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16.二人の案内人

「カルナーク、こいつらを案内してやれ。外にいる連中もな」

「ちっ……、なんで俺が――」


 カルナークと呼ばれたのは、わたしたちに怒りを見せていた若い彼だった。

 この中ではおそらく一番の年少者のようだ。面倒な仕事を押し付けられて、不貞腐れている。

 ぐちぐちと文句を言いながらも、嫌とは言わないあたり素直なのか、それとも酒場の店主が怖いのか。それともその両方か。


「それと、炭鉱に行くならマードックも一緒に行ってやれ」

「仕方ない」


 マードックと呼ばれ返事をしたのは、店のカウンターの端に座っていた男性だった。

 上背も横幅もあるような大男。背だけでいえば平均身長より高めの旦那様より少し小さいかもしれないけど、横幅があるので旦那様より大きく見える。

 カルナーク自身も小さくはないけど、彼と並ぶとだいぶ小さく見えた。

 マードックが先に店の出入り口へと歩いて行くと、カルナークは再び舌打ちしながらわたしたちを見て、着いて来いと顎をしゃくる。


「おい、行くぞ!」

「ちょっとお待ちなさい……わたくしは――」

「行きましょう! 身体を使って働くと言うのも経験ですよ!」


 無理やり言葉を遮って、わたしはロザリモンド嬢を引っ張っていく。

 ミシェルもカルナークの後を追うようについて行った。

 相変わらず店中の視線を浴びながら三人で外に出ると、ミシェルが合図し陰に隠れていた騎士が現れた。全員平服を着て隠れて護衛と言っても、この小さな閉鎖的な村ではあまり意味をなさない。


「おい、こいつらか?」

「そうです」

「ふーん……」


 騎士は全員で三名。

 少ないながらも、旦那様が選んだ人たちなので腕は相当立つとの事。

 ちなみに、ミシェルは小柄だけど剣の腕は騎士の中でもトップクラスだとか。実際に戦っている姿を見た事ないけど、ドレス姿の時に見たミシェルは細そうな腕のわりに、強烈な一撃を繰り出していたのを見ているので、疑う気はない。


「まあまあだな」


 カルナークが上から下まで彼らを見てそう評した。

 気に食わないという顔を隠しもしていないところが、まだまだ若いのだと感じた。

 逆にマードックは何を考えているのか分からない。


「行くぞ」


 マードックは強面の顔をしていて、お世辞にも堅気には見えない。人を一人二人殺していそうな雰囲気。

 正直皇都で見かけるものなら、すぐに通報されそうだ。


「どちらへ向かっているのですか? わたくしたち、暇ではありませんの」


 だから! どうしてそう空気読まないの! あの空気を読むことを放棄しているようなミシェルですら空気読んでるのに!


 カルナークがロザリモンド嬢を睨んでまた文句を言おうとしたところで、マードックがそれを止める様に口を挟む。


「ついて来れば分かる」


 短い言葉ではあったが、不思議な力があった。彼の言った一言はこれ以上何も言わせないようなそんな響きがあった。

 いつもならロザリモンド嬢は自分の聞きたいこと言いたいことを口に出すのだけど、ロザリモンド嬢も流石に何か思うところがあったのか若干不満げながらもそれ以上何も言わなかった。

 カルナークの方も言いたいことが山ほどある、そんなムッとその表情でロザリモンド嬢やわたしたちを睨んでいたけど、マードックに言葉を先んじて封じ込められたようだ。


「少しだけ感心したことが……」

「何?」

「ロザリモンド様って大した度胸がありますよね……」


 まわりは苦労するって言葉が隠れているけど、それはわたしも少し思ったよ、ミシェル。


 空気を読まないというか読めないからなのか、それとも自分に絶対的自信があるからなのか分からないけど、彼女は基本的に自信家だ。そして、怖いもの知らず。

 だから、あの男たちの大勢集まる酒場でも言葉を紡げたし、この目の前の強面マードックにだって気軽に話しかけられる。

 旦那様ならできるだろうけど、少なくともわたしには無理だ。

 なんとなく、これは生まれが関係しているとか、育ちがどうとかの問題ではない気がした。

 本質的に彼女は少し違うのだ。一般的常識から外れている、そんな人。


 小さな村なのですぐに村の外に出る。

 道がそれなりに整っているという事は、普段からこの道は利用されているという事。

 この先は鉱山――炭鉱であることはすぐに分かった。


「ところで、今日はお休みなんでしょうか?」


 ロザリモンド嬢が村を出てしばらくすると再び質問した。

 酒場で聞いていた事で、気になっているらしい。彼女は自分の知的好奇心が満たされるまでこうして聞き続けるのかも知れない。

 これでは旦那様がいやがるのも分かる気がした。


「ずっと、休みだ」


 律儀にもマードックが答える。


「なぜ?」

「上の人間がいないからだ」

「上の人間?」

「そうだ、指示を出す者だ。そいつがいないと給料も払われない。やっても無駄だ」

「なぜいないのでしょう?」

「あー! なんなんだよ、お前!!」


 ついにキレたカルナークがロザリモンド嬢へ指を突き出す。


「いねーもんはいねーんだよ! 逃げたんだよ! 俺たちの金全部持ってな!! 今日はその事で集まってたんだよ! 今後どうするか話し合うためにな!!」


 やはりそうだったかと思いながら、わたしはカルナークを見た。

 今にも掴みかからんばかりのカルナークだけど、相手が女性であるロザリモンド嬢のためか手を出すような事はしない。口は悪いし、態度も良くないけど、ただそれはわたしたちが彼らにとって害であると思われているからだし、怒りを買うようなことを言っているからだ。

 拳を握る手が震えているのが目に入るけど、その怒りの拳を振るう事はなかった。


「カーク、そこまでにしておけ」

「マードックさん!」

「知らない者に、何を言っても無駄だ。知ろうとしない者にも」

「わたくし、何も知らないわけではありませんわ。それに、知ろうと思っているからここにいるのです」


 十分世間知らずのお嬢様。でもそれはわたしも同じ。

 守るべき領民の暮らしを知っていても、それが実際どれほど大変なのか、本当の意味で理解はしていない。

 それは、貴族――特権階級者に属する人のほとんどがそうだ。

 理解する必要はないとは言わない。

 しかし、お互いの一線を越えてはいけないとも思う。一線を越え、近くなりすぎれば正しく判断することが難しくなるから。


「酒場でも言っていたな。それが正しき言葉である事を願っている」


 ちらりとわたしを見た視線に一瞬、背筋がゾクッとなった。

 とっさについた嘘だったことを見破られている、そんな気がして誤魔化すように微笑む。


「マードックさん、いいのかよ! ぜってーこいつら興味本位だぜ!? 適当に見て適当に言っておけばいいくらいにしか思ってない!」

「カーク、静かにしろ」

「――っ」


 側で騒ぐ若者を黙らせると、マードックが再び歩き出す。

 カルナークはマードックに味方してもらえず、唇を突き出して無言で後ろをついて行く。

 さすがにちょっとかわいそうだった。



 

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