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マーセルと両親と

 他の登場人物の視点も、上手く書けない。

 夕暮れに沈む王都では、レオン様の婚約やら結婚やらの話で持ち切りだった。ゼタの村での悲劇を解決したばかりで早くも違う話題を提供するとは……あの時の少年が大きくなった物だ。

 私の仕事場である商館の一室で、窓の外を見ながら昔の思い出に浸っていた。15年も前に出会った少年は、大きな存在となって私達を楽しませてくれている。出会いは最低であったが……


 辺境の領地に取引を持ちかける為に、あの当時の私は自分からわざわざ出かけていた。商館を継いだばかりの時期で、焦っていたのだろう。出来る所を部下達に見せ付けて従わせようとしていたな。そんな時に出会った少年が……レオン様だ。

 使用人に案内されながら廊下を歩く私は、前から本を読みながら歩いてくる少年を見かけた為に挨拶をした。貴族はプライドが高いから丁寧に挨拶をしたが、


「始めまして、商人のマーセルです。」


「…………」


 慌てる使用人が、強引に私を応接間に案内するからその場は何事も無かった。……真剣に本を読んでいた少年時代のレオン様には失礼だが、


(なんだこの無礼なガキは! 嫌味を言う方が、まだ可愛げがある。)


 そう思っても仕方ないだろう? それでも、顔に出さずに領主との交渉を無事に済ませた私が、帰ろうと廊下に出た時だ。本を読んでいた少年が、先程の本を右腕に抱えて歩いて来た。正直、嫌だったが挨拶をすると、


「始めまして、レオン・アーキスです。」


「……え?」


 歳のわりに、確りとした挨拶を返してきたのだ。あの時は本当に驚いた! 誰かに叱られたのかとも考えたが、傍に控えていた使用人も特に変化が無かった。

 不思議に思って、丁度交渉していた応接間から出て来た領主に失礼とは思いつつ少年の事を聞いてみた。……少し後悔したよ。息子の自慢話を嬉しそうにされて、しかも相手はお客様。


「自慢の息子でね! 少し集中すると周りが見えなくなるんだ。悪気は無いから許してやってくれ。それから、君から見て家の息子は……」


「はぁ、ご立派だと思います。」


 失礼な返答だが、1時間も同じ様な内容では返答も単調になる! だが、この時の出会いが私に与えた影響は大きい。何度かその領地に出かける度に話をしたり、書物を渡していくうちに有る事を考えるようになった。


「王都へか? マーセルの心遣いはありがたいが……そこまでさせるわけには、」


「私から申し出たことですから、その辺はお気になさらずに、」


 何度目かの訪問時に切り出した話の内容は、少年の王都への留学だ。王都には多くの知識人、書物などが揃っているし、何処か適当な都市に留学させるくらいなら、金が掛かるが王都が良いだろう。


 最初は、何時か元が取れれば良い。この程度の考えだった。優秀な人材で、将来に期待が出来るなら一人分の留学費用など安い物だしな。




 そんな考えで買い手の付かなかった屋敷の一つを宛がって、見張りがてらに使用人を用意して勉学に励ませるように言いつけておいた。

 だが、8歳で送り出すと言うのは、どう考えても早過ぎる。そう考えて、しばらくは様子を見るように指示を出して放っておいた。


 それが間違いだった。その少年の創る物がとても魅力的で職人や商売の関係者を引き連れて、何度も勉強の邪魔をした。挙句には、


「正確な地図ですか? 遠見の魔法や現地の者が居れば事足りますよ。」


「それだけだと駄目なんです! 正確でなくては意味がありません。正確な地図と情報があれば、これからの計画を立て易くなりますし、長期と短期の計画を……」


 熱心に私に説明する少年を珍しく思いつつ、その発想の欠点を私は考えていた。地図を作るだけならそれでも良い。だが、魔物や盗賊に地方の領主がそれを許すだろうか? そしてその計画を国中で行うとなると予算は? 人員は?

 頭の中で真剣に考える私はその時に気付いた。……何故その計画を実行しようとしている? この少年を言い包めればそれで済むのに……


「こんな地図で迷子になっても、誰も文句なんか言えませんよ! この前なんか、家の妹分の二人が迷子になって泣いていたんですよ。地図は大事です! ……聞いていますかマーセルさん?」


 莫大な金が掛かるな。それと人材を何処から出す? 王妃様が少年に興味を持っていたようだから、そこから切り込んで様子を見るか?


「ーー聞いてます? こんな、俺でも書けるような地図で勇者が迷子になったら俺の計画がですね……」


 少年の計画? この先が有ると言うのか! ……賭けてみるか、


「わかりました! レオン坊ちゃんの壮大な計画に、このマーセルが協力させて頂きます。そうなると私一人ではどうにもなりませんから……他の商館にも声を掛けて、あ! 先ずは王妃……王様に許可を取りましょう。」


「今、王妃様って言おうとしたよね? そんなに王様って権力無いの? それよりも何か勘違いしてないよね? して無いと言ってよ!」




 昔を思い出しながら時の流れを感じた私は、扉をノックする部下に入室を許す。そろそろ報告が来る頃だと思っていた。


「マーセル様、レオン様のご予定が正式に決まりましたので、それに合わせて王都でも受け入れの準備を進める、と手紙が届きました。」


 報告をする部下は、私がレオン様を支援して路頭に迷うかもしれない時でも付いて来てくれた信用できる部下だ。あの時は本当に苦労したな……


「……どうされました?」


「いや、レオン様も大変だと思ってな。アステア、オセーンからのお客を相手にする私達も同じだがな。」


 少し考えてから答えた私を見る部下は、それに頷いて冗談を交えて答えてくれた。こんな些細なやり取りは、昔の私では想像も出来ないだろう。


「そうですな。いきなりお二人との婚約の話が出るのも珍しいですが、レオン様のお相手はかなりのご身分です。失敗は出来ませんな。……羨ましいを通り越して、妬む気持ちも起こりませんよ。」


「私達には縁の無い話さ。まあ、近くで見られるだけ他よりも縁が有るのかもしれんがな。」


 これから王都に受け入れる両国の人員の事を考えながら、少年の成長を嬉しく思っていた。将来への投資は、思っていた物と形は違うが手に入れる事が出来た。何時かは大臣や将軍になった少年とのコネを、と思っていたが……人生とは面白い物だな。





 外はすっかり暗くなり、私は部屋の蝋燭の灯り頼りにメアリスに頼まれた物を棚から取り出していた。面白い物を誕生日にねだるものだから、少し驚いたのだけれど……確かこの辺に、


「手紙なんかを欲しがるとはな。最近の物ならすぐに出せるのだが……」


 同じ様に寝室で探し回る夫は、私に背中を向けながら話しかけてくる。大事に仕舞っている物の、急に言われると取り出すのに困って、二人して慌てている状況が少し可笑しかった。


「お! これは……随分と懐かしい物を見つけたぞ。レオンが王都に出て直ぐに出して来た物だな。」


 綺麗に保存された手紙を見る夫は、何処か嬉しそうでいて悲しそうな顔もしていた。蝋燭の光ではハッキリと見えないからか、余計に辛そうに見えてくる。


「初めて書いた手紙で、泣かされるとは思って無かったよ。マーセルからの手紙と一緒に保管していたんだな……」


 昔からレオンを評価してくれた商人のマーセルは、定期的に私達にレオンの事を知らせてくれていた。それは、とてもありがたいと同時に、私達を酷く苦しめる結果を生み出したのだけれど。


「……最初と言うと……『王都には人が多くて住みにくいから帰りたい』でしたっけ? マーセルからは驚くほど落ち着いて生活していた、と書いていたのよね。」


「ああ、あの歳で親に気を使う事など無いのにな。帰りたい、と冗談を書いているんだと昔は思っていたな。」


 出来過ぎる息子を持つと言う辛さを実感したのは、それからしばらくしてからだったかしらね。届く度にマーセルからの手紙の内容には驚かされたのに、本人の手紙と来たら、


『なんか、ハースレイがウザイです! 勘違いとか迷惑しているのに、あいつは空気を読まないんですよ。それから何時ごろ実家には帰れるのでしょうか? もう、ハースレイから逃げたいです。』


 笑いながら見ていたのは最初だけで、手紙が増えるたびに驚くようになって行ったわ。勇者の誕生による騒動を静めたり、地図を作ると言って国を動かした事を聞いた時には、


「結局、私達には過ぎた息子だったという事なんだろうな。」


 手紙を懐かしそうに読む夫が、そう言うと私まで昔を思い出す。二人で読み返した最初の手紙には、私達の事を思って書かれていた。だが、それを勘違いしていた。

 後から、息子のレオンを縛り付けていたのだと気付かされたのだ。


「二人して泣いてしまいましたね。期待していた跡取りを、手放す事を決めた時は辛かったのでしょう?」


「……確かにな。レオンなら、もっと領地を豊かにしてくれると確信していたから余計に辛かったよ。でも今は、あの時の決断は正しかったと自信を持っている。」


 メアリスが欲しがった、レオンの手紙を二人でまとめながら息子の事を思い出す。大きな翼を持ちながら、小さな鳥篭に押し込められていた大事な息子は、今では誰よりも高く大空を目指している。


「久し振りに手紙を書きましょうか? 数日前に来られたリィーネ様の事も、今度知らせておきたいですしね。」


「本当にレオンは、何処まで大きくなるのだろうな。アステアの王族とオセーンの皇族……遠くへ行ってしまったな。」


 それでも、私達の自慢の息子です。





「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」


 嫌な夢を見た! 息が荒くなり、変な汗が大量に流れる……窓の外はまだ暗いから、夜なのだろう。ベッドから上半身だけを起こした俺は、両手で顔を覆いながら呼吸を整えた。

 歴代勇者の武具の残骸を見た後で、あんな悪夢を見させられるとは……本当に今日は厄日だ!


「……う、うん……レオン様、どうしたんですか?」


「ああ、すまない。実は悪夢を見てしまってね。駄馬の『喋る子供達』に囲まれて追い詰められる夢を見たんだよ。最悪だった……」


 夢の中で、出かけようと駄馬を探していた俺は、近くで牝馬に話しかけていた白い馬を見つけて声を掛けたんだ。


「ポチ、出かけるから用意しろ。」


『は?』


 なんだか様子のおかしい駄馬は、何故だか何時もよりも小さく見えた。声も少し幼い様な感じさえした。


「だから、出かけるから用意をしろって言ってんだよ。」


『……お前さ、親父と俺を間違えてるよ。俺は、息子の『ジョン』だぞ。』


「……えぇぇぇ!!!」


 もう、なんと言っていいかわからなかった! お前呼ばわりを訂正させるべきか、ジョンが喋れた事を受け入れるべきか、駄馬の遺伝子は確実に広がっている事に恐怖すべきか……


『親父なら『時代はペガサスだ!』とか言って、出かけたよ。空を走って、』


「ーー!!あいつ空とか走れるの!? 聞いてないんだけど!」


 面倒くさそうに俺の相手をするジョンは、牝馬に愛を囁き始めた。……間違いなく駄馬の子供だ。


「じゃあ、お前で良いよ。出かけるから俺を乗せてくれ。」


『は? なんで? 自分で歩いたら良いだろう、ブギャ!』


 本当にムカつく所まで似てしまってて……腹が立ったから駄馬と同じ様に殴ってしまったんだ。顔の辺りを殴って連れて行こうとしたら、


『に、兄ちゃんが殴られた! お前酷いぞ!』


「……え、ちょっ!」


『幾らなんでもそれは酷いよ。』


『勇者として、それってどうなの?』


『ジョン兄さん!!!』


 その辺に居た茶色いのや、灰色のや、黒くて角の生えた馬達が俺を囲む! とっても恐ろしくてそこで目が覚めたのだ。


「まだ遅いですから、早く寝ましょう。」


 目を擦りながら布団をかぶり直すエイミは、そう言ってまた眠り始めた。悪い事をしたな……


「そうだな明日も仕事があるから……? --!!な、何で普通に横で寝てるの! ちょっエイミ、起きて説明しなさい!」


 何してんだよエイミは! 本当に驚きっぱなしの一日だよ!!! そんな時に、俺の部屋の扉は普段はしない様な音を立てて開かれた。


「「私達も説明して欲しいな」」


 暗い部屋に目が慣れていたので、セイレーンとラミアだとわかったが、何故か二人の瞳は光って見えた。俺は、赤と青に鈍く光っている瞳を向けられた。




「最悪だ。」

 時間が掛かった割りにグダグダ……


 次回は、お姫様とメアリスかな?

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