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遺跡を覆い始めた異変


 通路の角を、曲がった時だった。


 角の向こう側から、魔物の鳴き声が押し寄せてきた。


「ギぎャぁァ!」

「ゴぇェげェぇ!」

「グおガぁァ!」


 迫りつつあった鳴き声が、ピタッと止まる。

 鳴き声の凶暴性が増す。


「キ、しィぁァあアあ゛ア゛――ッ!」


 声の位置的にちょうどモンクたちがいた辺り。

 麻痺と毒にかかったモンクとあの二人組。

 毒で息絶えるのか。

 魔物に殺されるのか。

 俺にはわからない。


 短い悲鳴が、聞こえた気がした。


 突起状のピギ丸がニョロッと顔を出す。


「ピギ!」


 ピギ丸が少し怒っていた。

 どうやら、さっきの連中に対してらしい。


「おまえってけっこう、好き嫌いハッキリしてるよな……」

「ピ!」


 俺は通路の角でしばらく時間を潰した。


「ピピピ? ピギッ!」


 ピギ丸が警告を発する。

 モンクらのいた場所で騒いでいた魔物たち。

 騒ぎが、おさまっている。

 鳴き声が再びこちらへ近づいてきた。

 ニオイを辿っているのだろうか?


「次の獲物は、俺らしいな」

「ぎシぇァぁアあアあ――ッ!」


 角から顔と手を出す。

 定石コンボ。


「ぐ、ゴ、ェ――、……?」


 襲いかかってきた魔物を、封殺。

 魔物がモンクらの毒の影響を受けた様子はない。

 俺の状態異常スキルの毒性……。

 対象者以外には影響しないのか?


 俺は、モンクたちのところへ戻った。

 食い殺されていた。

 血塗れの死体。

 辺りに飛び散った血。

 金を奪うのは――やめておいた。

 小袋が破れ、硬貨が散らばっている。

 その硬貨にも血が付着していた。

 持ち帰った際、担当官のチェックが硬貨にも及ぶ可能性はある。


「万が一指摘を受けたら、場合によっては説明が面倒かもしれないな……」


 地下で一枚一枚血を拭うのも手間がかかる。

 幸い金の手持ちはまだ十分にある。

 なので死体には手をつけず、そのまま放っておくことにした。


 通路を引き返す。

 麻痺と毒状態の魔物たちは、まだ生きていた。


「…………」


 毒死を待つのも面倒か。

 魔物の喉元を短剣で順番に切り裂いていく。

 少しは経験値も入っただろうか?

 ただ、この遺跡に入ってからレベルは上がっていない。

 魔物もそこそこ殺したはずだが。

 経験値はやはり低い、か。

 となると、無理に殺していく必要もなさそうだな。


 魔物を始末し終えた俺は、一つ下の階層へ進んだ。



     ▽



 今のところ一層分が思ったよりも狭い。

 というか、狭く感じる。

 廃棄遺跡が広すぎたのかもしれない。


 麻痺と毒の定石コンボで魔物を殺しながら、俺はぐんぐん先へ進んだ。


 現状、眠りは射程の問題で重ねがけ用になっている。

 約20メートルという麻痺の射程。

 言うなれば遠距離武器感覚で使える。

 なので初手はどうしても【パラライズ】になってしまう。

 余裕のある時は一応【スリープ】も重ねがけしているのだが……。

 いずれ【スリープ】もLV3に到達させたいところだ。


 進むごとに他の傭兵を見かける頻度は減っていった。

 レベルは一向に上がらない。

 物陰でMPを確認。



 MP:+58517/59037



 残量は気にしなくてよさそうだ。

 ちなみにMPが睡眠で回復するのは今朝判明している。

 昨夜、就寝前にMP残量チェックをした。

 起床時に確認すると、回復していた。

 MPは一定時間以上の睡眠で回復する。

 廃棄遺跡で居住エリアに宿泊した時を思い出す。

 レベルアップでどんどん回復するのでチェック頻度が減っていた。

 あの時も、少しは回復していたのかもしれない。

 とにかくこれでMPをやや気軽に使えるようになった。


 懐中時計を確認。

 ミストと巡った店で買ったものだ。


「少し、休憩するか」

「ピ」


 この遺跡には休憩用の部屋がいくつか存在する。

 傭兵や侯爵の私兵が探索時に設えるそうだ。

 稀に保存食や水を置いていく親切な者もいると聞く。

 ただ、人間が引き揚げると魔物が高確率で占拠するのだとか。


 10層で休憩部屋を発見した。


 塗料でドアに印がつけてあった。

 休憩部屋の印。

 が、部屋には先客がいた。

 部屋から声が漏れ出ている。

 人間の声。

 魔物ではない。

 ピギ丸に背後の警戒を頼み、聞き耳を立てる。


「気づけばもう10層だな!」

「他の傭兵どもは今、早い連中でも7層あたりだろうぜ」

「で、今の僕らはバッチリ休息を取ったあとですからね」

「やっぱ一番乗りで遺跡に潜るのは有利よねぇ」

「ま、その分ワシらは新層から出てきた強い魔物を狩ってやってるわけじゃな」


 もしかして……。

 説明会後にさっさと潜った傭兵たちか?


「いいね!? 竜眼の杯は、アタシら剣虎団けんこだんがいただくよ!」

「おうよ!」

「あと5層進めば新層だ! アンタたち、気合入れんだよ!?」

「任せてくれ、姉御!」

「よし! いい返事だ!」


 ここにいる傭兵たちが最速攻略組っぽいな。

 この階層では他の傭兵の姿は見ていないし……。

 さて――どうしたものか。

 今は一人で休みたい気がする。

 この中を間借りするのは精神的に少し疲れそうだ。


「…………」


 そうだな。

 空いている他の休憩部屋を捜して、そこで休息を取るか。

 俺は魔物を殺しながら、さらに三つ下の層まで降りた。

 13層。

 あと二つ降りれば新層が発見されたエリアだ。

 ただ、新層に踏み入る前に一応休憩を取っておきたい。

 ウロウロしていると、つい先ほど目にした印を見つけた。

 休憩部屋の印。


「グがルァぁ!」

「ブぉォ!」


 魔物に、占拠されていた。

 しかも十匹はいる。

 迸る魔物の殺意。

 複数対象指定。


「【パラライズ】」

「ぐ、ガ!? ぅ、ガ……?」

「【ポイズン】」


 占拠していた魔物を駆逐。

 が、


「この死体を、運び出すのか……」


 デカイのもいる。


「…………」


 一旦、一つ下の層にも足をのばしてみるか。

 14層に入り、魔物を殺しつつ探索してみた。

 が、休憩部屋は見つからなかった。


「だめか」


 仕方なく俺は13層の休憩部屋へ引き返した。

 魔物を外へ運び出し、綺麗になった部屋に入る。


「ふぅ……」


 廃棄遺跡の居住区とはまた違った造りの部屋。


「寝ている間、見張りを頼んでいいか?」

「ピ!」


 見張りを頼める仲間の存在は本当にありがたい。

 神経がほとんど休まらなかった廃棄遺跡時代とは大違いだ。

 壁を背にし、俺は目を閉じた。



     ▽



「――――――――」


 目を覚ます。

 意識が覚醒。

 懐中時計を確認。


「三時間睡眠、ってとこか」

「ピギッ」


 シュバ


”異常なしであります!”


 そんな感じで、ピギ丸が突起で敬礼する。


「助かったよ。ええっと、おまえは寝なくても大丈夫なんだっけか?」

「ピピ!」

「けど、休みたくなったら遠慮なく言えよ? 俺たちは竜眼の杯の争奪戦に参加する必要はないわけだしな……無理をしてまで、攻略を急ぐ必要はない」

「ピ♪」


 ピギ丸が寝ている姿は見たことがない。

 睡眠という概念はないのだろうか?

 この前尋ねた時は、


『ピ?』


 イエスともノーともつかない反応だった。

 干し肉をピギ丸に与えながら、不思議に思う。

 スライムはまだまだ、謎が多い。


「ピュュゥ〜♪ ピキュピキュゥゥ〜♪ モキュ、モキュゥゥ〜♪」


 嬉しそうに干し肉を食べている。

 食欲は普通にあるんだよな……。


 軽く空腹を満たすと、俺たちは部屋を出た。



     ▽



 14層へおりる階段を再び目指す。

 先ほど一度おりているので、階段の場所は把握している。


「ん?」


 血相を変えた男が近づいてきた。

 背後には他の傭兵の姿も確認できる。

 俺は少し身構えた。

 敵意はない――ように見えるが。


「おい、君っ」


 この声……。

 あの休憩部屋にいた最速攻略組か?

 謙虚モードへ移行。


「どうしたのですか?」


「この遺跡は今、何かがおかしい」


「おかしい? 何かあったのですか?」


 剣虎団と思しき面々が、俺の正面で立ち止まる。

 皆、顔色が思わしくない。

 何かイレギュラーな事態でも起こったのだろうか?

 赤髪の女が、悔しげに吐き捨てる。


「くそ――もう少しで、新層だってのにっ」


 褐色肌の男が背後を一瞥。


「おそらくこのミルズ遺跡では今、過去になかったが起きている。さっき会った上から来た連中も、すでに異変は感じ取っていた」


 俺が寝ていたのは三時間ほど。


 その間にが起こった。


 口ぶりや表情からしてかたりとは思えない。

 本気で予想外の出来事にぶち当たった表情。

 俺は、不安そうに尋ねた。


「具体的には、どのような異変が起こったのでしょうか? すみません、はミルズ遺跡へ入ったのが今回初めてでして」


 褐色の男が神妙な顔つきで答えた。



「魔物がそこいらで、変死しているのさ」



「変死、ですか?」



「ああ。不思議なことに、死に至った原因が特定できないんだよ。死体には傷もない。特に変わった点もない。せいぜい、肌がやや土気色なくらいで――」



 ん?



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― 新着の感想 ―
[一言] 「ピュュゥ〜♪ ピキュピキュゥゥ〜♪ モキュ、モキュゥゥ〜♪」 皆まで言わなくても分かるな?(*´’Д’):;*:;カハッ
[一言] 此処まで結構魔物を殺しているんですが、素材は回収しなくても良いんでしょうか?
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