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賢者の孫  作者: 吉岡剛
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世界の謎を解明しました

活動報告にお知らせがあります。

 無線の通信機の件は、広大な旧帝国領に分散して攻め入る際に絶対に必要だとオーグを説得し、何とか開発する許可は得た。


 但し、他言無用と念押しされたけど。


 合宿に始まり、二度の魔人襲撃と討伐、各国の訪問に皆のゲートの修得と、非常に濃い夏季休暇が終わった。


 色々あったけど、俺的に一番大きな出来事といえば……。


「それではお爺様、お婆様、行ってまいります」

「はいよ。行っといで」

「ほっほ、気を付けての」

「はい!」


 シシリーと恋人になった事かな。


 あ、この騒動が終われば嫁になんのか。


 夏季休暇の初めに恋人になってから、休暇中にここまで話が進んだ事に若干の戸惑いはあるが、別に嫌な訳じゃない。


 むしろ嬉しくってしょうがない。


「シン君、行きましょう」

「ああ。じいちゃん、ばあちゃん、行ってきます」


 ウチを出た俺達は腕を組んで歩き出した。


 ちなみにマリアは、ゲートを覚えた事で直接教室に行ってる。


 じゃあ、なんで俺達は歩いて学院に向かっているのか?


「あ! ホラ、魔王様と聖女様よ!」

「相変わらずお似合いよねえ」

「はあ……俺も聖女様みたいな彼女欲しい……」

「そりゃ無理だろ。聖女様みたいな女なんていねえじゃん」

「なんですって!?」


 ……なんか騒動が起きてるけど……所謂お披露目というか、アルティメット・マジシャンズの魔王と聖女は恋人であり、婚約者であり、シシリーに手を出す事は許さない、という意思表示の為である。


 俺は大丈夫だけど、シシリーに良からぬ感情を持つ奴が多いとの事で、こんな事をしている。


 正直、見せ物みたいで乗り気はしないんだけど、オルト捜査官から俺とシシリーの仲を世間に広く知らしめれば、シシリーに言い寄って来たり、不埒な考えの男の数を減らせるからと進言された。


 まあ、それだけじゃ無いと思うけどね。


 時々、こちらに邪な感情を持ってる奴等が警備隊と思われる気配に連行されたりしてるし。


 聖女は魔王のモノ、という意思表示以外に、囮の役割もあるんだろう。


 ……既にその二つ名が浸透しているのが、堪らなく悲しいが……。


 まあ、外を出歩けないのは息が詰まるし、彼女と一緒に登校っていう青春の一幕を経験出来るし、歩いて登校する事自体は別に良いんだけどね。


 それより、街の人の反応より、意外だった事がある。


「何か……魔法学院生からの視線を感じますね……」

「そうだな……休み前まで皆と同じ魔法学院生だったのに、休み中に叙勲までされちゃったからな……どう接していいか分かんないじゃないか?」


 学院に近付くにつれて当然だけど学院生が増えてくる。


 休み前と明らかに態度が違うんだよな、よそよそしいというか……。


 騒ぐでもなく、友人といる者はヒソヒソと話をしている。


 一先ず騒がれたり、囲まれたりする事は無さそうだけど……。


「なんというか……研究会の人達以外と交流が出来なくなりそうですね……」

「どうなんだろ? 向こうが寄って来なくなりそうな気はするな」

「そうなると、マークさんとオリビアさんが心配ですね。二人ともSクラスではないですから」

「そうなんだよなあ……」


 マークとオリビアはAクラスだ。二人だけクラスで浮いてしまいそうだな……。


 二人の心配をしながら学院に辿り着き、久し振りの教室に入る。


「おはよう、二人とも」

「おっはよー!」

「おはようございます」


 もうすでに全員来ていた。


 それはそうだ、皆ゲートで来ているんだから。


 ちなみにゲートでの登校は、学院側に掛け合って了承を得ている。


 騒ぎになるからアッサリ了承が出た。


「お、アリス、ちゃんと制服だな」

「う……」

「ん? どうした? ……まさか……」

「そのまさかよ。この娘、朝御飯食べてそのまま来たらしいんだけど……」

「わー! 言わないでー!」

「パジャマで来たのか……」

「うう……」


 アリスが真っ赤な顔してる。


 やるなよって言われたばっかりなのに……。


 何回かに一回はやると思っていたけど、まさか初回からとは……。


「それで、一回帰って制服に着替えて、今さっき来たとこよ」

「流石アリス、期待を裏切らない」

「そんな芸人気質、持ってないからね!?」

「ということは、天然?」

「天然じゃなーい!」


 朝から騒がしくしていたが、教室に目を向けると……何か違和感を感じた。


 なんだ?


「んー? あ! なんか机増えてないか?」

「ようやく気付いたか」

「いや、二ヶ月振りだし、まさか机が増えてるなんて思わないじゃん」


 意外と気付かないもんだね。前まで三席、四席、三席だったのが、今は全部四席になってる。


 ということは……。


「おはよう、久し振りだな。ウォルフォードとクロードの婚約披露パーティ以来か」


 アルフレッド先生がやって来た。二人の生徒を連れて。


「今日からこの二人もSクラスで授業を受ける。挨拶は必要ないだろうから適当に座っていいぞ」

「よろしくお願いするッス!」

「よろしくお願いします」


 マークとオリビアだ。


「やはりこうなったか」

「ええ、究極魔法研究会……今はアルティメット・マジシャンズですか。そこに所属していて、魔人も討伐出来るような生徒が二人だけAクラスにいても、実力差で相当浮くと思いますので。特例ですが、この学年だけSクラスは十二人とする事になります」


 そっか、良かった。二人だけ別のクラスで浮いた存在にならないか心配していたんだ。


 まあ……これで、益々他のクラスとの交流が無くなりそうだけど……。


「今日は新学期初日だから、始業式とホームルームで終わりだ。あ、お前達は始業式で表彰されるからな」

「表彰?」

「当たり前だろ。今、魔人によって世界が危機にある中で、その危機を二度も救ったのが、アールスハイド高等魔法学院の生徒なんだからな」


 そういう事か。でも、表彰って?


「なんか賞状でも貰うんですか?」

「ああ、景品というか、この学院では卒業時に成績優秀者へ贈っている物があるんだが、それが授与される。別に卒業させる訳じゃないが、学院で授与する物としては一番上位の物だ。今回の功績が大き過ぎてそれでないと釣り合わないって事になってな」


 へえ、なんだろ?


 という事は、俺達は卒業時には何も無いって事か。前渡しで貰うようなもんだもんな。


「じゃあ、講堂に移動するぞ」


 アルフレッド先生の先導で講堂に向かうが……道中も皆の視線を感じるな。生徒側は騒ぐというより、戸惑ってる感じがする。


 そして講堂に着き、定番の挨拶やら新学期の緒注意やら、学院長の話やらが進んでいく。


『それでは、最後に、究極魔法研究会の皆さん、壇上に上がって下さい』


 拡声の魔道具を使った司会進行の先生の呼び出しで俺達は壇上に上がろうとして……。


『わああああああ!』


 途端に巻き起こった盛大な拍手と歓声に皆面食らっていた。


「あれ? 避けられてたんじゃなかった?」

「どうも違うみたいね」

「どう接していいか分からなかっただけだろ。それより早く行くぞ」

「あ、はい!」


 一人二人だとどう接していいか分からないけど皆となら……って感じかな?


 ともかく、皆に嫌われてる訳では無さそうなので一安心だ。


『皆さんも既に知っていると思いますが、一年首席のシン=ウォルフォード君率いる究極魔法研究会、この度名を改めてアルティメット・マジシャンズとなりました。彼等は、旧帝国を攻め滅ぼしついに世界へと進撃してきた魔人の集団を、見事に打ち破りました!』


 先生がちょっと興奮気味に伝えると、生徒にも伝播したのか、また大きな拍手と歓声が上がった。


『二度の魔人襲撃を二度とも阻止し、この度叙勲まで受けた彼等は、我がアールスハイド高等魔法学院の名を広く世間に知らしめる事になりました!』


 また歓声が上がる。


 なんか……先生が気持ち良さそうだ……ライブのMCでもやってる気分になってるんじゃないか?


『よって、本来なら、卒業時にのみ成績優秀者に贈呈している品を授与し、今回の功績の表彰とします。学院長、お願いします』


 こうして俺達は初老の学院長から今回の贈呈品を授与された。


 一体なんだろうな?


 贈呈品の内容に気を取られて、完全に油断していた。


『それでは、アルティメット・マジシャンズ代表、シン=ウォルフォード君、一言ご挨拶をお願いします』

「うえ!?」


 あまりに急な事だったから、思わず変な声出しちゃったよ!


 生徒達もクスクス笑ってる! アルフレッド先生め、言っといてくれればいいのに!


 ともあれ指名されたからには何か喋らないといけない。


 どうしよう……。


『あ、えーっと、アルティメット・マジシャンズ代表? のシン=ウォルフォードです。そういえばいつの間に俺が代表になったんだ?』

「究極魔法研究会の会長なんだから、最初からだろ」

『そういう事か。えっと……俺達は、別に英雄になりたいとか、こうやって表彰されたいとか、叙勲されたいとか思って行動してる訳じゃありません。魔人を野放しにする事は、世界の破滅に繋がると、そう思ったからです』


 俺の話を、皆じっと聞いてくれている。


『多分、チームの皆もそうだと思います。世界を、自分の住んでる国を、大切な友人や家族を守る為に頑張ったんだと思います』


 そう言って皆を見ると、皆頷いていた。


『まあ、ウチはじいちゃんとばあちゃんがアレなんで、勝手に自衛すると思いますし、むしろ攻め入れそうですけど』


 あ、また冗談挟んじゃった。


 ……まあいいか、今回は先生も笑ってるし。


『まだ魔人の脅威が去った訳じゃありません。むしろ、ここからが本番だと思っています』


 魔人は逃がしちゃってるし、シュトロームは旧帝都を陥として以来、表に出てきていない。


 この二戦は前哨戦に過ぎないと思っている。


 そう言うと皆の顔が引き締まった。


『これから総力戦になれば、皆にも招集が掛かるかもしれない。いや、騎士学院との合同訓練をしてるという事は、確実に招集されるでしょう』


 これは、残念ながら間違い無いと思う。でないと異例とも言える騎士学院との合同訓練などしない。


『その時に、自分を、そして大切な人を守れるように、世界の危機に立ち向かえるように頑張りましょう。えー……俺からは以上です。ありがとうございました』


 そう言って拡声の魔道具から離れると……。


『ウワアアアア!』


 これまでで一番の歓声が上がった。


 皆、決意を込めた目をしている。


 学徒動員とか、一番死にやすいからな。これからの授業と実地訓練で実力を上げてもらわないと。


「魔王ー!」

「魔王様ステキー!」

「良いぞー! 魔王ー!」


 その歓声はいらないから止めて!


『素晴らしい挨拶でした。皆さん、今学期も騎士学院との合同訓練はあります。多くの魔物を討伐し、少しでも実力を上げれるように頑張りましょう』

『はい!』


 魔王コールが止み、全校生徒の返事が、講堂に響いた。


 突如起こった魔王コールにゲンナリしながら皆のもとに戻ると、オーグが必死に笑いを堪えていやがった。


 元はお前のせいじゃねえか!


「クックック、皆の前で喋るのも大分慣れたみたいじゃないか?」

「お前は……そんな事ねえよ。正直まだ慣れねえわ」

「素晴らしい挨拶でしたよ? 皆さん、やる気に充ちてるじゃないですか」

「そうだな、これで皆のやる気が上がってくれれば、それに越したことはない」


 今の気持ちを正直に言っただけなんだけど、それで皆のやる気が上がったのなら、恥ずかしい思いをした事も無駄じゃ無かったかな?


 俺達の表彰を最後に始業式は終わり、また教室に戻ってきた。


「ところで、この贈呈品って何なんだろうな?」

「ん? ああ、シンは知らないのか」

「有名なんですけど、シン殿なら知らなくても無理はないですね」

「皆は知ってるんだ?」

「はい。騎士学院や経法学院はまた別の物ですけど、魔法学院の成績優秀者に贈られる物は……」

「物は?」

「魔石です」

「魔石?」


 なんだそれ? いかにも異世界っぽいけど、この世界では初めて聞いたぞ?


「あれぇ? ウォルフォード君、メリダ様から聞いた事ない?」

「初耳だな」


 そう言うと、皆がヒソヒソ話始めた。


「メリダ様に限って教え忘れたって事は無いと思うけどぉ……」

「シン殿が知らないって事は教えてないんでしょうね」

「これはアレだろ。シンに魔石の存在を教えると、またとんでもない物を創るからメリダ殿が自重したんだろう」

『ああ! なるほど!』


 皆の声が揃った。


「っていうか何なんだよ! 何を納得したんだよ!」

「帰ったらメリダ殿に聞いてみろ。学院で魔石を貰ったんだけどどうやって使うのか? とな」

「なんだそれ」


 皆は知ってたみたいだし、この世界じゃ当たり前の物なんだろうか?


 それにしては今まで見た事無いし……何なんだ? 魔石。


 結局、誰も魔石については教えてくれなかった。


 皆口を揃えて「メリダ様に聞いて」と言う。


 シシリーまで「えっと……私の口からはちょっと、お婆様から教えて貰った方が良いと思います」と教えてくれなかった。


 ……ばあちゃんは一体何を秘密にしたんだ? スゲエ気になる……。


 この日のホームルームは、今後の授業方針についての話で終了した。


 なんでも、俺達の魔法実習は自習になるらしい。


 学院側から教えられる事が無いんだそうだ。


 座学は変わらずにやるとの事。


 そんな伝達事項を聞いてから、その日は終了。昼前に終わったし、魔石の事をばあちゃんに聞きたいし、今日の研究会は無しにしてもらった。


 皆この後、変装して街に繰り出すらしい。


 外を気軽に出歩けなくなってストレスも感じているし、いつバレるか? というスリルも味わいたいんだと。


 チャレンジャーだな……。


 皆は各々ゲートを開き、一旦自宅へ。その後合流するとの事。


 俺も今日だけは早く帰りたかったのでゲートで帰る事にした。


 帰りはマリアも一緒だ。


「ただいま、アレックスさん」

「おや? お帰りなさいませ。ゲートで帰られたのですか?」

「うん、ちょっと急いで帰りたかったから。ばあちゃんいる? 出掛けてない?」

「門からは出られていないですね。マーリン様のゲートは分かりませんが……」

「そっか、ありがと」

「いえ。若奥様にマリア様も、お帰りなさいませ」

「はい。ただ今戻りました」

「すっかり若奥様呼びが定着してるわね……」

「そういえばそうね。すっかり慣れちゃった」

「……アワアワしない……これはひょっとして……」

「慣れちゃっただけだからね!?」

「……本当かしら?」

「も、もう! マリア!」


 後ろでなんかキャッキャやってんな。


 そんな事より、今はばあちゃんだ。いるかな?


「ただいま。ばあちゃんいる?」

「なんだい、帰ってくるなり騒がしいね。どうかしたのかい?」


 良かった、いた。


「うん。ばあちゃんに聞きたい事があるんだけど」

「なんだい?」

「魔石って何?」

「な! 一体どこでそれを!?」


 うお、ばあちゃんの動揺が半端じゃない。


 そんなに重大な事なのか?


「今日学院でチームが表彰されたんだ。その時に贈呈品として魔石貰ったんだけど……」

「ああ……ついに……ついにシンが魔石の存在を知ってしまったのかい……」


 力なくリビングのソファに座り込むばあちゃん。


 そ、そこまで絶望するような事?


「で? 魔石ってなんなの?」

「……はあ、いつまでも隠し通せる物じゃ無いし……問題を先送りにしてただけかねえ……分かった、教えてあげるよ」

「うん」


 観念したように教えてくれるというばあちゃん。


 ……そんなに決意しないと口に出来ないような物なのか? 皆知ってるのに?


「魔石ってのはね、魔道具に使う物さ」

「魔道具?」

「そう、シンに教えた魔道具ってのは、魔力を込めないと起動しないね?」

「そりゃそうでしょ」

「魔石はね、その魔力をずっと供給してくれる物なのさ」


 ずっと魔力を供給する。つまり……誰かが起動しなくても魔道具が起動し続けるのか。


 ん? それってどこかで……。


「あ! 森の家の結界魔道具!」

「そうさ。アレも魔石を使って魔力を供給し続けてる。それなりに大きい魔石を使ったからね。当分は持つ」

「へえ……それで?」

「それで?」

「いや……ばあちゃんがそれだけ隠してたって事は、まだ何かあるんでしょ?」

「何も無いよ。魔石は魔道具が人の手を離れても起動させ続ける事が出来る代物。それだけだよ」


 本当に? それだけでばあちゃんがひた隠しにするものなのか?


 シシリーとマリアを見てみると、大きく頷いていた。


 使用人さん達も同様だ。


「メリダの言う通りじゃよ。それ以上でもそれ以下でもありゃせん」

「そうなんだ。なら、なんで教えてくれなかったのさ?」

「なんで?」


 あれ? ばあちゃんの顔色が変わった……。


「魔石なんて物をアンタに教えてご覧! どんなとんでもない物を創り出すか分かったもんじゃないからだよ!」


 ええ? それが理由?


 助けを求めるようにシシリーとマリアを見ると……。


 あ、マリアがメッチャ頷いてる。


 シシリーはちょっと困ったような顔をしてるけど、否定はしてない。


 ……学院で皆が納得したのはこれか……。


「出来れば教えたく無かったんだけどねえ……学院に通っていればそのうち授業でやるだろうし、その時まで問題を先送りにしてたんだよ」

「問題って……」

「大問題だろう!」


 あ、マリアがまたメッチャ頷いてる。


「まあ、幸いな事に魔石は多く流通する物じゃ無い。それでも一つ手に入れてしまったんなら、それの使い方を教えてあげるよ」

「本当に!? ありがと、ばあちゃん!」

「はあ……一個だけなのが幸いかねえ……」


 そういえば、さっき多くは流通しないって言ってたな。


 成績優秀者にしか贈られないって言うし。そんなに希少なのか?


「魔石ってそんなに希少なの? どこで手に入れるの?」

「またシンの、なぜ? なに? が始まったかい……魔石はね、偶然見つかるしか採取方法が無いんだよ」

「偶然?」

「そう、鉱石の採掘場が多いね。それも浅い場所じゃなくて、深い場所を採掘してる時に、時々採掘されるのさ」

「ふーん……って事は地中深くでしか採掘出来ないって事か。それ以外の場所で見付かった例は無いの?」

「あんまり聞かないねえ。たまに見付かるらしいけど、そこで生成された物じゃ無くて、地面が隆起した時に地表に現れるみたいだね。滅多にある事じゃないよ」

「って事は地中でしか生成はされないって事か……」


 たまにしか発見されず、滅多に流通しないって事は……。


「……なんで魔石が生成されるのか分かって無い……って事?」

「そういう事さね」

「生成される条件が分かって無いから、魔石だけを重点的に採掘する事が出来ない。だから滅多に流通しないし希少だって事か」

「相変わらずよく頭が回るねえ……その通りだよ」

「なるほどなあ……」


 そんなに希少なら俺が見た事無くても不思議じゃないか。


 王都に来てまだ数ヵ月だし、ばあちゃんに教えてもらってな……。


「ああ!」

「な、なんだい!?」


 俺が急に大声を出したからばあちゃんが驚いてるけど、それどころじゃない!


「そうか! これを使えば……」


 通信機は常に起動した状態を保てる! 電池みたいな使い方が出来る!


「あ……でも数が少ないのか……」


 これを使えば無線の通信機が出来る。出来るけど……その魔石が必要な数だけ用意出来ない……皆の魔石を使って一つずつ創る事は出来るけど、これはあくまで貰った個人の物だ。使わせてくれとは言えない……。


「ああ……ダメかあ……」

「な、何なんだい? 一体何を思い付いて、何を諦めたんだい?」

「魔石の数が足りない……」

「だから希少だって言ってるだろう? 希少だからそれなりに値も張るんだよ」

「そっか……」


 折角答えを見付けたのに……無線の通信機を実用化させる事は、魔石があれば出来る。


 但し、魔石は希少で高価なので簡単に使えない。


 問題点はなんだ?


 魔石を使えなきゃ実用化出来ない通信機?


 魔石の数が足りない事?


 魔石が高価な事?


 通信機はこれ以上改良出来ない。完全に行き詰まった。だけど魔石を使うと完成させる事が出来る。でも希少で高価だから……。


「凄いですね……シンっていつもこうなんですか?」

「そうさ。アタシ達の苦労が分かるだろう? ちょっと疑問に思う事があればすぐコレだよ」

「でも、これがシン君の凄さの秘密かもしれませんね」

「そうさねえ。それは否定出来ないかねえ」


 皆が何か言ってるけど耳に入ってこない。


 そんな事より、問題は魔石の数が足りない事だ。


 なら魔石を掘り出すか? どこで? 生成条件は分かってないのに。


 そういえば、地中深くでしか採掘出来ないって言ってたな。


 ダイヤなんかと同じなのか?


 そういえば、前世では人工ダイヤは製造されていたな。


 確かあれは……。


「高温高圧……」

「なんだって?」


 魔石は地中深く……つまり高圧なところで生成されてる。


 ということは魔石は、魔力が地中深くで高圧が掛けられ、結晶化した物じゃ無いのか?


 どうなんだろう? 高温もいるのか?


「……試してみるか……」

「試す? 何を試すんだい?」

「ばあちゃん、ちょっと荒野に行ってくる」

「ちょいとお待ち! 一体何をするつもりなんだい?」

「んー、ちょっと実験」

「だからそれが何なのか……」

「多分見た方が早いけど、行く?」

「行くに決まってるさね!」


 こうして、爺さん、ばあちゃん、シシリー、マリアを連れて荒野にやって来た。


「悪いんだけどさ、魔力障壁を全力で張ってて。どうなるか分からないから」


 俺がそう言うと、皆全力で魔力障壁を展開した。


 魔道具の障壁も起動し、二重になってる。


「ちょっと過剰過ぎる気が……」

「そんな事ないわよ。それより、攻撃魔法なの?」

「いや、攻撃でも防御でもないな」


 そう言って魔力を集め始めた。


「こりゃまた……とんでもない量の魔力を集めとるのお」

「こんなに大量の魔力を使って攻撃魔法じゃない? 一体何を……ま! まさか!」

「どうしたんですか? お婆様」


 集めた魔力を量はそのままに高圧を掛けて圧縮していく。


 もっと……もっと小さく……もっと高圧で……。


 そうして集めてみるが……。


「ダメか……」


 圧縮を解除した途端に魔力が霧散してしまった。


「なら次は……」


 さっきと同程度の魔力を集め圧縮していく。


 但し、今回は高熱も一緒に与えて行く。


 小さく……高熱を与えて……もっと小さく……もっと熱く……。


 こうして圧縮していき、親指の第一関節くらいの大きさにまで圧縮し、しばらく高熱と高圧を掛け続ける。


 しばらくして圧と熱を解除してみると……。


「出来た……」


 掌の中には、透明で魔力を放つ、紛れもない魔石が出来上がっていた。


「やっったあああ! 出来たああああ!」

「なんだい! 何が出来たんだい!?」


 様々な諸問題を解決する成果に、つい絶叫してしまい、それを聞いたばあちゃんが飛んできた。


「ばあちゃん! ホラ! 見てよコレ!」

「なんだい? 何をした……んだ……」


 掌にある、たった今生成された魔石を見て、ばあちゃんが声を失う。


 世紀の大発見だからな。ばあちゃんも声が出ないんだろう。


「本当に……本当に創っちまったよ……」


 そう言うと、何故かガックリと膝をついた。


 あれ? ここは『凄いねえ!』って喜んでくれるところじゃあ……。


 なんか絶望してるみたいな……。


「なんじゃ? どうしたメリダ?」

「お婆様?」

「どうしたんですか?」


 三人も遅れて到着し、膝をついて項垂れているばあちゃんを見た。


「シンが……シンが……」

「ええい! シンがどうしたというんじゃ!?」

「シンが……魔石を創っちまったよ……」

「「「……は?」」」


 皆も唖然とした顔をしてる。


 これは……またやっちまったか?


「シンの掌にある魔石は……たった今、シンが生成したものだよ……」

「ちょっ、ちょっと見せてみい!」

「はい」


 爺さんにさっき生成したばかりの魔石を渡す。


「これは……! 小さいが紛れもなく魔石じゃ!」

「まさか、本当ですか?」

「魔石の生成って……未だに解明されていない世界の謎じゃなかったでしたっけ?」

「そうさ、たった今迄はねえ。シン、アンタどうやって魔石を生成したんだい?」

「魔石って鉱山の深い所で生成される訳でしょ?」

「そうだよ」

「採掘する時は掘り進んでるから分かり難いかもしれないけど、掘り出す前は上に大量の土砂があって、凄い高圧が掛かってる訳だよね?」

「言われてみれば……確かにそうじゃのう」

「という事は……魔石の生成には高い圧力が必要なんじゃないかと思ったわけ」

「……それで?」

「最初、圧力だけ掛けて魔力を圧縮したんだけど失敗したんだ。で、他に地中深くで得られるエネルギーは何かって考えて、熱かなと思って高熱も加えたら……」

「魔石が生成されたって訳かい……」

「多分だけど……魔石が発掘される鉱山って、近くに火山か断層があるんじゃない?」

「確かに……確かにあるぞい!」

「やっぱり」


 熱と圧力、これが魔石の生成に必要な条件か。


 もっとも、自然にある魔力が少しずつ圧縮されていって生成されるんだろうから、時間は掛かるんだろうけどね。


「はあ……本当に……どんな頭してんのかしら……?」

「まったく、コレだからこの子は……いいかいシン」

「なに?」

「言っとくけど、これは本当に他言無用だよ。魔石を創れるなんて知れたら……世界が別の混乱に陥るからね」

「希少だからだろ? それくらい分かってるさ。ただ、自分達用に少し欲しかっただけで」

「まさか、魔石の話をしてすぐに魔石の謎まで解明するとは思いもしなかったよ。本当に、とんでもない子だね」

「ほっほ、いいじゃないかの、常に進歩を止めないんじゃ。素晴らしい事じゃて」

「アンタがそんなだから……まったくもう……」


 魔石は希少で高価だって言ってたから、この人工魔石を流通させるつもりはない。


 さすがにそれをすれば世界が混乱する事くらい分かってる。


 だけど、無線通信機以外にも必要な分だけは生成するつもりだ。ばあちゃんには悪いけどね。


 そういえば、さっきからシシリーがおとなしいな?


「誰も解けなかった世界の謎をあっという間に……シン君……凄いですう……」


 なんか潤んだ目で俺を見てた。

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魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
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