せめてDQNネームはやめてくれ・1
夜間陰茎勃起現象、通称朝立ち。
人間がおよそ一生涯に渡って経験すると言われる、就寝時の何の刺激もない状態で起きる、生理的な勃起現象。寝てる間に勃起して、そして朝目覚める瞬間までその勃起が持続することを、一般的に朝立ちと呼ぶのだそうだ。
男性であるなら誰しも経験したことのあるメジャーな現象であり、その存在は古くから漫画やアニメ、テレビドラマなどでも度々言及されている。朝ー朝だよー朝ごはん食べて学校いくよー、などと妹なり幼馴染なりが主人公を起こすも、布団を剥ぎ取るや飛び込んでくる股間のテントに頬を赤らめ、きゃっお兄ちゃんのマグナムー、などとどう考えても主人公は悪くないのに鉄拳制裁の上に非難までされるという、よくあるテンプレシーンの小道具として扱われてもいる、実にありふれた現象のことであるが、実はこの現象が何故起こるのかは、意外だが科学者たちも未だに良く分かっていない。
かつては就寝時、膀胱に溜まった尿が前立腺を刺激して起こる現象と思われていたが、近年の研究によると、実はそれは何ら関係なく、単に自然に起こる生理現象のようなものであると結論付けられたらしいのだ。
男性であるなら、お布団の中でおしっこを我慢してたらムクムクしてきちゃった……と言うことを、誰もが一度は身を持って体験したことがあるであろう、故にこの説明で納得すること請け合いなのだが、何故それが否定されたのか? その理由は至ってシンプルであった。
何故なら、女性も陰核が朝立ちをしているからだ。前立腺の存在しない女性の膀胱が、クリトリスを刺激したりはしないのだから、前説も否定されるというわけである。個人的には刺激してくれると、それはそれで妄想が捗るのだが。
とまれ、そういうわけで、朝だちが何故起こるのか、理由は現在でも不明であり、そしてそのメカニズムも殆ど何も分かっていない。
かの高名なるウィキペディアさんでさえも、人間はレム睡眠、ノンレム睡眠とを交互に繰り返しながら眠っているそうだが、その切り替え時に、何らかの神経作用が起こってるんじゃね? と、実に大雑把な言葉で投げやりに答えている始末なのである。
さて、長々と説明してきたが、ここで重要なのは、就寝中に勃起が始まり、起床時まで持続されることが、即ち朝立ちと呼ばれる現象である、ということである。覚醒前に勃起が収まってしまった場合、それは朝立ちとは呼べないわけだ。では、就寝中に起こっている勃起現象、それ自体は何と呼べばいいのか。実は夜立ちと呼ばれるのだが、この夜立ちこそが、殆どの人間が一生に渡って頻繁に経験する生理現象であるらしいのだ。
つまり、我々は就寝時こそビンビンなのである。朝起きたら覚えていないが、眠っているお前はビンビンなのだ。さらにさらに、驚くなかれ、そのビンビン状態は最長で2時間近くも維持されるのだ。
2時間と一言で表されるが、その長さは半端ではない。
セックスにおける挿入から射精に至るまでの時間は平均5分と言われる。これは2時間に比べたらとても短い。もちろん、健康な男子であるなら、前戯の最中もビンビンに勃起しているだろうから、セックス中に男が勃起している時間は、トータルではもう少し長いであろう。だが、それでもせいぜい30分が関の山だ。
果たして、夜立ちによって、こんなに長時間もビンビンにされたおちんちんは、一体どうなってしまうのか。ある日、いつものような朝立ちの朝、寝起きの倦怠感とともに勃起が収まるのを待つが、一向に収まりがつかずもやもやした……というような経験がないだろうか。あれは二時間も勃起しちゃったが故のもやもやであり、疲れマラのようにだらしなく開いた血管に、とめどなく血液が流れ続けるせいで、一向に勃起が収まらない、一種の飽和状態を起こしているのだ。
そのとき、我々が取りうる手段はただ一つしかない。
「そう! 射精である! 二時間もの長きに渡る勃起により、もはやそれを鎮めるのは、いかな賢者であろうとも困難。我々はこの危機に際し、ただひたすらにお珍棒様をしこしこして、ご機嫌伺いするより他ないのだ! それは生理現象に伴う正当な行為であり、一般的男子高校生の朝の嗜みと言っても過言でない。従って、ついうっかり、いつものように朝の一発を致して死んでしまった俺を一体誰が責められよう? いいや、責められない!!」
「……言いたいことはそれだけかしら?」
「いや、だって、おまえだってビンビンの朝があるのだろう!? クロッチの縫い目が擦れて、クリポジを直すふりして、思わずズリズリ擦り上げちゃう日もあるのだろう!? って、あっ! あっ! あっ! うそうそうそ! 調子乗ってました、すみません! やめてやめてっっ! いやあああああああああああ!!!!!」
小鳥のさえずりが心地よい早朝。汚い泣き声と、ズドンっ! と地響きを立てて、閑静な集合住宅に盛大な音が響き渡った。
藤木は心臓マッサージと言うよりも掌底といった方がいい、激しい殴打によって生き返ったが、今まさに死にそうになっていた。