7.悲壮感はない。あるのはヤル気
さて、わたしは一応非難されているわけだけど、一体ここでどうすればいいのだろうか。
問題視されているのはわたしのドレス。
だけど、ここで余計な口を挟むのは皇女殿下と同じで礼儀知らずになってしまう。
なにせ、我が夫たるリンドベルド公爵家当主が皇妃陛下とお話しているのだからね。
わたしは黙って静かに待つに限る。
いやー、旦那様。盾役ご苦労様。
わたしは楽でいいですけど、でもあまりやりすぎると、旦那様が去った後が怖いのでほどほどにお願いします。
いや本当に!
「確かにただの赤いドレスですが、妻が来ると分かっていて選んでいるのなら、やはりリンドベルド公爵家への挑戦と受け取られてもおかしくはありません、皇妃陛下」
皇女殿下の目が一段と剣呑な輝きを放つ。
ただの赤いドレスと言われたことに腹が立ったようだ。
まあ、自分の方が似合うしリンドベルド公爵家と釣り合いが取れていると見せつけるために着ていたんだろうけど、旦那様に完全に相手にされていなかったら意味ないし、逆に恥をかかされたのだからしょうがない。
でも、そこでわたし睨むの止めて!
言ったの旦那様だから!
「クロード、もしわたくしと血が濃くなかったら共にいられたのに、わたくしは残念でなりません」
旦那様、ちょっと! 顔顔! 怖いんですけど!?
「そうですか? 私は今とても満足しています。美しい妻と結婚出来て、幸せですよ。彼女は頭もよく、行動的で、いつも私を驚かせてくれます。ですから、彼女になにかあったら自分が何をするか分かりません」
誉め言葉なのか、少し迷うところだけど、一応誉め言葉として受け取っておきましょう。
それに、皇妃陛下と皇女殿下に釘をさしてくれたようだ。
わたしに何かしたら許さないっと。
まさかここまでしてくれるとは思わなかったけど、仲がいい夫婦ならそれくらいはするかな?
周りの貴族もわたしと旦那様が実は恋愛結婚だったのではないかと勘違いしてる。
正しく政略結婚だけどね。いや、契約結婚と言っていいかもしれない。
詐欺男に引っかかった哀れな、考えなし娘ですけどね。
皇女殿下はぎりぎりと歯ぎしりが聞こえそうなほど歯を噛みしめている。
「それではそろそろ失礼いたします。他にもお二人にご挨拶したい方がいらっしゃるようですので」
わたしは一切口を挟まず、隣でずっと微笑んでいるだけだったけど、内心冷や汗だらだらだ。
最終的には旦那様の勝ちだったようだけど、皇女殿下は分別なさそうだな、本当に。
これで一国の皇女……しかも周辺諸国では最も力をもつ我が国の皇女かと思うと、少し残念な気持ちになる。
というか、この人国外出しちゃだめじゃない?
だって、国外出したら本性知った他国から悪い噂しか出てこないし。
ひいては我が国の悪評になるというか……
大方の見方の中でも他国の王族との結婚が有力だったけど、実際はどうだろうか。
無理なんじゃないのかぁ。
でも、逆に皇妃陛下がどうしてそこまで旦那様に固執したのかもわかった。
旦那様ぐらいしかいなかったからだ。
皇妃陛下は自分の娘の事はたぶん、正確にわかっていらっしゃる。
他国に出せばどうなるのか理解して、それで国内に絞った。
その中でも、皇女殿下が気に入ったというのもあるけど、皇女殿下を押さえられるのが旦那様くらいだったからだ。
もちろん、自分の娘だから、よりよい結婚を望んではいるというのはあったと思うけど。
だったら、皇女殿下がこうなる前に、なんとかしておいてよと思わなくもないけど、皇妃陛下は皇帝陛下並に忙しい。
基本的には教育はやはり乳母やもしくは教育係の仕事になる。
そこが甘やかしていたら、子供はそうやって育っていく。
しかりつける相手がいないのなら、どんどん駄目な方に成長していくものだ。
「大丈夫か?」
「はあ、まあ大丈夫ですけど」
疲れはしましたけど、ほとんど旦那様がやってくれたので楽できた。
できれば今までも積極的にこれくらいしてほしかった。
「あっちにアンドレット侯爵家の令嬢がいる」
「行って来てもよろしいですか?」
「構わない、私はそろそろ離れるが、アンドレット侯爵家の令嬢の側にいれば、問題はないだろう」
旦那様がミシェル嬢のところまで連れて行ってくれる。
ミシェル嬢の周りには色とりどりなドレスの集団。
わたしより若そうな成人したての子やミシェル嬢より年かさの女性と、年齢もそれぞれだ。
でも、なにより目を引いたのが――……
顔整ってるわ、全員……
可愛い系とか美人系とか種別は違えど、男性陣からの視線を集めると言う意味では成功している。
話しかけたくても、これだけ容姿端麗な女性が何人も固まっていると流石に話しかけづらい。
それこそ、旦那様ぐらい顔が良くてお金を持っていて、権力を持っているような自信あふれる男性でないと。
まあ、そういう人は真面目か不真面目かに分別されて、近づいてくるのは後者の自意識過剰なやつだけど。
「ごきげんよう、公爵様、公爵夫人様」
「ごきげんよう、ミシェル嬢」
わたしとミシェル嬢が挨拶を交わしている間に、旦那様は無駄口叩かず頷いただけで、さっとわたしの耳元で囁く。
「そろそろ行くが、鐘が七つなる頃になったら私の皇宮執務室に来い。場所は彼女が知っている」
「? はい、わかりました」
良く分からないけど、抜け出すいい口実にはなるので返事をしておく。
ミシェル嬢が知っているらしいけど、なぜでしょうね?
皇宮に詳しそうだから、別に不思議はないんだけど、それならその辺の騎士とかでも良くない?
旦那様は完全にミシェル嬢との関係を否定してたけど、やっぱり怪しいんだけど。
疑いの目で送り出しながら、わたしはミシェル嬢のお友達を紹介してもらう。
「右から順番にご紹介しますね。まずは、アマドレット子爵令嬢アマンダ、ルードルフ伯爵令嬢リース、シードル伯爵令嬢マチルダです」
「よろしくお願いします、リンドベルド公爵夫人のリーシャです。ぜひリーシャとお呼びください」
アマンダは栗色の髪を持つおそらくこの中では一番若い女の子だ。小動物みたいなフワフワした可愛さがある。
リースは、もう見た目ザ、お姉様! みたいにカッコいい雰囲気を醸し出している。何も知らずに近づいて来ればばっさり切られそう。年は二十五歳のご令嬢で、結婚はしていない。早めに結婚して家庭に入る傾向のある貴族令嬢にしてみれば、かなり異質な存在。
そして、マチルダ。彼女は癒し系美少女とでも言おうか。柔らかな微笑みで、どれだけの男性をくぎ付けにするかとっても気になる。
みんな本当に綺麗な子たちばかり。
これじゃあ確かに皇女殿下に目を付けられてもおかしくない。
でも一つ気になる。
確かミシェル嬢の派閥って皇女殿下から目の敵にされているんだよね?
なんか、全然そんな雰囲気ないんだけど?
むしろ、論戦になったらあっさり向こうの派閥言い負かしそうなんだけど?
皇室主催のお茶会に参加できないような子が狙われているって事だと思うけど、悲壮な空気感は全くないんだけど?
ヤル気満々!
な気配さえ感じるんですけど!?
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