし!」

「頭脳は優秀でも、どっかポンコツなところがいいのかもな」

「ああ、分かるかも。イジメるにはちょうどいいって事か? それに分かりやすい奴程信用できるもんな。何考えてるかすぐわかるし」


 なんか散々だ。

 いや、でも! クロード様に声かけられたときなかなか見どころがあるって言われたし、信用できそうだとも言われて、それに優秀さを評価していただいて――……評価、された……っけ?


「ディエゴ、そんなに深く考えるなよ。お貴族様の、しかも超特権階級の考える事なんて分かるわけないんだから」

「どっちにしろ、お前は俺らの中で一番の出世頭だよ」

「俺たちがいつか独立したら、ぜひ公爵様を紹介してくれ」


 慰められたと思ったら、最後! それ、絶対に無理なやつだから!


 そんなこんなで、男四人集まった飲みは夜遅くまで続いた。

 翌日、ラグナートさんから旦那様宛の書類を分別するようにと容赦なく大量の書類がどさりと机に置かれて二日酔いの頭に響く。


 確かに、確かに良い給料もらってますけど、時々は優しさがほしいと思うのはいけない事なんでしょうか?




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