精霊衣装
アージット様が連れて来た男性は、私を見て固まった。
そして、ゆっくり大きく目を見開いて、ゴクリと喉を鳴らした。
「・・・・・・・・え? 精霊? 実体化した精霊?」
なんだか触って確かめたいのか、両手が差し伸べられて空中で私の体型をなぞる。
「黒? 白? レース、原色はないな、淡い色、絹の靴下、鳥籠」
呟きながら、息が荒くなっているし、目も興奮で潤んで・・・・・・・・・・・・・・・・はっきり言って、変質者だった。ちょっとキツめの美形なだけに、ギャップのヤバさが際立ってしまった。
ミマチさんがいつの間にか私の前に立って、ナイフを構えてしまうくらいだった。
「ユイ様、おさがりください」
「シュネル、まさかお前、幼女趣味者・・・・・・・・」
「ちっげぇーわっ!」
アージット様の問い掛けに、反射的に否定して彼は背筋を正した。
「失礼しました。アージェット、いや、アージットの友人で、冒険者のシュネルです」
片足を引いて、片手を胸に当て、少し中腰になって頭を下げた姿はどこか貴族的に見える。
しかし表情が、やっべぇやらかした、ごまかせるわけねぇだろと、言うかのように見えて思わずクスクスと笑ってしまう。
「ユイ様?」
「ミマチさん、大丈夫」
シュネルさんの反応には、覚えがあった。成長期を乗り越えた直後に鏡を見た、私自身である。
「冒険者だけ、じゃ、ない。針子、職人?」
客観的に見て、私の容姿は変質者ホイホイだが、職人としても創作意欲が止まらないものだ。
恍惚としていたシュネルさんの目に、色欲はなかった。
手の動きは体のサイズを測っていたものだし、似合う色や衣装、小道具? で、頭がいっぱいになったのだろう。
「え」
シュネルさんは私の問い掛けに目を丸くして、泣きそうな嬉しそうな表情になった。
「なんなの、このこ、マジ精霊の化身なの? 天の使いなの? 僕を、針子って、どうして」
「私、も、針子だから」
分かりますと微笑んで、一礼を返す。
「アージット様の針子の乙女、ユイです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・アージェットの衣装制作者様?」
「ああ、俺の婚約者で数ヶ月後には、結婚予定だ」
「幼女趣味はてめぇじゃねーかっ!」
「・・・・・・・・保護代わりの婚姻だと、言っただろうが・・・・・・・・」
アージット様とシュネルさんのやり取りが、遠慮がなくて、なんとなく微笑ましいなと思う。
それから、シュネルさんについている精霊の衣装に首を傾げた。
「あ、ユイ、こいつの精霊を見てもらえるか? ただの上級精霊にしては、力が・・・・・・・・」
「精霊さんの衣装、デザイン、シュネルさん?」
「え? うん。僕だけど?」
皆が息を呑んで、私達を見た。
「待て、シュネル! お前、ユイと同じように精霊治療が出来るのか?」
「は? 精霊治療? なんのことだよ?」
「精霊の衣装を作ったんだろう?」
「いや、デザインしたの気に入れば、勝手に変えるだろう?」
そう言ってから、何かに気づいたのか、私をキラキラとした目でシュネルさんは見た。
「もしかして、ユイさん、精霊の衣装制作出来るの? 直接?」
「待て待て! 精霊は簡単に衣装を変えたりしない!」
「はぁ?」
「衣装は精霊の力で、本体の一部だぞ! そう簡単に変え・・・・・・・・マジだ! 先入観で気付かなかった! 前見た時と、ドレスのデザインが違う!」
「え? 変えないのか? こいつ、僕のドレスのデザインを気に入って、守護してくれてるんだけど・・・・・・・・」
うん。普通は変えない。普通は。
でも、その例外を、少し前にやった。力を衣装に、ちょっと露出大目だけど、気に入ったデザインに変化させたのを見た。露出度は下がったのに、色っぽさは割り増しになって、センリさんは頭を抱えた。
三体目、の、精霊である。
紫王子
海の精霊王、カイリ
「男性体の精霊、風属性、の精霊王」