スキル・遠見/望遠鏡
スキル!
本当に、この世界スキルがあるのか。
そういったモノがあるとは、習ったことはあるが、実感したことはなかった。
「まぁ、ユイ様は職業系スキルが絶対生えてますし。でも職業系でないスキル発現、おめでとうございます!」
ユイ様とお揃いスキル♪ と、はしゃぐミマチさんに、アージット様が呆れた表情で「おい、見た物の報告」と促した。
自販機やガチャはこの世界にないため、単語は出てこなかったがどうも銭湯の中で石鹸やらタオル、アメニティが個数制限で買える箱があり、それと似ている物が出来ているとミマチさんは言った。
周りの空気がそわそわした物に変わる。
「あれって、『中』でしか使えないやつだったよな? 広場にってことじゃ、持ち出せる?」
「お土産に出来る?」
スキンヘッドの人と魔法使いっぽいお姉さんが、感極まった様子で手を取り合った。
もしかして、『外』より品質が良いのだろうか?
前世の商品の品揃えを思い出して、納得する。
うん。ガチャの景品のリストに入れてあげてと、内心で願っておいた。
「おい、ユイ師匠のアレ、遠見じゃないだろう」
「ああ、両手を使っていたしな」
「ちげぇ、あのメイドさんがスキルを使った時、魔力が周囲から集まった感覚があった」
「魔力探知のスキルか?」
シュネルさんとアージット様のひそひそ話に、私は振り返った。
「いやいや、これは風の精霊の恩恵」
「それたぶん、お前の守護精霊にしか出来ないぞ」
アージット様が、風の精霊王を見て言う。
「あのな、魔力周囲から集まらなかった。と、いうことは、遠見の上位スキルだろ? そっちを気にしろ。遠見の上位スキルなんて、聞いたことないだろう」
「え、両手を使っていたから、遠見の下位かと」
「自分の魔力を使わないで、魔法のようなことが出来るのがスキルだが、周囲の魔力を使わないで神のような力をふるうのが特上スキルだ。ユイ師匠は、遠見の特上スキル持ちかもしれない」
「遠見の特上スキルなんて、あるのか? 『どこ』を見る?」
あれ? もしかしたら、普通の魔眼は精霊しか見えない?
私は手元で魔力の糸を紡ぐ。
二人の、周囲の反応はない。
シュネルさんが風の精霊王に教えてもらえるのは、周囲の誰の物でもない魔力の動きなのだろう。
蜘蛛の巣のように、紡いで広げて、精霊達がきゃっきゃっと絡まって捕まったふりをして遊ぶ。
アージット様はそんな精霊達を見て、何をしているのだろうと不思議そうに見た。
魔力視、スキルだ。
私、魔力視ってスキルがある。
あとたぶん、魔力操作も。
感知は、あれ? えっと人から出ているのは見て分かったけど、漏れ出さない人がどれくらいの魔力持ちだとか、属性の種類とかは、私、感知もしているよ!
当たり前に、赤ちゃんの時から見て使っていたから、スキルという意識がなかった。
私は両手で筒を作って、それを重ねた。
遠見も出来たけど、これはたぶん…
空を見上げる。
うっすらと昼間でも見える月があった。
この世界には、太陽の反射でなくみずから光る月があるのだ。
「ユイ?」
「師匠?」
手の筒の中に、きゅむっと白うさ耳、月水精霊が飛び込んだらしいことは、後でアージット様に聞いた。
私はそれには気付かないで、目に当てて、スキル名を呟いていた。
「望遠鏡」
ーーーと。