ゆえに、今の彼には――
「【パラライズ】、【パラライズ】、【パラライズ】、【パラライズ】――【パラライズ】、【パラ、ライズ】!」
計八匹の麻痺させた魔物。
思わぬ――僥倖。
麻痺で停止した八匹が、障害物になっている。
「【パラライズ】!」
おかげで、やつらが仲間を邪魔そうに押しのける間にスキルを放つ余裕が――
「くっ――ぁ……?」
スゥーッ、と。
血の気が引いていく感覚。
ヤバ、い。
意識、が……ッ。
俺自身のMPが残り少ないのだ。
眼球を動かす。
あ、あと何匹……?
「ピッこ! クっコろ!」
きた。
鳥、頭……っ!
力を振り絞って腕を上げる。
「【パラライズ】!」
「コ、け、ケ? け……」
停止。
「ぅ、あ――、……ぁ?」
ぐらっ
視界が一瞬、白く……。
視線を動かす。
「うっ?」
なんだよ、それ。
ゾロゾロ……
増援。
左右から五匹くらい、追加されやがった。
まだ、出てくる。
本格的にヤバいな、これ。
終わる。
尽きる。
「――――――――」
なんで、だろうな。
よく、わかんねぇけど。
なんか――
笑えてきた。
「ク、ククッ……わかったよ、なら――」
尽きりゃあいい。
倒れ込みそうな身体。
途切れそうな意識。
持ち直す。
意地で。
「やって、やろうじゃねぇかよ……ッ!」
尽きるまでだ!
もう終わりだとか考えんのは、
「尽きてからの、話だっ! ッ――――【パラライズ】!【パラライズ】!【パラライズ】!【パラライズ】!【パ、ラ――」
フッ、と。
何かが途切れる感覚。
MPが――底を打った、か?
揺らぐ身体の軸。
足が身体を、支えきれない。
意識が軸を、支えきれない。
「俺の精神力が尽きるのが……先、だったか――ふ、ふふ……いやいや、待てよ俺……あと一発くらい――撃てん、だろ? せっかく、だ……」
震える手を、上げる。
正真正銘、
「モブの意地、で――出し、尽くそうぜ……三森、灯――」
最後の、
「クぇ! グぇェ――」
……あ?
なんだ今の声?
まるで、断末魔みたいな――
【レベルが上がりました】
瞬間、湧き上がる。
力が。
意識が色を取り戻す。
混濁が、抜けていく。
【LV1→LV258】
は?
なんだ?
何が起こった?
ていうか、
「【パラライズ】!」
なぜだ?
ミノタウロスが跳びかかってきた。
空中で、麻痺を付与。
「【パラライズ】!【パラライズ】!【パラライズ】――――ッ!」
なんでレベルが、上がったんだ?
「あっ」
そう、かっ。
視線を巡らせる。
うつ伏せに倒れている鳥頭。
最初に毒を付与した鳥頭。
息絶えたのだ。
ついに。
毒のダメージで。
だから一気に【経験値】が入った。
莫大な、経験値が。
ローブ男が口にしていた成長率。
最底辺勇者の俺が高いとは思えない。
レベルアップまでの必要経験値も、莫大と思われる。
スキルLVの上がらなさからも、それは明らか。
「要するに――」
魔物を見る。
「この廃棄遺跡の魔物の経験値が、高いんだ」
それも、尋常ではなく。
おそらく普通に戦ったら絶対に勝てない。
初遭遇時を思い出す。
ミノタウロスも。
鳥頭も。
動きがゆっくりだった。
ナメられていたのだ。
完全に。
一割の力すら出す必要がない。
ゴミ。
弱者。
だから、油断していた。
殺意はあっても、全力ではなかった。
最弱だったから。
底辺だったから。
俺は【パラライズ】を放つ余裕を、与えられた。
逆にそこそこ強かったら……。
もし”危険な敵”として、認識されていたら。
固有スキルを使う前に殺されていただろう。
というか。
レベルアップするとMPも回復するのか?
MAX値の半分くらい?
あるいは、全快?
増えた補正値分が上乗せされただけか?
いずれにせよ――
魔物を、ロックオン。
レベルアップを続ければ――
「戦闘継続、できるってことだよなぁ!? ――【パラライズ】!」
繋がった。
首の皮、一枚。
「【パラライズ】!【パラライズ】!【パラライズ】!」
【スキルレベルが上がりました】
【LV1→LV2】
上がった。
おそらくは【パラライズ】のスキルレベルが。
スキル経験値はさっき入った経験値とは別か?
スキル経験値は使用回数に依存する?
俺自身のレベルはグッと上がったらしい。
が、新しいスキルを習得した気配がない。
新スキルの取得は、スキルレベルによるのかもしれない。
ただ、今はともかく――
「ここを乗り切るのが、最優先――」
魔素を、練り上げる。
気づけば自然とできるようになっている。
視界に魔物をとらえる。
ハッと気づく。
「おいおい」
なんだよ。
「できるように、なってるじゃねぇか……ッ」
複数ターゲット指定。
八匹の頭上に【▽】マークが出現。
視界に映る八匹、まとめて――
「【パラライズ】」
停止。
八匹同時。
麻痺成功。
俺の固有スキル。
効かないのはあの女神だけの可能性も出てきた。
廃棄遺跡に来てからの成功率いまだ――
百パーセント。
停止させた魔物でちょうどよく壁ができている。
むしろ麻痺が解除されるまでは、頼れる防壁となる。
「フン……」
つまりは、そういうことだろ?
「一匹であれだけ経験値が入るってことは――」
凶笑。
「ここにいる魔物ども全員ぶっ殺せば……もっとがっぽり、経験値が入るってことだよなぁ……ッ!? そうだろ!? なぁ!?」
魔物が麻痺中の仲間を押しのけている間に、
麻痺状態の魔物に一匹一匹、スキルを使用していく。
「【ポイズン】、【ポイズン】、【ポイズン】、【ポイズン】、【ポイズン】、【ポイズン】、【ポイズン】、【ポイズン】――」
ポコポコ……、
ポコォ……
ポワワ……、
ポワ、ポワ……
今の俺には、
「【ポイズン】」
【スキルレベルが上がりました】
【LV1→LV2】
目の前の魔物がもう、経験値にしか見えない。