専属メイドと女騎士
アージットがユイを横抱きして、その部屋へ入ると
従者控え室にて、ソファーで行儀悪くグデェと寝込んでいたメイドは、しゅぴっと起き上がって姿勢を正した。
「アージット様、お帰りなさいませ・・」
見かけユイと同い年に見える、その実二十代後半の北の方出身で、子人族の血が混じった珍しい人間である。
長い黒髪はツインテールにして、更に幼さを装い、ありとあらゆる人物の油断を誘う。
そんな一見メイドになったばかりのような彼女は、次の瞬間アージットの目の前に立った。
「フゥオオオッ、美・少女ぉおっ」
ユイを凝視しながら、両手をワキワキさせる姿は完璧に変態だ。
「え、これ本当に、ヌイール家のクソ野郎の血筋ですか?先祖帰り?」
ゴクリと喉を鳴らし、唇をタコのように突き出す顔は、容姿の可愛さを台無しにする。
「何という眠り姫、これは目覚めの口付けをばっ」
「やめんか、変態っ」
「ブベシッ」
すかさず、もう一人控えていた全身鎧の女騎士が、変態メイドの頭を剣で横凪に払った。
飛んでいった小柄な体は、壁にぶつかって沈黙する。
普通なら死んでいそうな攻撃だったが、女騎士もアージットも気にしない。
「悪いストール、ユイがここまでアレのストライクゾーンど真ん中な容姿とは・・・・・・・・苦労をかける」
「いえ、慣れてますから」
若くしてメイド長並みの技術を持ち、暗殺技術、野戦技術、諜報能力、その他もろもろ、更に魔術すら身に付けた一級の王族付きメイド。
彼女のただ一つの欠点が、病的なまでの美少女好き
自らの見かけロリ美少女な姿にも、うっとりしているような、変態ロリコンだった。
「ひどい、ストールちゃん、ストールちゃんだって、『フゥオオオッ、美・少女ぉおっ!憧れの、美姫を守る騎士にっ!』って、内心興奮してるくせにぃ」
よろりとぶつかった壁から身を離し、メイドは女騎士を非難する。
「貴様と一緒にするな、変態」
「ストールっ」
一連の流れに唖然としていたロダンは、女騎士ストールの声に表情を明るくして歩みよった。
すると凛々しい立ち姿だった全身鎧が、もぢもぢと恥じらった。
「ロ、ロダン、久しいな」
甲冑に包まれた指先に、ロダンは優しく唇を落とす。
「あぁ、7日ぶりだな」
煌めく笑顔は、どこまでも甘い。
「いや、久しぶりじゃないでしょ、7日なら」
片方女型とは言え、全身鎧相手にした甘い空気に、メイドは突っ込みを入れた。
「ん?ミマチでも、知らなかったのか?ロダンとストールは恋人同士だぞ?」
あっさりと壁ダメージ(剣で殴られたダメージもすでにない)から復活した変態メイドに、アージットがサラリと言う。
「うひょぅお、マジっすか?あの乙女心まで甲冑と言われてる、ストールちゃんがっ、淑女の憧れナンバーワン・美貌の貴公子カロスティーラ・ロダン様の、恋人ぉおっ!」
「うるさいぞ、変態っ」
「話を戻すぞ。この子がユイ、針子の乙女と称号を与えた」
ユイを横抱きにしたまま、アージットは椅子に腰を下ろし紹介した。
称号は婚姻申し込みの際、相手に呼びかけるあだ名のようなものだ。
相手に相応しい称号を思いつかない存在は、求婚する資格もないと言われている。
「アージット様、婚約なされたのですか・・」
「うぉおおっ、幼さ妻っ!男の夢っすねっ!流石、アージット様くそぉ、美中年めぇ、って、本当に、アージット様美貌アップしちょるぅっ!」
「守り袋で予想はしていましたが、それ以上の腕前ですね」
アージットの身に付けた服に、二人は息を呑んだ。
「魔力もアップしちょるぅっ!」
「間違いなく始祖級とは。念のための私とミマチでしたが・・ミマチ、いいのですか?アージット様、ミマチ・・・・」
「ひどいよストールちゃんっ!」
「あぁ、まぁ・・・・」
変態言動と暴言はともかく、メイド・・・・ミマチは一人で十人の仕事を賄える上、警護も出来る。
ちょっとユイの身の安全が、ある意味危険だが、仕方ないだろう。
「・・・・・・・・うむ、契約に従い我が婚約者に、力と剣を」
メイドと女騎士は、ビシッと姿勢を正して、右手を左胸の上にかざした。
「力と」
「剣を」