あれ?
句読点……
俺は、今とんでもない問題に直面している! 人生最大の選択と言って良い『結婚』だ! ハッキリ言えば結婚はしたい。だが、相手が問題なんだ。『アステアのリィーネ姫様』って、あの時に助けた姫様なんだ。噂が本当になるなんて……これはなんとしても『破談』させないといけない!
別に嫌いではない。容姿も見た限りは、ストライクゾーンのど真ん中だ。……俺も一応は貴族だから、相手を選べないと言うのは理解しているが、相手が『王族』となると話が違う! 俺の目標に対して、邪魔でしかないんだ。それに考えてくれ、そんな他国の王族と結婚したら毎日、外交や内政に頭を悩ませないといけないんだ!
自慢じゃないが、俺の能力では国を管理するなど『不可能』だ。……才能が無い。生まれ故郷の領地なら義務として頑張ったと思うが、今は領地も継げない貴族様(笑)の俺にどうしろと? 国の管理が仕事でなくても、それなりの仕事をさせられるのは目に見えている!
もし、勇者の名前を利用するつもりなら、俺を中心に何事も進んで……最後は使い潰されるイメージしか思い浮かばない! だからリィーネとは結婚しない。いや、出来ない!
この結婚に、一番反対しそうなのは……王妃様か王子様かな? 確か、結婚する候補にはなっていた筈だ。だが、ここまで話が進んでいるとなると王妃様は逆に危険かもしれない。あれ? 立場的には向こうが上だよな。……俺は、どこに住むんだろう?
いかん! そんな事を考えているから、何時も失敗するんじゃないか! 落ち着こう、考えるんだ! 何か手が有る筈だ。……何か、
『何、悩んでんだよ? たかが一人だろう。俺なんか、もう軽く三桁の牝馬と……馬は、結婚って言わないな?』
この駄馬は、最近アルゴが王都に帰還したから、それと一緒に『ヒース』も連れて行かれてから急に元気になりやがって! 俺の仕事部屋の窓から、顔を出して悩んでいる俺を見て楽しんでいやがる。
『何時までも、一人だと駄目だろう勇者なんだから。』
まともな事を言いながら笑ってんじゃねーよ! 本当にどうしよう。
現実逃避をしながら仕事をしている俺は、ギルドから来た現在の問題をまとめた書類を見ていた。この仕事は俺のする事じゃない! でも、悲しいかな……これを怠り、組織が上手く働かないと勇者のサポートが……勇者、糞ガキ共をなんとか目立たせたかったのに!
あいつ等、本当にムカつくわ! セイレーンとラミアをパーティーメンバーに、と紹介したら嫌な顔しやがって! 何が不満だ! 殆ど完璧じゃないか! 戦闘技術、魔法技術、その他諸々の他にも、容姿も性格も問題無い完璧なパーティーメンバーだろうが!!!
確かに、少しズレている所もあるよ。この前なんか『爬虫類』抱えてきて、
「飼っていいですか?」
お願いする時に、最大限に上目遣いを利用したセイレーンは可愛かった。でも、俺も大人として、
「駄目だ。家にはもう、駄馬が増やした馬が沢山居るんだから、捨ててきなさい。」
隣で、同じ様に爬虫類を抱き抱えてそれに顔を埋めるラミアは、
「ちゃんと面倒見るから……」
……正直舐めてたよ。お願いしてくる二人に、根負けして許したら、
「レオン様! そのでかいトカゲって……ドラゴンなんじゃ……」
エンテが、レテーネさんとイチャイチャするついでに、持って来たギルドの報告書を渡しながらそんな事を言っていた。
「……幾ら何でもそれはないだろう。少し大きいトカゲだよ。」
「ですよね。あるわけ無いですよね!」
それから半年後には、すくすくと育ったトカゲが……レテーネさんに聞いてみたら、
「まだまだ大きくなりますよ。まだ産まれて一年も経っていないんですから。」
事前に教えて欲しかった。あれだよ、二人が抱えてきた時には既に1m超えてたんだよ。大人しかったし、もう成体だとばかり……食費が、偉い事になっている。
そんな二人だが、勇者のガキ共には理解出来ないらしくパーティメンバーの候補から完全に外れる事に、ついでに言えばエイミもこの件には断固拒否の姿勢を崩さない。二人に対して、何も問題ない勇者は一人居たけど、俺から言わせればそいつの方が大問題だ!……エイミが、二人と仲さえ良ければ最強パーティなのに……
二人が飼い出したトカゲ達を、羨ましそうに見ていたからその時に、
「なんだ、エイミも触らせて欲しいのか? なら二人に、」
「絶対に嫌!」
日常生活では喧嘩もしない3人だが、協力や共同で作業をする様な事は一切無い。もう11歳になるエイミは癖毛な金髪をポニーテイルにして、何時も好んで黒い服を着ている。その上、得意な武器が『大鎌』と『暗器』だから似合い過ぎて笑えない。
優秀な戦士となった3人が協力しないのも問題だが、それ以上に問題だった他の『平民勇者達』の再教育は失敗した。……無理とかそんな事ではなくて、『お金の使い方』と『挨拶の仕方』を教えていたら、時間切れに近い様な形で終了したんだ。自分達の家に帰って行った。一人を残してね。そいつの所為で、準備が出来次第また旅に出ないといけないんだが……
貴族組みは、お金の使い方だけでいいと思っていたら、村や町での軽い挨拶に抵抗が有るのか、これも教える事になり、こちらも時間切れ……って言うか、それ以上に教える事など無かった。向き不向きを教えてしまえば後は、自分の家で厳しく教える、と護衛の連中が言っていたから放置だ。
こんな連中が、今すぐ目立つ行動をするなど有り得ない! 良くて将来が楽しみ、と言った程度だろう。こんな状況で俺の『結婚』の話が広まりだして、世間様ではこの話題で持ちきりとか……
絶対に嫌だ! これだけは譲る事が出来にない。しかし、どうすれば……
『ああ、今度はペガサスと子作りしたい。』
駄馬の奴が、悩む俺に飽きたのか空を見上げてそんな事を言っていた。お前は良いよな! 悩む事が少なくてさ! しかもこいつは……
俺なんか『リュウ』ってガキ? がイラついてしょうがない。あいつは最悪だった。……今、思い出しても腹が立つ!
議会制とか言って、周りを困らせていたからどんな奴かと思えば……
「俺、最強ぉぉぉぉぉ!!!!!」
ハッキリ言おう、馬鹿だった。貴族嫌いで、タークス・アバンデ君と喧嘩しやがったんだけど、その時の発言を聞いて、本気で殴り飛ばしてしまった。周りで笑って見ていた平民勇者一行が、ドン引きしていたが構わずに気絶していたリュウを、そのまま引きずった。誰も居ない場所に連れ込んで、そこから拷問にかけた。
「きりきり喋れ! お前が俺を殺した事は、忘れてないんだからな!」
「ちょ、マジ痛い! てか、知らないよ! 俺は、友達と一緒に横断歩道でひき殺されて、イダイ!!!」
正座をさせて、その膝の上に重石を更に乗せると、
「本当だろうな? それでその友人は、今は何処に居る。」
「し、知らないって! 生まれたのが平民で、近くには居なかったし、調べられなかったんだよ! 折角、メイドさんとイチャイチャ……すいません! 喋るから! だからこれ以上は止めて下さい!!!」
涙を流しながら、頼んでくる美少年……こいつ、なんだか三枚目キャラだな。
「メイド喫茶の帰りに、車に撥ねられて……なんか白い部屋で『転生して世界を救って』って言われて、テンション上がってそのまま……調子に乗ってすいませんでした。」
どう言う事だ? 転生者って、俺達以外にも居るのか……待てよ、もしかして勇者全員が!
「その時に貰った能力が、『美形化』で30ポイント使って、『ステータス閲覧』で50ポイントで、最後の20ポイントで『肉体強化』を選びました。」
……?
「何の話をしている?」
「え! 能力ですよ! あの時の白い部屋で、言われたでしょう。総合的に対等な力を与えるって!」
「ポイントの話なんか聞いてないぞ。」
その話を詳しく聞くと……
「つまりアレか? ポイント制で能力を選ばせていたのか。」
「俺の友達は、ちょとだけオーバーしてるんだけど、大体そんな所です。……痛いんで重りをどけて頂けないでしょうか?」
重りを一つだけ、どけてやりながら俺は考えた。こいつの能力で変なのは無い。曖昧にわかる俺の能力でも確認しているし、嘘を言っている風には見えない。……なんとなくだがそう思う。正座から開放して、足の痺れと格闘しているリュウを見ながら、
「試しに、俺のステータスを見てみろ。」
「良いですよ。では、いきますよ…………ハッ!」
正直に言おう、こいつは馬鹿だ。上半身を前に突き出して、目を見開き、両手で双眼鏡でも握っている風に輪を作り、そこから俺を覗いている。因みに爪先立ちもしていて気持ち悪い。
「来たーー!!見えて来たーーー!!!」
こんな事を俺の家族にしているのを見つけたら、問答無用で殴り飛ばしたい気分になるだろうな。
「『集中力20ポイント』、『才能発見20ポイント』、『魅力(笑)60ポイント』そのほ、ブッベボ!!!」
最後まで聞かないまま殴り飛ばしてしまった。だが、後悔も反省もしない! なんだ(笑)って、馬鹿にしているのか!
「貴様の冗談に、付き合っている暇は無いんだけどな? それから、あのポーズは止めろ! 腹立たしくてイライラする。」
鼻血を手で押さえながら、もう片方の手で待って、と言いたいのか手の平を突き出しているリュウにナイフを突きつける。
「本当にそう見えたんですよ! 信じてくださいよ。それに、この能力は凄くエネルギー使うんですよ。あのポーズをしないと見えないんで……俺だって恥かしいんですよ!」
正直、使えない。こんなポーズをとらないと使えない能力とは、思っていなかった。これなら曖昧にでも直ぐにわかる自分の能力がましだ! ……あんなポーズで見られるのも遠慮したい。……待てよ。
「じゃあ、最後に俺の馬のステータスを見てくれ、それ以降はお前はその能力を余り使うな!」
「えぇぇ……すいません! 言う通りにするからナイフなんか向けないで!」
そこからは、衝撃的過ぎて……真実なんて知らない方がいい事も有るんだな。まさかポチが、
「つ、ツックン! なんでツックンが、馬になってんの!」
『……誰だ手前は? 俺にオスの知り合いなんか、利用できるそこの勇者だけで十分だ!』
駆け寄るリュウを、前足で押さえつけながらとんでもない本音をぶちまけた駄馬は、置いておくとして……ツックンって一体誰よ?
「俺と一緒に転生した友達なんです! 色々と能力を求めて、ポイントがオーバーしてたんですけど、最後まで能力を欲しがっていたから、何か有るとは思っていましたけど……まさか『馬』に転生させられるなんて……。」
ハーレムに必要そうな能力を求めて、馬に転生とか……まあ、本人は幸せかもな。それにしても、そんな事までわかるのか……
「なあ、他の勇者も『転生者』なのか?」
俺の問い掛けに、リュウは頭に付いた蹄の跡を撫でながら
「違います。……転生者なら感覚的にわかりますから……でも、レオンまで、」
「呼び捨ては止めろ!」
「す、すいません。……レオンさん? が転生者だとはここに来てから初めて知りましたよ。」
全勇者が、転生者でなくてホッとしていたら、こいつの面倒な噂を思い出した。
「俺は、結構目立っていると思っていたけど……そうでもないのかな? お前は有名だけどな! 議会制とか掲げやがって面倒な事をしてるってさ!」
「……は? 何ですかそれは?」
「何? って、お前が『議会制』を……違うのか?」
リュウは、顎に手を当てて考え出すとそれらしい事を思い出したのか、
「一度だけ、村でそんな事を話しましたけど……その時は、そう言う時代が来ても良いかもねって、話で終わりましたよ。」
なんだ、なんでそれなら……なんか、嫌な予感がする。
この話が切欠で、まさかあんな事になるなんて……
気にされていた方々、申し訳ありませんでした! 彼は、ラスボスではありません。